甘美なる狂気  アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』
ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)
ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫)アンドレ・ド ロルド Andr´e de Lorde

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 20世紀初頭のパリ、残酷さを売り物にした恐怖演劇を上演し、話題を呼んだ劇場がありました。その名は「グラン・ギニョル座」。やがてその名前《グラン・ギニョル》は、恐怖演劇の代名詞になります。
 『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦編訳 ちくま文庫)は、その《グラン・ギニョル》の看板作家であった、アンドレ・ド・ロルド(1869-1942)の恐怖短篇を集めた作品集です。

 「恐怖小説」とは言いつつも、ロルドの作品には、幽霊や悪魔、超自然的な現象などは登場しません。そこにあるのは、人間が人間に与える残酷な行為や、狂気に囚われた精神の恐ろしさなのです。
 短い枚数の中に、殺人や拷問など、非常にショッキングな情景を盛り込むのが、ロルドの常套手段です。そのため、ショッキングな行為だけが突出しており、物語が充分に展開する前に終わってしまう作品もあるほど。

 恐怖演出が決まったときのロルド短篇は非常に鮮やかで、例えば、違法な仕事に手を染める医者の父とその娘を描く『助産婦マダム・デュボワ』であるとか、病で動けない妻の過去の不貞を知った男の復讐を描く『恐ろしき復讐』などのクライマックスシーンは実に凄絶。
 また、義理の息子を亡くした継母への疑惑を描く『デスマスク』、愛に殉じた男を語る高級娼婦の物語『無言の苦しみ』など、残酷ではあっても哀感を感じさせる作品もあります。
 集中では長めの作品、『無罪になった女』は、子供殺しの容疑者になった女を描く法廷劇。意外にも硬派のクライム・ストーリーで、なかなか現代的な印象を受ける作品ですが、綺麗に終わらせられるところを、わざわざ「悪趣味」にひっくり返します。ですが、これがロルド作品の面白さなのでしょう。

 ロルド作品では、登場人物に深みはあまりなく、その人物像についても最低限しか描写されません。物語のシチュエーションも、恋人や兄弟の仇であるとか、三角関係であるとか、非常にありきたりなものばかり。言うならば、残虐な行為を扱うためだけに作られたステレオタイプなのです。
 ですが、ステレオタイプゆえに、作中で血が流れても、残酷な行為が行われても、どこか作り物めいた印象を与えます。そのため読者は、一時的にショックは受けても、心から傷つくことはありません。「安心して」恐怖を味わえるのです。ここに当時の人々を熱狂させた、ロルドの魅力の一端があるような気がします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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