最近読んだ本

4041039991三丁目の地獄工場 (角川ホラー文庫)
岩城 裕明
KADOKAWA/角川書店 2016-04-23

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岩城裕明『三丁目の地獄工場』(角川ホラー文庫)

 ホラー小説大賞佳作を含む作品集『牛家』で強い印象を残した、岩城裕明の新作短篇集です。
 村の活性化のために、村人たちが体の一部を「改造」するようになった村を描く『怪人村』、死者を漬けると数日後に甦る瓶をめぐる『女瓶』、本当の「地獄」に仕事に行くことになった男を描く『三丁目の地獄工場』、突然自宅に現れたキグルミの男をめぐる家族を描く『キグルミ』などを収録。
 『女瓶』は、前作『瓶人』と同じ世界観を持つ前日譚です。事故死した妹の友人を甦らせる青年が描かれます。『瓶人』ほどのインパクトはありませんが、異色の恋愛小説としても読める作品。
 『三丁目の地獄工場』では、本物の「地獄」の獄卒となった男の日常生活が描かれます。設定自体はリアリティのかけらもないのですが、男が体験する「地獄」の様子は非常に詳細かつ緊迫感があり、そのアンバランスさが魅力です。
 『キグルミ』は、崩壊した家庭を、SF風味の前衛劇の手法で描いた作品、とでもいうのでしょうか。傑作だと思います。
 この作家、ユーモアたっぷりにさらっと描きますが、それでいて救いのない状況を描くのが上手いですね。
 


4334753124オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家 ゾラ傑作短篇集 (光文社古典新訳文庫)
ゾラ 國分 俊宏
光文社 2015-06-11

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ゾラ『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家 ゾラ傑作短篇集』(國分俊宏訳 光文社古典新訳文庫)

 フランス自然主義の代表的作家ゾラの、物語要素の強い作品を集めた短篇集です。身体の硬直で死んだと判断され、埋葬されてしまう男を描いた『オリヴィエ・ベカイユの死』、打算で結婚した利己的な夫婦の生活を描く『ナンタス』、年齢差のある夫婦を風刺的に描く『シャーブル氏の貝』、幻想小説的な要素の強い『呪われた家―アンジュリーヌ』、芸術家の夫妻を描く『スルディス夫人』の5篇を収録しています。
 どれもストーリーテリングが上手く、面白く読めますが、哀愁漂う『オリヴィエ・ベカイユの死』と、芸術家小説といえる『スルディス夫人』の2篇がオススメでしょうか。
 技術的には繊細な腕を持ちながらも閃きにかける妻が、真の天才である夫を精神的に飲み込んでしまうという『スルディス夫人』は、ある意味ホラー作品としても読めそうです。



4150120552あまたの星、宝冠のごとく (ハヤカワ文庫SF)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 影山 徹
早川書房 2016-02-24

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ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』(伊藤典夫・小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF)

 晩年のティプトリー・ジュニアの短篇を集めた作品集です。どれも濃密な味わいがありますが、異星人が人類の信頼を勝ち得て、信仰の対象となっていくという『アングリ降臨』、現在と未来の自分を体ごと入れ替えるタイムトラベルを扱った『もどれ、過去へもどれ』、死後の世界を体験する男の物語『死のさなかにも生きてあり』などが印象に残ります。
 とくに、異色のタイムトラベルもの『もどれ、過去へもどれ』の読後感が強烈です。未来の自分と現在の自分とを、一定期間、体ごと交換することのできる技術が開発されます。しかし物質はもとより、記憶すらも持ち帰ることはできず、実質的な意味は持たないにもかかわらず、タイムトラベルを望む人間は絶えません。
 未来の自分が残した手紙から、自分がいずれどん底の生活に落ち込むこと、しかしある男によって救われる、ということを知った主人公ダイアンは、その事実にショックを受け、自らの人生を終わらせようと考えますが…。
 これ一篇で、長編を読んだかのような、重厚な読後感が味わえます。



B00R5TUQZ8わたしはサムじゃない (扶桑社BOOKSミステリー)
ジャック・ケッチャム ラッキー・マッキー 金子 浩
扶桑社 2014-11-28

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ジャック・ケッチャム&ラッキー・マッキー『わたしはサムじゃない』(金子浩訳 扶桑社ミステリー)

