最近読んだ本

4883752437ウェンディゴ (ナイトランド叢書)
アルジャーノン・ブラックウッド 夏来 健次
書苑新社 2016-10-20

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アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(夏来健次訳 アトリエサード)
 イギリスの怪奇小説の巨匠ブラックウッドの中篇3作を集めた作品集です。
 表題作『ウェンディゴ』は、カナダに伝わる精霊ウェンディゴを扱った作品。調査のため森林地帯に入り込んだ男たちの一人が、突然失踪し、行方が分からなくなります。ようやく見つけた男は、別人のようになり、なぜか自らの足を隠そうとしますが…。
 大自然の中、人間もほとんどいない場所で出会った怪異を描いていて、その迫力はただ事ではありません。描かれる怪異の得体の知れなさがまた素晴らしい。すでに邦訳のある作品ですが、ブラックウッド作品の中でも一、二を争う傑作だと思います。
 『砂』は、エジプトの秘儀を扱った神秘小説、『アーニィ卿の再生』もまた秘儀を扱っていますが、何事にも覇気の足りない青年に生命力をもたらそうと、家庭教師がその秘儀を利用しようとするという、変わったシチュエーションの物語で面白いですね。



4150121044ゴッド・ガン (ハヤカワ文庫 SF ヘ)
バリントン・J・ベイリー 大森 望
早川書房 2016-11-22

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バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』(大森望、中村融訳 ハヤカワ文庫SF)
 奇想で知られるイギリスのSF作家ベイリーの短篇集です。どれも突拍子もないアイディアと、それを固める物語のディテールが見事です。
 表題作の『ゴッド・ガン』は、神を殺す兵器を開発する男の話。結末も脱力系で、SFホラ話といった感じの作品ですね。
 宇宙でいちばん大きな音を追求する男を描いた『大きな音』、地底を掘り進む船を描いた『地底潜艦』、特殊な性的嗜好を研究する博士を描く『ロモー博士の島』、文字通り「脳の競争」を描いた『ブレイン・レース』、蟹の生殖活動を青春小説風に描いた『蟹は試してみなきゃいけない』など、奇想のオンパレードです。
 特に、『ブレイン・レース』の突拍子のなさがすごいです。主人公の男たちは、事故で死んでしまった仲間を助けるため、外科技術に優れているという異星人に手術を頼みますが、仲間が施されたのはとんでもない手術でした…。グロテスクかつ悪夢のような、ホラーSFの傑作です。
 『邪悪の種子』は、この作品集の中では、いちばんSFらしいSFでしょうか。不死とされる種族が地球に亡命を求め、それを地球は受け入れます。周りの人々が平和的に彼を受け入れるのとは異なり、外科医のジュリアンは彼の身体を調べて不死の秘密を探ろうと考えます。場合によっては彼を殺してでもと考えるジュリアンでしたが…。
 強烈な欲望を持つ男と不死人との攻防が、膨大な時間の経過を経て描かれる、スケールの大きな作品です。



4488010644奇妙という名の五人兄妹
アンドリュー・カウフマン 田内 志文
東京創元社 2016-11-11

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アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(田内志文訳 東京創元社)
 ウィアード家の三女アンジーは、祖母に病院に呼ばれます。祖母は、自分は十三日後の誕生日に死ぬことになると予言するとともに、不思議なことを言い出します。
 祖母は五人の孫の誕生時に、それぞれ〈力〉を与えたというのです。それらは、危機を回避する力、道に迷わない力、希望を失わない力、許しの力、戦う力。しかしその能力によって、孫たちの人生は台無しになってしまった。死ぬ前に、それらの力を消すために、兄妹全員を祖母の元に連れてくる必要があるのだと。
 祖母の言葉を信じたアンジーは、兄妹を集める旅に出ますが…。

 以前に邦訳の出た『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』同様、ファンタジーがかった設定が魅力的な作品です。
 この作品で真っ先に目に付くのは、兄妹に与えられた不思議な力の数々です。面白いのは、それらの力が、特殊能力というより「性質」に近いものだということ。例えば「許しの力」は、どんなにひどいことをされても、相手を「許し」てしまうというもので、そのために他の人々から利用されてしまうこともあるというのです。
 それぞれ力を持ちながら、またそれを持つがゆえに、兄妹たちは人生において躓いています。一番役立ちそうな「戦う力」でさえ、それを持っていてもほとんど何の役にも立たないのです。
 兄妹がそれぞれ抱える問題を描きながら、予告された祖母の死までに兄妹を集めることができるのか? というタイムリミットサスペンスにもなっていますが、ヒロインを含め、兄妹たちの旅の行程にそれほどの切迫感はありません。人生におけるしがらみが、回想シーンを含め描かれていく感じでしょうか。
 旅の途中においても、それほどの困難があるわけではありません。また、トラブルがあるとしても、兄妹たちの力がそれほど活用されるわけでもないところに拍子抜けしてしまうのですが、そもそも作者の狙いが「能力を使って危機を乗り越える」といった方面にないようなので、そういう趣向を期待すると、あまり面白くないかもしれません。個人的には、これはこれで面白いと思います。
 兄妹だけではなく、圧倒的な支配力を持つ祖母、行方をくらまして死んだとされる父親、精神の壊れてしまった母親など、家族の面々が色彩豊かに描かれます。寓意に満ちたファンタスティックな家族小説として、一読の価値はある作品でしょう。



