《ドーキー・アーカイヴ》の2冊を読む
 国書刊行会から刊行の始まった、異色作を集めたシリーズ《ドーキー・アーカイヴ》。さっそく読んでみましたが、最初の2冊からして、すでに独自の味わいのある作品で、これからの刊行作品も楽しみになりました。



4336060576虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ)
L.P. デイヴィス Leslie Purnell Davies
国書刊行会 2016-05-27

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L・P・デイヴィス『虚構の男』(矢口誠訳 国書刊行会)
 舞台は1960年代、小さな村で生まれ育ったアラン・フレイザーは、小説で生計を経てていました。村人たちは皆知り合いであり、隣には幼馴染が住んでいるという、落ち着いた環境のなか、アランは新機軸として、50年後を舞台にしたSF作品にとりかかろうとしていました。
 時を同じくして、日常生活で不思議なことが起こり始めます。そして、村の外から来たらしい一人の女と出会うに及び、アランの人生は変化することになりますが…。

 単純に言うと、主人公が信じていた世界が本当のものではないことに気付く…というテーマの作品ではあるのですが、その凝り様が尋常ではありません。次から次へと、新しい要素が投入され、ジャンルも変転していくので、確かに「分類不能」というのも頷けます。
 仲間だと思っていた人間が敵であり、また敵であると思っていた人間が味方だったりと、人間関係もめまぐるしく変わり、飽きさせる暇がありません。いったい何が真実なのか? タイトルにある通り、どこからどこまでが「虚構」なのか分からなくなってしまうのです。
 多用な要素が投入される割には、物語の道筋自体は整理されており、意外と読みやすいのも好感触ですね。その意味で、エンタテインメントとしても非常に優れた作品だと思います。



4336060584人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)
サーバン Sarban
国書刊行会 2016-05-27

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サーバン『人形つくり』(館野浩美訳 国書刊行会)
 イギリスの覆面作家サーバンによる中篇、『リングストーンズ』『人形つくり』を収めた作品集です。

 『リングストーンズ』
 田舎の屋敷に家庭教師として雇われた女子大生が、そこで出会った子供たちと過ごすうちに、現実ならざる世界に誘われるという物語です。

 語り手が直接の体験者ではなく、体験者の手記を読むという、伝統的な枠物語の形式になっています。ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』との類似も指摘されていますが、本作品では子供たちが「魔」に憑かれるというよりは、子供たち自身がすでに「魔」であり、それに囚われたヒロインの彷徨を描くといった感じになっています。
 後半、手記に魅入られた語り手たちが、実際の現場を訪れる…という展開になりますが、物語の客観性を補強するという意味でも優れた構成だと思います。

 『人形つくり』
 寄宿舎学校に過ごす少女が、人形つくりが趣味の青年に出会い、彼の人形のモデルになる…という物語。
 孤独な少女が、師と仰ぐべき女性と出会ったものの、すぐに死に別れることになり、鬱々としていたところに出会ったのが、教養豊かな中年女性と、その息子である、人形つくりを趣味とする魅力的な青年でした。彼の人形に惹かれると同時に、少女自身も青年の意のままになっていきますが…。

 『リングストーンズ』に比べ、『人形つくり』は初めから、明確な怪奇小説を志向している感じを受けます。ただ、ヒロイン自身をモデルにした人形が作られ始める…という辺りから、ストーリーは予想できてしまいます。その意味で「王道」の怪奇小説ではあるのですが、その筆致が非常に洗練されているのもあって、退屈することはありません。何より、人形たちの描写が素晴らしい。深夜に繰り広げられる人形たちの饗宴のシーンは、じつに魅力的です。
 また、ヒロインが青年に対し、邪悪なものと知りつつ惹かれ続けるという点も見逃せません。そのため、これがハッピーエンドになるのかバッドエンドになるのか、最後までわからないのです。


 L・P・デイヴィスとサーバン、どちらも邦訳はあるものの、日本では忘れられた作家といっていいかと思います。これだけ魅力的な作品が未訳だったとは驚きです。これを気にもっと邦訳の進んでほしい作家ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
黄色いフキタンポポ
人形つくりを図書館で入れてくれました。ドーキーアーカイブとジャック・ヴァンス叢書を全部
入れてくれますように。読んでみてサスペリアやジョジョ三部のダービー兄弟を思い出しました。ヒロインが反撃に転じるシーンや、心を折られたら負けというシーンが。イギリスの田園風景がとても美しかったです。
【2016/07/04 07:40】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

刊行記念トークショーに行ってきました。
こんにちは。以前、一度だけ紙の退色について書き込みました、忘八です。
7月2日(土)大阪梅田で行われた《 ドーキー・アーカイヴ 》刊行記念トークショーに行ってきました。
若島・横山両先生に加えて、円城塔さん、藤野可織さんをゲストに迎えての開催でした。
かなり突っ込んだ裏話も聞くことができ、あっという間の1時間半、幻想怪奇文学研究家の中島晶也さんがTwitterで早速詳細を書かれています。
売れ行き次第ながら、若島先生・横山先生は第5期くらいまでお考えの様子、非常に楽しみですね。
【2016/07/04 20:29】 URL | 忘八 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
人形つくりの青年の能力から逃れようとするところは、意外とエンタテインメントしてましたね。イギリス作品は、この作品に限らず情景描写は上手い人が多いような気がします。
【2016/07/05 19:32】 URL | kazuou #- [ 編集]

