二つの「弾丸」をめぐって  SFとファンタジーに見る世界観の違い
sfsahou.jpg 壜の中の世界 (文学の冒険シリーズ)
 ベン・ボーヴァ『SF作法覚え書 あなたもSF作家になれる』(酒井昭伸訳 東京創元社)は、SF作家にして編集者でもあるベン・ボーヴァが、SF小説の作法について解説した技法書です。
 文章の技法などには触れず、あくまでプロットやお話の組み立て方に特化して書かれています。例となるSF短篇を取り上げ、それを元にいろいろ解説していますが、それぞれの章で、モデルとなる短篇がまるごと収録されているのが特徴です。
 収録された短篇はボーヴァ自身の作品で、技法書でありながらボーヴァ短篇集でもあるというお得な作り。
 さて、この本に収録された作品で『平和的な人々』という作品があり、これが科学的な設定を使った面白い短篇でした。

 地球のあちこち、そして衛星上でもロシアとアメリカが争いを起こしているなか、月基地においては、両国が平和的に共存しています。国連代表トーガスンは、訪れたアメリカ基地で、平和的に共存するための方法を探り出そうとします。話相手のパットン大佐から、突然伏せるように言われたトーガスンは、伏せた直後に何かが壁を貫通していくのを目撃します。
 それは大量の弾丸でした。月に基地を建設した直後に、小競り合いにおいて発射された弾丸は、摩擦がないために、月の周回軌道に乗り、ずっと飛び続けているというのです…。

 実際に月で発砲して、弾丸が飛び続けることになるかはともかく、科学的には説明がつけられ、読者にはなるほどと思わせる作りになっています。
 一方、ドイツの作家クルト・クーゼンベルクの『休まない弾丸』(前川道介他訳『壜の中の世界』国書刊行会収録)という短篇では、定期的に弾丸が飛んでくる…という、同じようなシチュエーションが扱われています。

 ある射手が試し撃ちのような形で発射した弾丸には、魔女の血が含まれていました。その影響で、弾丸はエネルギー法則を無視し、永遠に飛び続けることになります。障害物があってもそれを貫通し、突き進むのです。
 やがてその軌道が判明し、観光のような形で有名になる一方、その軌道に人を誘い込み殺人に利用する人物も現れますが…。

 こちらでは、魔女の呪い(?)で永遠に飛び続けることになった弾丸がテーマになっています。物理的に止められないため、これを利用して殺人が起こったりと、様々な事件が発生します。
 同じような事象を取り上げながら、科学的な説明があるのかないのかで、だいぶ作品のカラーが変わってくるものですね。『休まない弾丸』でも、一応、弾丸が飛ぶ理由は述べられています。ただ理由が「呪い」とか「魔術」だった場合、SFとは捉えにくくなっており、ジャンル分けするとすれば、ファンタジーになるのでしょうか。

 料理の仕方次第で、いろんな作品が出来るという例ではあるのですが、ただ、どちらが魅力的かといえば、圧倒的にクーゼンベルクの作品なのですよね。
 ここまで書いてきて、ふと思い当たりました。自分は真相が明確でない物語が好きなんじゃないかと。例えば、イタロ・カルヴィーノとか、スティーヴン・ミルハウザーの一部の作品によく登場する言い回し、「~であると言われている」「~であるという説もある」「~であるのかもしれない」という部分が、とても好きなんですよね。
 事象に対して、しっかりとした説明を与えれば、リアリティが増す…。確かにそうなのですが、物語のジャンルによっては、曖昧にした方が魅力的になることもあるのです。真相ははっきりしないが、Aかもしれない、またはBかもしれない。物語に広がりが出るというか、読者の想像の余地が増えるというか。そのあたりに魅力の核があるような気がしています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
超低軌道ミニ衛星
そういえば石原藤夫の惑星シリーズにもあったような。
その惑星では、建物にも山にも、人の背の高さくらいで一直線に小さな穴が穿たれていた。その謎を探るヒノ・シオのコンビに危機が迫る…という話だったような気がします。
【2016/12/01 07:34】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
他にも同一ネタがありましたか。SF作家は、わりと思いつきそうなアイディアではありますね。ただ、SFよりファンタジーにした方が面白みは増すと思います。
【2016/12/01 19:24】 URL | kazuou #- [ 編集]


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