4756245536KOMA―魂睡
ピエール・ワゼム フレデリック・ペータース
パイインターナショナル 2014-10-12

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ピエール・ワゼム、フレデリック・ペータース『KOMA―魂睡』(鈴木賢三訳 パイインターナショナル)
 父親と共に煙突掃除の仕事をしている少女アディダスには、突然気絶してしまうという持病がありました。ある日、アディダスは、煙突の奥深くで、巨大な怪物と出会います。実は、地中では、地上の人間の感情や体調を管理する機械が存在し、怪物はそれらの仕事に従事していたというのです。やがて、機械の存在を知り、利用しようとする勢力が現れますが…。

 スイス作家によるバンドデシネ(コミック)作品。世界はあるシステムによって支配されており、その支配を覆そうとするヒロインを描くファンタジー作品です。
 「機械」によって管理されているということから、固定されたシステムなのかと思いきや、世界は精神的な力によって作られているということが判明します。後半から登場する、その精神的な世界の描写が何とも魅力的です。
 世界は「作られている」というフィリップ・K・ディック的な序盤から、世界創造に至る後半まで、スケールの大きなファンタジーといえます。



4336058962ぼくのミステリ・クロニクル
戸川安宣 空犬太郎
国書刊行会 2016-11-17

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戸川安宣著、空犬太郎編『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)
 東京創元社の名物編集者として知られた著者の回想記です。大きく「読み手」「編み手」「売り手」としての面から、自らの人生を語っています。
 「読み手」としては、子供の頃から青年時代に至る読書について語り、「編み手」としては、東京創元社の編集者として編集実務を語り、「売り手」としては、ミステリ専門書店「TRICK+TRAP」の経営と販売について語るという、多彩な面からのアプローチになっており、ミステリだけでなく、本全般について興味のある人には、面白く読める回想記になっています。
 ジャンル小説のファンや東京創元社のファンとしては、やはり編集者時代のパートが、いちばん関心を持って読めるところでしょう。
 《日本探偵小説全集》を企画したときに、普通の文庫2冊分の場所を取ってしまうのだから、2冊分の売上げがなければ駄目だと言われたことや、エーコ『薔薇の名前』が文庫化されない理由など、興味深いエピソードがたくさん出てきます。
 個人的になるほどと思ったのは、もともと翻訳もの専門だった東京創元社が日本作家の作品を出すようになったというところ。翻訳ものがあまり売れなくなった現代において、日本作家の作品を取り扱うようになったことは、社にとって必要なことだった、という認識のようですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

カウフマンはやっぱり楽しみです。
寓話ならやはり "「能力」があったからといって人生が幸せになる訳ではない"、という展開に、少なくとも最終的になるであろうことは大体予測はつくのですが、なんだかそれが徹底していそうですね。
作品の主眼が能力ということにあるのか、家族ということにあるのか、読んで確かめたいと思います。お正月向きなのはこちらでしょうか・・・

ベイリーは、アイディア小説・奇想小説の人、と思えてくる内容ですね。今回ご紹介頂いて、そのことが腑に落ちたというか、より興味がわきました。これは買いかなと。SF短編は、発想が先に立つ分アイディアストーリーになることが多いのではと思ったりする一方で、イーガンやティプトリー、レムやディックなどはテーマ性が先に立つ印象があるので、彼らとは別の一群に属する作家という感じかなと思いますが、類似の作家としては誰が挙がると思われますか? あまり奇想という感じではないですが、ちょっと頭に浮かんだのはジョン・ヴァーリイ・・・あたり…?

ブラックウッドは「怪奇小説」の時代の作家としては結構好きな方なんですが、読まなくなって久しいなぁと… 現代の観点から見たら、とか今読んだら面白い、というのが出てくると面白くなってくるんですが…
雰囲気の盛り上げ方が上手くて、怪奇作家としては割とサスペンスの味を出せる作家さんかなぁなどと思ったりもしますが(その意味では今読んで「も」面白い作家さんと言えるかも)、なにぶん読んだのが昔なので…
ブラックウッド、今読んだら面白い作家さんと言えるでしょうかね?

KOMAは、梗概やご紹介文を読んだだけだと、面白いのか読む価値があるのか判然としないなぁという印象で、このままだと高いだろうし多分手に取らないなぁという感じ。
実はいい奴?の怪物やガジェットの描写が魅力的だと良いなぁと思う一方で、ストーリー運びや支配体制のリアリティなんかに面白さの多くを追う感じの作品、なのかなぁと予想しますが・・・
「ミステリ・クロクニル」、何だか読書会のことを連想しましたが、国書刊行会から出たものなんですね。エーコ『薔薇の名前』が文庫化されない理由というのは知りたい気もしますが、さすがにそのためだけには買えないなぁとも。
東京創元社は、創元推理文庫が昔々は表紙その他が地味だったりと、同じ翻訳もの老舗の早川と比べてラインナップも地味でちょっと冴えない(クラシックが多め)、ただ廃刊も少ない、といった印象でしたが、通の方からすると表層的に過ぎる見方かも。
何れにせよもう今となっては見た目も内容もそん色ない印象で(一方で廃刊も同様に多くなった感じ)、一時期などむしろこちらの方が元気な印象さえありましたが、著者はいつ頃を担当されていた方なんでしょうね。
【2016/12/10 15:43】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
カウフマンは、手放しでオススメ!というには、ちょっと微妙な作風なんですよね。読者的にはここはこうしてほしいな、という勘所をわざと外していくような展開が多くて、エンタメとして読むと不満が出るかもしれません。
正直「能力」はダシであって、基本的には「家族小説」だと思います。

