謎だらけの物語、または「真相がわからなくても人は物語を楽しめるのか」
B01CK7EE3Oミステリー・ゾーンDVDコレクション(67) 2016年 3/30 号 [雑誌]
アシェット・コレクションズ・ジャパン 2016-03-16

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 オムニバスドラマシリーズ『新トワイライトゾーン』に、『恐怖のメッセージ』(原作シドニー・シェルダン)というエピソードがあります。こんな話です。
  とある町で広がっているという伝染病について調べるため、派遣された調査員エドワード。あらゆる人間に感染するというその病は、人の正気を失わせるというのです。調査の結果、感染した人間が口にする、あるメッセージを耳にしたとたん、その人間の正気が失われることがわかりますが…。
 人間の正気を失わせる「恐怖のメッセージ」が描かれるのですが、そのメッセージの内容は全く描かれません。表面上、人から人へと、ただ狂気が伝染していくという演出が効果を上げています。

 『恐怖のメッセージ』を観ていて、既視感を覚えました。これと似たような話を、観たり、読んだりしたことがあるような気がする…。



4894565900夜が明けたら (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所 1999-11

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 まず、思いつくのが、小松左京のショート・ショート『牛の首』『夜が明けたら』ハルキ文庫ほか収録)。
 「牛の首」という、タイトルだけが、世間に流布している怪談がありました。誰もが口をそろえて「あんな恐ろしい話は聞いたことがない」と言うのです。しかし、具体的にどんな話なのか誰に聞いても教えてもらえない…という話。



4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02

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 または、クリーブランド・モフェットの『謎のカード』(深町眞理子訳 紀田順一郎編『謎の物語』(ちくま文庫収録)。
 アメリカ人の青年が、旅先のパリで、見知らぬ美女から一枚のカードを手渡されます。カードには、フランス語らしい言葉が書かれていましたが、フランス語の読めない彼は、ホテルの支配人にそれを読んでもらいます。
 とたんに顔色を変えた支配人は、青年をホテルから追い出してしまいます。それ以降もカードの文面を見た人々はこぞって理由も話さずに青年を拒否するのですが…。
 


4336034621怪奇小説の世紀 第2巻 がらんどうの男
西崎 憲
国書刊行会 1993-02-25

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 ハリファックス卿『ボルドー行の乗合馬車』(倉阪鬼一郎訳 西崎憲編 『怪奇小説の世紀2』国書刊行会収録)も、似た感じの作品です。
 語り手が歩いていると、複数の男がやってきて、ある頼みごとをします。それは通りの突き当たりに立っている女性に、ボルドー行の乗合馬車は何時に出発するのか尋ねてほしい、とのことでした。女性にその件を尋ねると、語り手はなぜか警察に連行されてしまいます。挙句の果ては、裁判で有罪を宣告され、収監されてしまうのです…。



B000HA4E1E-less[レス] [DVD]
ジャン=バティスト・アンドレア
クロックワークス 2006-10-27

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 映画では、ちょっと方向性が違うのですが、『-less レス』(ジャン=バティスト・アンドレア&ファブリス・カネパ監督)が、似たテイストの作品ですね。
 クリスマス・イブの夜、ある一家が、車で親戚のパーティーに向かいます。近道をしようと人気のない森を抜けていくことになりますが、なぜか、行っても行っても出口が見えてきません。
 突然、道ばたに赤ん坊を抱いた白いドレスの女が現れ、車はあわてて停車します。何を聞いても答えず、しかも怪我をしているらしい女を放っておくこともできず、車に同乗させることになります。携帯電話も通じないため、やがて古びた山小屋を発見した一家は、そこで電話を借りようとしますが、つながりません。
 直後に、娘のボーイフレンドが、謎の黒いクラシックカーで連れ去られてしまいます。やがて道ばたに青年の変わり果てた姿を見つけます。その後も、車を止めるたびに、黒いクラシックカーが現れ、家族が殺されてしまうのです…。


 これらの物語、分類するとすると、謎が謎のままで終わるという「リドルストーリー」と言えます。ただ、上記の物語群は、その「リドルストーリー」の中でも、何か妙な魅力があるのです。
 物語中で、主人公や語り手に対して、何か重要な情報が隠されていることが明示されます。そしてその真相を求めて、主人公は駆け回るのですが、結局真相は明かされない…というのが、上記の物語群の骨格といえましょうか。
 読者や視聴者に対し、重要な情報を隠したまま展開する作品、といえば、いわゆる「サスペンス」作品ということになると思います。ただ、サスペンス作品では、真相や謎は最後には明かされます。それに対して、上記に挙げた物語は、隠された情報が結末になっても明かされません。
 真相が、作中で明確には示されない、という作品もないことはありません。例えば、ジーン・ウルフやクリストファー・プリーストの一部の作品。ただ、作中で明確に真相は明かされないものの、読者の推測で真相が窺えるようにはなっていることが多いです。対して、上記の物語群では、真相を明かす気がさらさらない…といった感じなのです。
 ただ、それでも「面白く」感じるということは、ここら辺に、何か「サスペンス」の原型的な味わいが隠されているような気がするのです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

面白い記事でした。ありがとうございます。
謎が謎のままなのに魅力的な映画といえば「ピクニックatハンギングロック」です。
ぼんやりと真相の骨格のようなものが見えるのに、主人公が可憐すぎて真相を否定しちゃうという稀有な名作です。
あと、筒井康隆の「熊の木本線」も同じジャンルですかね。
【2016/07/30 20:58】 URL | nick #- [ 編集]

>nickさん
nickさん、コメントありがとうございます。

そうですね、『ピクニックatハンギングロック』も「謎」映画ですね。
筒井康隆の『熊の木本線』は未読だったのですが、あらすじを見る限り、似たテイストだと思います。

この味わい、個人的には、「リドル・ストーリー」とも「奇妙な味」とも、ちょっと違った風に感じていて、以前から気になっているジャンルです。
【2016/07/31 10:13】 URL | kazuou #- [ 編集]

謎のカード
『謎の物語』の文庫じゃない方を読み、「謎のカード」がいたく気に入った覚えがあります。
(が、文庫にはなんと続編があるそうですね。読みたいような、読みたくないような…)
ミステリはちゃんと解決されてないと(特に長編では)ブチ切れてしまう方なんですが、
こういう短編群は好きです。「ボルドー行きの~」は読んでみたくなりました。
映画『ーless』はパチもんっぽいジャケットで倦厭したら損する位、傑作だと思います。
オチが一応ありますが、あの黒い車がとにかく不気味でしょうがない。
家族も微妙に仲良しではないのが、妙にリアルです(笑。
【2016/07/31 22:17】 URL | ゆきやまま #M8wPbJsk [ 編集]

>ゆきやままさん
『謎のカード』の続編は、あんまり評判良くないですね。ストックトンの『女か虎か』は、続編も面白いですけど。

『-less レス』は、結末はぱっとしないのですが、それまでの雰囲気というか、サスペンス感が素晴らしいと思います。あんまり話題にならないようですが、大好きな映画のひとつですね。
【2016/08/02 20:41】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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