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B01KNLFH8Uハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)
クレア・ノース 雨海 弘美
KADOKAWA / 角川書店 2016-08-25

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クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(雨海弘美訳 角川文庫)
 1919年生まれのハリー・オーガストは、死んでも再び生まれ変わる能力を持っていました。自分の能力を認識したハリーは、人生のたびごとに様々な経験を重ねていきます。能力の存在を他人に漏らしたことから、拷問にかけられることになったハリーを救ったのは、自分と同じ能力を持つ人間たちの組織「クロノス・クラブ」でした…。

 何度も生まれ変わって人生をやり直すという「リプレイもの」作品です。このジャンルの特徴である、人生のトライアル・アンド・エラー部分ももちろん面白いのですが、この作品の興味深いところは、リプレイ能力の特質を組織的に研究し、活用している、というところでしょうか。
 能力者たちが記憶を持って生まれ変わり、話せるようになった直後に、その時点で老齢の別の能力者に情報を伝えていけば、どんどん過去に情報を伝達することができる…という壮大なテクニックが使われています。
 そして、それにより未来の可能性が閉ざされることを知ったハリーは、それを防ぐために活動を始めるのです。
 殺せないはずの能力者の殺し方が判明するなど、能力者同士の殺し合いやスパイ活動などのアクション場面も登場します。他にも、主人公が体験する様々な異国や体験、家族との葛藤など、さまざまなジャンルの要素が詰め込まれており、エンタテインメントとして非常に面白い作品です。



4309207162むずかしい年ごろ
アンナ スタロビネツ 沼野 恭子
河出書房新社 2016-09-26

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アンナ・スタロビネツ『むずかしい年ごろ』(沼野恭子、北川和美訳)
 ロシアの女流若手作家によるホラー風味の短篇集です。
 双子の息子が何者かに体を乗っ取られ異常を来たしていく様を、妹と母親の視点から描くという、表題作『むずかしい年ごろ』が強烈な出来栄え。
 いわゆる「侵略もの」なのですが、その「侵略」が長期にわたるのと、息子の行動の得体の知れなさが、不気味さを増幅しています。
 他に、人間が人造人間を購入する未来社会を描く『生者たち』、別世界に迷い込み二つの家族の間で揺れ動くという『家族』なども面白いですね。



4151821015ラスト・ウェイ・アウト (ハヤカワ・ミステリ文庫)
フェデリコ・アシャット 村岡 直子
早川書房 2016-08-24

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フェデリコ・アシャット『ラスト・ウェイ・アウト』(村岡直子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
 妻子の旅行中に自殺を企てたテッド・マッケイ。決行寸前に、見知らぬ男が現れ、ある組織からの依頼を話し始めます。半信半疑のうちに依頼を受ける事になったテッドでしたが…。

 次から次へと、めまぐるしく変転する展開は実に魅力的です。不条理な出来事が頻発する怪奇サスペンス、というのが前半の印象ですが、だんだんと合理的に謎が解き明かされていき、後半は正調サスペンスになる…といった感じでしょうか。
 最後に、ひとつまみの幻想的な風味を忘れないところも好感触でした。



4062202190QJKJQ
佐藤 究
講談社 2016-08-09

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佐藤究『QJKJQ』(講談社)
 猟奇殺人鬼ばかりの一家の長女として育った亜李亜は、ある日、兄が殺されているのを発見します。やがて母も姿を消すに及び、兄を殺した犯人を捜そうとする亜李亜でしたが…。

 目を引く設定が使われていますが、犯人対主人公といった単純な対決の構図にはなりません。どちらかと言うと、主人公と家族の真実を探し求める物語、といった方がいいでしょうか。
 あらすじから想像されるような方向へは進まないのですが、先の読めなさ、という意味では、非常に刺激的な作品です。



459407565730の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)
江坂遊 選
扶桑社 2016-09-29

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江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』(扶桑社文庫)
 国内外のショートショートを集めたアンソロジーです。
 星新一『おーい でてこーい』、ビアス『アウル・クリーク橋の一事件』、サキ『開いた窓』、ジェイコブズ『猿の手』、ストックトン『女か虎か』など、傑作ぞろい。逆に言うと、極めつけの名作が集められているため、ある程度読書歴のある人なら、既読のものが多いのがちょっと残念ですね。
 名作ぞろいだけに、選者のカラーがあまり感じにくいのですが、例えば阿刀田高『マーメイド』、赤川次郎『指揮者に恋した乙女』あたりは、凝ったセレクションではあると思います。阿刀田高など、もっと名作があるかと思うのですが、あえて艶笑譚を持ってきたところがポイントでしょうか。
 名作の多い作家、例えば、ブラッドベリやフレドリック・ブラウン、城昌幸、山川方夫など、自分だったらどんな作品を入れただろう、と自分なりのセレクションを考えるというのも、楽しみ方の一つかもしれませんね。
 2集、3集も期待したいところです。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ご紹介ありがとうございます
スタロビネツ『むずかしい年ごろ』、やはり普通小説系統の、キャロル・オーツ辺りに似た感じの系統なんでしょうかね…
人間存在に関する疑問や不安定さを、色濃く感じさせる作品なのではと予想しますが、純文学系統の作品ならエンタテイメントの軽みはなく、読むには少し体力と覚悟が必要な感じかなぁと。短編とはいえ、どれもテーマ的には重量感と言うか、(作品世界中で)人を信じられない負荷感のようなものが読み進むにあたってありそうなので。
(とはいえ、興味を引かれるので読んでみたいです)