ベイリーは、収録作品どれも面白くて、堪能しました。独自の世界観構築が上手いので、近い作家というと、ヴァーリィよりは、ラファティとかアヴラム・デイヴィッドスンあたりでしょうか。

ブラックウッドは、僕らが「怪奇小説」として思い浮かべるような正統派真ん中の作風の作家ですよね。なので、今から見るとやっぱり「古い」のは「古い」です。
ただ、ときどき箍が外れたような作品があって(例えば『人間和声』とか、この作品集で言うと『アーニィ卿の再生』)、それらは今でも新しく感じますね。
この作家は未訳がまだたくさんあるので、そのあたり、もっと多面的な作家なのかもしれません。

『KOMA―魂睡』は、個人的にはお気に入りになりましたが、合わない人には合わないかもしれません。後半の展開が、かなりもやもやしているので…。記事に書いたように、作家で言うとフィリップ・K・ディックに近い感じです。あんまり、海外コミックでは見ないタイプの作風ではありますね。

『ミステリ・クロクニル』、著者の戸川さんは、わりと初期から2000年代前半まで関わっておられた方ですね。タイトルに「ミステリ」とはあるものの、思ったほどミステリに関わる内容は少なくて、出版事業そのものに関する話が多かったです。個人的には面白く読みましたが。
最近は創元推理文庫も日本作家の作品が多くなってしまって、その分野に関する限り、ハヤカワよりも盛況に見えますね。
ちなみに、『薔薇の名前』未文庫化の理由は、わりと人的なものでした。
【2016/12/10 18:49】 URL | kazuou #- [ 編集]

5つの「力」
「奇妙という名の五人兄妹」を読みました。

ここでの個々の「力」があまり少年漫画などで連想されるような、超能力みたいな派手さのないものであるのは、恐らくこれが人生において「あそこで危機を回避できていたら」「でもどうしても許す気になれない」「ここで刃向える力さえ持っていたら」などといった、よく感じるであろう悔恨の情みたいなものから逆説的に導き出されたものだからではないのかなぁ、というのが個人的な推測です。
その力が実はネガティブな意味しか持たない、というところが前提なので、その力を積極的に利用するという方向性は、多分ハナから想定されていなかったのでしょうし、あと積極的に利用できたとなると自己肯定する方向に話の流れが変わってしまうような…
寓話ですから、少年漫画的に主人公が力を使って活躍して勝利を勝ち取る! というのはまぁあまり無いかなぁというのもありますね。

物語は面白く読みました。
カナダ人作家ですが、展開にアメリカっぽいなぁと感じるところがいろいろありましたね。アバの王国?の張りぼてっぽい感じですとか…。そこが寓話でありながら現代的で、不思議な印象を醸し出しているんですが。何か筋立てはまるで違うものの、ヴェンダース監督の映画「パリ・テキサス」をちょっと連想したりも。

少々不満だったのは、「能力」を解かれた後の、アンジー以外の登場人物の変化が急過ぎたこと。見えない、地味な力ゆえに、本当に解放されたのだと実感するまでにも少々時間がかかる気がしますし、更にそのことを受けて生き方が変わって行くまでとなると、実際には更に結構な時間がかかる気がします。
ファンタジーやホラー、SFは、法則性や出来事、別の生き物のあり方などに多少飛躍があっても問題ないのですが、その分人間の側の心の動きなどはちゃんとしていてほしいなぁと…
(でもまぁ、アンジーに関して最後の1章を使って、人を許すということを自分の人生を使って改めて会得していくということを描いてあるのだから、まぁいいのかな、とも。)
【2017/01/15 09:14】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
この作品の「力」は、ほとんど「性格」とか「性質」に近いですよね。その意味で、超自然的な設定を除くと、自分を変えて人生をやり直したい!という、割と普通の成長小説として読めると思います。
「力」は「呪い」であり、その「呪い」を解く、というのがメインテーマだと思うのですが、そもそも兄妹の「力」のメリット・デメリットの描写が薄いので、なぜ「呪い」を解かなくてはならないのか?という説得力が足りないように感じました。
「能力」を解かれた後の展開も、確かに駆け足で、全体的に「寓意」としては、すごくわかりにくかったという気はします。

「王国」の設定とか、ところどころのファンタジーめいた描写はすごく魅力的なので、もっとブラッシュアップできる作品じゃないかとは思いました。
【2017/01/15 11:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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