未知の力  ステファン・グラビンスキ『狂気の巡礼』
4336060746狂気の巡礼
ステファン・グラビンスキ 芝田文乃
国書刊行会 2016-09-23

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 ポーランドの怪奇小説作家ステファン・グラビンスキによる短篇集『狂気の巡礼』(芝田文乃訳 国書刊行会)が刊行されました。鉄道をテーマにした怪奇小説集『動きの悪魔』に続く、第2集になります。
 大まかに2部からなり、それぞれグラビンスキの本国版短篇集《薔薇の丘にて》全六篇と、《狂気の巡礼》からの八篇で構成されています。

 《薔薇の丘にて》は、壁に囲まれた庭園で漂う薔薇の香りから始まる幻想物語『薔薇の丘にて』、無性に神経を逆なでする男をめぐる物語『斜視』、森に迷い込んだ男が森小屋の窓から見たシルエットはまさに殺人現場だった…という『影』、精神感応を扱った『海辺の別荘にて』などを収録しています。
 全体に神経症的な雰囲気に支配された幻想小説集で、エドガー・アラン・ポーを思わせる作りになっています。中でも、『影』は、「影」が作る過去の惨劇のイメージと、それに囚われる人間の狂気を描いており、一読の価値があります。

  《狂気の巡礼》収録作品は、『動きの悪魔』に近い味わいの作品が多いですね。
 『灰色の部屋』は、こんな物語。不快だった前の部屋を離れ、新しい部屋に移り住んだ男。しかし、その部屋でも同じような不快感が取れないのです。調べたところ、前の住人は、男が前に住んでいた部屋の前の住人と同一人物だったのです。前の住人の精神的な力が部屋に残っているのではないかと考える男でしたが…。
 霊が憑いているのでは…という心霊実話テイストのような始まりから、グラビンスキ流の怪異の解釈が面白い作品です。
 物語の起伏に富み、集中いちばん読ませるのが『チェラヴァの問題』です。夜になると高名な学者の家に出入りする、浮浪者然とした粗暴な男。学者の妻は、2人の関係を懸念しますが、なぜか2人が同時に起きて話をしているところは見たことがないのです。妻から依頼を受けた主人公は、彼らの関係を探りますが…。
 学者の裏の顔は希代の犯罪者なのか? それとも二重人格なのか? グラビンスキ版『ジキル博士とハイド氏』ともいうべき力作です。

 本作品集でも、『動きの悪魔』収録作同様に、過去の情念や未知の力が、場所や人に影響を及ぼす…というグラビンスキ独特のテーマがまま見られます。怪異現象を、超自然的現象と見なすのではなく、人間が認識できないだけではないか、という疑似科学的な姿勢が見られますが、かといってそれらを解明が可能なものとも考えていない…という微妙なバランス感がまた、グラビンスキ作品の魅力でもありましょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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