>忘八さん
現実的に5期は無理にしても、編者のお二人は読み巧者だけに、ストックの数はすごそうですよね。《文学の冒険》みたいに、少しづつでも長く続けてくれると嬉しいです。
【2016/07/05 19:37】 URL | kazuou #- [ 編集]

ドーキー・アーカイヴの2冊
ドーキー・アーカイヴ既刊の3冊のうち、「鳥の巣」は現在読んでいるところなのですが(これはなかなか面白いです。ジャクスンのこれまでの作品ともまた違いますね!)、最初の2冊は読み終えることができました。

「虚構の男」は早すぎたモダンホラー、といったところですかね。作品世界が実は…という部分もあり、ミュータントもののバージョン的な側面もあり、スパイ読み物的な側面も楽しめますし。ただ、1、2秒を争うようなアクション的要素は余りなく、その意味ではミステリ的な印象かも。
作品の全体像を見てみて、何となく連想したのが扶桑社文庫から出ていた「レリック」という作品。ある人に薦められて読んでみたらかなり面白かったもので(映画化に伴って翻訳されたもの)、但しこちらは博物館に殺人鬼?/怪物?が侵入して…というパニック・ホラー/閉鎖空間下でのアクションもの(エイリアンもの?)というアクション度が高めの作品、現代が舞台なので世界背景に関する仕掛けはなし。そんなこんなで作品傾向はかなり異なるのですが、ただ、詳しくは書かないのですがバイオ系の要素と謀略(?)系の要素が絡んで、一筋縄では行かない全体像につながる辺りが似ていると感じた所かもしれないです。あるいは単純に、ミュータントものの亜種というか要素を含んでいたからかも。これ、kazuouさんは読んでいらっしゃるでしょうか…?

「人形つくり」の方は、質的にも内容的にも、どこかの怪奇アンソロジーで紹介されていてもおかしくない感じ。文章も流麗ですし。(中の「人形つくり」は、途中ヒロインが「支配されて嬉しい」と言いだしたとき、"作者の好み" から言えばこのまま最後まで行くのかなと思いましたが、最後にはちゃんと恐怖し、抵抗していましたね。その意味でもきちんとホラー小説していました(笑))。
ただ、アンソロジーに収めるにはちょっと長いものばかりかなという感じ。作品のテーマもそれぞれ似ていて、こういったものばかりを書いてきた作家さんということなんでしょうね。職業作家ではなく、仕事の余暇に好きなものだけを書いたアマチュアの方、だからなのかもしれないですが。あと、文章のよさもあって(翻訳者の力もある?)単独で読む分にはほとんど気にならなかったのですが、他の作家と並べて読んだら、内容が少々一本調子でやや冗長に感じられるのかも、という気も。

総じての感想はといえば、面白かった! ただ大傑作とまでは行かないかな… といったところです。

「鳥の巣」が出てからまた時間が経過しつつありますが、これは何待ちの時間なのか、少々気にかかります。単純に半年に1冊ペースということでしょうか。十数点中のまだ三点ですから頓挫にはまだ早いでしょうけれど… でも、企画が企画だということもありますしね(そもそも海外の文芸はあまり売れないという話でしたから…)……
ある程度本がさばけるのを待っているのか、翻訳待ちなのか、それとも・・・・ 翻訳待ちだったら安心かといえば、「シルヴァー・スクリーム」みたいに苦節10年以上… という例もありますし、翻訳待ちで潰れてしまったのではないかという気がするバンクスの「ブリッジ」みたいな例もありますし…(訳者の方を変えて再チャレンジして頂けないでしょうかね・・・・方言の翻訳が難しいらしい話ではありましたが・・・)
気になる分あれこれと気をもんでしまいますが、気にかけた所で刊行される訳でもないので、半年1冊を目安に気長に待ちますか…。 それだと、全て出るまでには5,6年かかる感じでしょうか。「…スティーヴィー・クライ…」は純粋に気にかかりますし、その他の作品もあれだけ冊子で興味を煽ったんですからその興味が冷めないうちに出してくれないかなぁとも思いますが・・・
【2017/02/25 15:18】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]


『虚構の男』は、ジャンルミックス的な要素が強い作品ですね。この時代では確かに珍しい作風かも。ジョン・ブラックバーンとか、似たような作風の作家もいますが。
『レリック』は未読です。出た当時は話題になっていたので、気にはなっていたのですが。いずれ一読してみます。

『人形つくり』は、丹精なんですが、たしかに冗長な面もありましたね。とくに『リングストーンズ』の方は、もう少し長かったらつらかったかも。

3巻までがわりと続けて出たので、ちょっと間が空いているように見えますが、国書刊行会のいつものペースで考えると、別に遅れているわけではないような気がします。たぶん第1期はちゃんと出してくれるんじゃないでしょうか。
そういえば、あんな冊子まで出して宣伝したのって、国書としてはあまり例がないですよね。確かにいつもより速いペースで出してほしくはなります。
【2017/02/25 17:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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