『ラスト・ウェイ・アウト』『QJKJQ』もそれぞれに面白そうで、『ラスト・ウェイ・アウト』は設定だけ聞くと、それなりに聞いたことが無くはないようにも感じますが、文庫版なので手を出しやすいしチャレンジする価値はあるかなと。
『QJKJQ』は先が読めないというのは良いですね。面白そうですが、ハードカバーだし手を出すにはもうちょっと内容や評価を確認してからになるか… でもあまりその辺を確認しすぎると面白みが半減するかもしれないし難しいところです。

『30の神品』は読み逃している "神品" がないか確認するのにも良いかもしれないですね。
というのは私自身が、実は『おーい でてこーい』や、『アウル・クリーク橋の一事件』、タイトルに見覚えがなく、読んでいない可能性が高いので…という訳なだけではあるのですが…
星新一など、「午後の恐竜」や「ボッコちゃん」などそれなりには読んだのですが、そこまで頑張って作品を追ってはいないので、読み逃しは結構ありそうなんですよね。ビアスは作品集自体、そんなにない気がしますし。
因みにサキは作品集によって結構印象が違って、昔々新潮文庫版の作品集を読んだ時はちっとも面白いと感じなかったので(読んだ年齢もある?)、「開いた窓」の印象もあまりよくないんですよね……

『ハリー・オーガスト、15回目の人生』、きっと読んだならそれはそれで結構面白いんだろうな、という感じですが、ただご紹介を見ただけだと、あまり食指が動かない(「面白そう!」ではないんですよね…)という辺りが、これまで正統派のループものを読んでこなかった原因でもあるんだろうと思いますが・・
"人生のトライアル・アンド・エラー" に対してその詳細を面白そうと連想できるか、その感覚を得られずにいるかの差なのかな、とも思うので(この系統の作品に対する "成功体験" がない、とか・・・?)、先ずは一度トライしてみること、なのかもしれないですが…
全く個人的な話ですみません。
【2016/10/10 23:28】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
スタロビネツ、意外に読みやすい作品でした。
ただ、テーマ的には確かに重量感のある作品集なので、好き嫌いは分かれるかもしれません。ロシアとか東欧の作品って、純粋なエンタテインメントって少なくて、何かしらテーマ的に重いものが入ってきてしまうのは、お国柄というべきなんでしょうか。

『ラスト・ウェイ・アウト』『QJKJQ』、どちらも、変格サスペンス、といった感じの作品でした。「風変わりさ」では『QJKJQ』に軍配が上がるでしょうか。

『30の神品』は、定番作品を見渡す…という意味では、もってこいのアンソロジーですね。
サキは、訳者によって、けっこう印象の変わる作家だと思います。新潮文庫版だと地味な印象ですが、ちくま文庫(旧サンリオSF文庫)から出ていた『ザ・ベスト・オブ・サキ』なんか、すごく面白く読みました。

『ハリー・オーガスト』は、ある意味正統派の《リプレイもの》ですね。このジャンルの作品って、見方を変えると「何度でもやり直せる」という、ご都合主義の塊なので、そういう面であまり興味を持てないと、楽しめないかもしれません。
【2016/10/11 21:01】 URL | kazuou #- [ 編集]

むずかしい年ごろ
表題作に胸を抉られました。岸本佐知子さんの「楽しい夜」収載の「アリの巣」と同じような道具だててすが、読後感が全く違います。砂糖すら禍々しい。母が子供たちを守らずに現状維持で事なかれ主義なのが怖い!妹が可哀想過ぎます。30の神品は既読が殆どですが、新刊書店でも図書館でも置いていない作家さんの作品を読めるのが嬉しいです。艶笑譚とか絶滅しましたものね。
【2016/10/28 12:53】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
『アリの巣』は僕も思いました。あとはジョージ・R・R・マーティン『サンドキングス』 あたりとも一脈通じる感じの作品ですね。とにかく、読後感の禍々しさは強烈で、「侵略ものホラー」としては、記憶に残る作品になりました。

『30の神品』は、良かれ悪しかれ、バランスのとれたアンソロジーだと思います。適度に珍しい作品も入ってるのでお買い得ですね。
艶笑譚は、本当に見なくなりましたね。その意味では、ダールの『オズワルド叔父さん』なんか、復刊は難しいのかもしれません。
【2016/10/29 06:55】 URL | kazuou #- [ 編集]

「むずかしい年ごろ」を読みました。
表題作が超強烈でした。ボブ・レマンの「窓」以来の衝撃でしょうか…

色々とありますが、見事だと思ったのは、いつの間にか物語の核がマキシムからヴィーカに移っている所でした。母親のマリーナにしても、単なる「リアクション担当」で終わるのではなく、終盤には良くも悪くも能動的に動いていました。原題の「過渡期」というのは、時間の経過に伴って各々の役割が移り変わる、という意味でもあるのかな、そして人間の役割と蟻の役割がリンクしているのかな、と感じました(そう考えると、この家族に父親がいない理由も納得がいきます)。

この人の作品は、私には子供が出てくる話の方が面白く感じました。
【2017/03/07 22:58】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
表題作は、中でも飛びぬけた出来ですよね。視点が変わるのも面白いところだと思います。
子供がメインになっていることもあって、結末はかなりショッキングでした。
【2017/03/08 20:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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