欧米の怪奇小説をめぐって  ジャン・レイとベルギーの怪奇小説について

jan02.jpg jan01.jpg jan03.jpg 黒い玉 (創元推理文庫) 青い蛇―十六の不気味な物語 (創元推理文庫)

 ベルギーの公用語は、主にオランダ語とフランス語。日本のアンソロジーなどでも、ベルギー単独で編まれるということはあまりなく、フランス文学の一部として扱われることが多いようです。とはいえ、ベルギーにも、独特の魅力を持った作家が何人もいます。今回は、そんなベルギー作家の怪奇小説を見ていきたいと思います。

 ベルギーの怪奇小説作家といえば、いちばんに名前が挙がるのが、ジャン・レイ(1887~1964)です。ミステリ、SF、怪奇小説など、大衆小説のいろいろなジャンルで創作を行いました。日本でも比較的紹介に恵まれています。主な邦訳作品を挙げてみましょう。

『マルペルチュイ』(篠田知和基訳 月刊ペン社)
『新カンタベリー物語』(篠田知和基訳 創元推理文庫)
『幽霊の書』(秋山和夫訳 国書刊行会)
『ゴルフ奇譚集』(秋山和夫訳 白水社)
『ウイスキー奇譚集』(榊原晃三訳 白水社)
『怪盗クモ団』《ハリー・ディクソン》シリーズ(榊原晃三訳 岩波少年文庫)
『地下の怪寺院』《ハリー・ディクソン》シリーズ(榊原晃三訳 岩波少年文庫)
『悪魔のベッド』《ハリー・ディクソン》シリーズ(榊原晃三訳 岩波少年文庫)

 彼の作品のなかで知名度があるものとしては、探偵もの《ハリー・ディクソン》シリーズが挙がるのでしょうが、本領は怪奇・幻想小説にあるといっていいかと思います。
 長編『マルペルチュイ』は、古代の神々をテーマに、巨大な館を舞台にしたゴシック風幻想小説。暗鬱で息詰まるような雰囲気の作品ですが、幻想小説の傑作だと思います。
 『新カンタベリー物語』は、チョーサーの『カンタベリー物語』のパロディです。宿を訪れた人々が、チョーサーその人やホフマンの作品に登場する牡猫ムルとともに、奇怪な話を聞いていくという連作短篇集。エピソードごとに、ムルのリアクションが見られたりと、軽いタッチで楽しめる作品です。
 『ゴルフ奇譚集』は、ゴルフをテーマにした怪奇小説集。因縁とか黒魔術とか、オーソドックスなテーマの怪奇小説が多いので、正直、傑作といえるほどの作品は見当たらないのですが、安定したつくりで怪奇小説ファンには楽しめます。
 『幽霊の書』『ウイスキー奇譚集』は、短篇集ですが、どちらも傑作ぞろいだと思います。『幽霊の書』の方は本格的な怪奇小説集、『ウイスキー奇譚集』の方は、掌編に近い作品が多く収められ、怪奇ショート・ショート集としても楽しめます。短い枚数で、奇怪な出来事をさらっと描く手腕は抜群で、あっという間に読めてしまう割には、読後感は鮮やかですね。

 トーマス・オーウェン(1910~2002)は、幻想短篇集『黒い玉』(加藤尚宏訳 創元推理文庫)と『青い蛇』(加藤尚宏訳 創元推理文庫)が邦訳されています。不気味で不穏な出来事の起こる作品が多く、派手さはないものの、実に渋い幻想小説を書く作家です。
 とくに短篇『黒い玉』は、ふと見かけた「黒い玉」を追っていくうちに、何ともいえない展開になる不条理恐怖小説で、名作といっていいかと思います。
 明確な怪奇現象や超自然現象が起きない場合でも、何となく読ませてしまう文章力のある作家でもあります。

 J・H・ロニー兄(1856~1940)は、ジュール・ヴェルヌと並んでSFの先駆者と言われる作家です。「兄」がつくのは、もともと兄弟で合作していたものの、後にそれぞれ独立したためですね。
 古代の人々が異星人と遭遇するという『クシペユ』(川口顕弘訳『19世紀フランス幻想短篇集』国書刊行会収録)や、地球上に、人類には見えない別の生物が存在するという『もうひとつの世界』(竹田宏訳『世界SF全集31 世界のSF 古典編』早川書房収録)など、独特の着想の作品を残しました。
 怪奇小説方面に寄った作品としては、吸血鬼を扱った『吸血美女』(小林茂訳 窪田般彌/滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社収録)が傑作です。
 先史時代を扱った長編『人類創世』(長島良三訳 角川書店)も邦訳があります。

 ベルギーの幻想作家に関してまとまった本はないのですが、『小説幻妖弐』(幻想文学会出版局)に、《ベルギー幻想派》特集として、ジャン・レイ、トマ・オーウェン、ジェラール・プレヴォー、J・H・ロニー兄、ミシェル・ド・ゲルドロードの作品が収録されています。

 また、詳細は不明ですが、松籟社よりベルギー幻想派のアンソロジーの刊行が予定されているようで、これは楽しみですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

タイトルを忘れました「黒い玉」の中の作品だと思いますが、
広い家に兄妹が住んでいて、家の半分くらいに「何かが住んでいる」・・・・というのを読んで、怖いと思った記憶があります。
【2016/05/31 21:13】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
オーウェンの作品って、不気味だったな…という印象はあるのですが、個々の作品のあらすじを思い出そうとしても、なかなか思い出せないんですよね。『黒い玉』はやはり別格なんですが。
【2016/05/31 22:28】 URL | kazuou #- [ 編集]


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