 結婚して八年を経過したパトリックとサムの夫妻は、幸福な生活を送っていました。しかしある夜突然、サムが自分は「サム」ではなく「リリー」であるといい始めます。しかも、リリーは、5、6歳の少女らしいのです。
 サムの人格を取り戻そうと、パトリックは様々な手段を試しますが、一向にサムがもどってくる気配はありません…。
 『わたしはサムじゃない』『リリーってだれ?』の前後編で構成される作品です。前編では、突如妻が豹変してしまった夫を描く不条理スリラー、後編では夫婦の関係性の変質を描いたテーマ性の強い作品になっています。
 別の人格になっている妻は、妻本人であると言えるのか?というアイデンティティーを扱った作品としても読めますね。読んでいて、別人の顔になった夫が妻を誘惑するという、マルセル・エイメの『第二の顔』を思い出しました。



4041015480見張る男 (角川文庫)
フィル・ホーガン 羽田 詩津子
KADOKAWA/角川書店 2015-09-24

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フィル・ホーガン『見張る男』(羽田詩津子訳 角川文庫)

 イギリスの小さな町で不動産仲介業を営んでいるヘミングは、幼い頃から、人の秘密を探ることに異常な執着を持つ人物でした。
 不動産の仕事に就いたのを機に、売家の合鍵を全て持ち、他人の家の秘密を探ることが日課になっていました。ある日、町で見かけた若い女性アビゲイルを見初めたヘミングは、彼女を手に入れるため、アビゲイルの交際相手を調べ始めますが…。
 「変質者」自身を主人公にし、しかも幼年時代からの彼の人生をじっくり描くことにより、彼に感情移入してしまうような作りになっています。
 犯人の側から犯罪を描写する、いわゆる「倒叙もの」の形をとっているのですが、後半、少年時代に起こした事件に対する「贖罪」が出てきたりと、何とも一筋縄ではいかない作品です。変わったサスペンスが読みたい方はぜひ。



4596550034よみがえり~レザレクション~ (ハーパーBOOKS)
ジェイソン モット 新井 ひろみ
ハーパーコリンズ・ ジャパン 2015-07-18

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ジェイソン・モット『よみがえり~レザレクション~』(新井ひろみ訳 ハーパーBOOKS)

 50年前に8歳の息子を亡くし、それ以来、寄り添って暮らしてきたハロルドとルシールの夫妻。彼らの前に、突然、息子ジェイコブが死んだ当時の姿で戻ってきます。息子を受け入れる妻に対し、ハロルドは本当に息子なのかが信じきれません。
 やがて世界中で大量の死者がよみがえりはじめ、彼らを排斥する動きも現れますが…。
 死者が生き返る現象に対しての説明は行われず、あくまでその現象に対する人々の側を描くヒューマン・ストーリーになっています。死んだ直後ではなく、数十年も経過した後に死者が戻ってくるという設定も秀逸ですね。
 世界的なスケールで現象が起こっているとしながらも、それを群像劇として描くのではなく、小さな田舎町に限定して描いているのも好印象です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
戻れ、過去へもどれ
トマス・ハーディのテスを読んだ時のように打ちのめされました。女性に厳しすぎます。何度も時を遡ってより良い未来に辿り着くのでは無い。もう少しで手が届いた上流の暮らしより、傍にいて助けてくれた殿方の方が何倍も大切に思えるのに。
【2016/06/06 14:58】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
冷徹な視点で書かれた作品ですよね。運命を変えてしまった後の哀れな末路を、オブラートもかけず描写するのに驚愕します。
【2016/06/07 19:35】 URL | kazuou #- [ 編集]

「見張る男」を読みました。
サスペンスは普段はあまり読まないのですが、これは面白かったです。
趣味(?)には共感できませんが、主人公にかなり感情移入してしまいました。

原題が「A pleasure and a calling」で直訳すると「喜びと天職」、
読み終えた後ではこちらのタイトルの方がしっくり来る気がします。
【2016/12/10 11:39】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
職人やアーティストの人生を描いていくタイプの作品がありますが、あれと同じことを「覗き趣味」でやってしまったという感じの作品ですよね。変質者のビルドゥングス・ロマンというか。その意味で、原題の「天職」はぴったりの言葉だと思います。
【2016/12/10 11:44】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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