ボタンさまざま  リチャード・マシスン『Button, Button』をめぐって
運命のボタン (ハヤカワ文庫NV) 運命のボタン [DVD] ミステリー・ゾーンDVDコレクション(66) 2016年 3/16 号 [雑誌] 縛り首の丘 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
 DVDマガジン『ミステリーゾーン』66巻に『欲望のボタン』という作品が収録されています。これ、『新トワイライトゾーン』の1エピソードなのですが、原作はリチャード・マシスン『Button, Button』、脚本ローガン・スワンソン(マシスンの別ペンネームですね)、監督はピーター・メダックという、豪華布陣になっています。

 経済的に苦しく、仲も芳しくない夫婦の家に、ある日、透明なカバー付きのボタン装置が送られてきます。家を訪れた男は、そのボタンを押せば大金が手に入るが、その代わり、夫婦の知らない誰かが死ぬと話します。
 夫は詐欺だと信じませんが、妻はそのボタンに執着するようになり、夫婦のいさかいの原因にもなっていきます。そしてとうとう妻はボタンを押してしまうのですが…。
 
 いかにもマシスンらしいエピソードなのですが、原作小説とは結末が異なっています。原作はショート・ショートといっていい長さの作品ですが、結末の男のセリフが強烈で、印象に残る作品になっています。
 結末が異なるとはいえ、どちらも、マシスン作品のテーマである、「アイデンティティーに起因する不安」を扱った作品だということには変わりなく、考えさせるところのある作品ですね。

 原作の初訳(『死を招くボタン・ゲーム』)が1979年なのですが、それ以前に、小鷹信光編訳のマシスン傑作集『激突』(ハヤカワ文庫NV)の解説で、この短篇のあらすじが紹介されており、非常に面白い作品だな、と思ったのを覚えています。
 『死を招くボタン・ゲーム』が訳載されたのが、雑誌『日本版プレイボーイ』であったため、一般には読みにくい状況が続いていました。広く読めるようになるには、映画化に合わせて編まれた短篇集『運命のボタン』(尾之上浩司編 ハヤカワ文庫NV)が出る2010年まで待たねばなりませんでした。
 その際、『運命のボタン』に収録された表題作を初めて読んだのですが、初めて読んだ気が全然しなかったのは、『新トワイライトゾーン』と小鷹さんによる『激突』解説のおかげでしょうか。

 2010年の映画化作品、リチャード・ケリー監督『運命のボタン』では、原作をかなり脚色しているのですが、単なる脚色というよりは、ほとんど別の作品になってしまっている印象です。
 導入部の設定こそ原作と同じですが、その後、ボタンをめぐる謎を調べてゆくというミステリ風の展開になってしまいます。それも普通のミステリならいいのですが、監督が難解な作風で知られる人(代表作は『ドニー・ダーコ』)のため、非常にわかりにくい映画になってしまっています。
 マシスンの原作は、非常にシンプルでメッセージ性の強いものなので、もともと長い映像化には向かないのでしょう。『新トワイライトゾーン』のエピソードでも、一番重要な部分が改変されていたので、原作に近い形の再映像化が望まれます。

 さて、後年、この『運命のボタン』と設定がそっくりな話を読みました。
 それは、19世紀ポルトガルの作家、エッサ・デ・ケイロースの『大官を殺せ』(彌永史郎訳『縛り首の丘』白水Uブックス収録)という作品です。
 手もとのベルを鳴らすと、中国の奥地に住む大官が死に、その莫大な遺産が自分のものとなるという提案を持ちかけられた男の物語です。
 似ているのは導入部だけで、後の展開は全く異なるのですが、設定がじつによく似ています。もともとヨーロッパで19世紀に寓話として広く知られた話らしいのですが、倫理を論ずるために使われた寓話のようです。
 同じような設定を使っても、マシスン作品の方は、きわめて現代的な作品に仕上げており、改めてマシスンの筆力には驚かされますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
映画⇒原作
の順番で読んだので、「こんなに短い話だったのか~」というのと、
やっぱり「この短さでいいんだよね」となりました。
映画はぶっ飛びすぎてて…ついていけなかった。
前半と後半が全く別の映画に見えるくらいでした。

原作の夫の死はちょっと『猿の手』を彷彿とさせる気がします。
タダより高いものはないというか…。
【2016/04/18 13:21】 URL | ゆきやまま #M8wPbJsk [ 編集]

>ゆきやままさん
映画はちょっと別物になってましたね。「トンデモ映画」というか、将来的にカルト作品になりそうな雰囲気の作品でした。

『猿の手』は、僕も連想しました。原作は、基本的には、よくできた「怪奇小説」だと言っていいと思うんですが、最後の台詞が加わったことで、マシスンにしか書けない作品になっている感じがします。
【2016/04/18 21:35】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
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