魔海の冒険  ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉のボート』
4883752267〈グレン・キャリグ号〉のボート (ナイトランド叢書)
ウィリアム・ホープ・ホジスン 野村 芳夫
書苑新社 2016-03-25

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 《ボーダーランド三部作》は、イギリスの怪奇小説家ウィリアム・ホープ・ホジスンの代表作として知られる、怪奇小説の三部作です。すでに刊行されている『幽霊海賊』『異次元を覗く家』に加え、最後の未邦訳作品、『〈グレン・キャリグ号〉のボート』(野村芳夫訳 アトリエサード)が刊行されました。

 海難に遭遇した〈グレン・キャリグ号〉は、救命ボートに助かった人々を乗せ、陸地を目指します。食料も水も尽きようとしたころ、ようやく陸地を見つけた彼らは、そこで人気のない廃船を見つけます。残されたわずかの食料を見つけ喜ぶ一行でしたが、船客であったと思しい女性の書き残しを読んで驚きを隠せません。そこには、人間を襲う謎の存在について書かれていたのです…。

 〈グレン・キャリグ号〉の一行が、ボートで脱出した直後という、緊迫した状況から物語が始まりますが、間をおかずに、彼らを襲う魔物が現れます。
 同じ海での怪奇現象を描く『幽霊海賊』の印象から、最初に遭遇した魔物との戦いが全編を通して展開されるのかと思いきや、序盤でその部分は決着がついてしまいます。
 意外にあっさりとしているな、と思いきや、その後に続く展開がすさまじい。一難去ったと思いきや、次から次へと魔物や化け物が襲ってくるのです。その化け物たちも、バリエーション豊かで、また、様々な手段で襲ってきます。
 それに加え、人々を幻惑する妖しい土地や島、巨大化した魚やカニなど、舞台もおどろおどろしいもので、雰囲気も抜群。
 
 船員の男たちの戦いが、非常に熱いのも魅力的です。常に全力を出さないと、死んでしまうという極限状況が続くのではありますが、互いに信頼し合い、率先して前線に立とうという姿勢は、読んでいて爽快です。主人公の「わたし」を含め、ほとんどの船員たちが実に男らしく描かれています。とくに「わたし」と友情を深める水夫長は、冷静かつ現実的で、義に厚いという、理想の海の男を体現したキャラクターになっています。

 生き残るために、いろいろ手段を考えたり、道具を作ったりと、サバイバル部分の面白さもあります。とにかく、序盤からノンストップで、抜群に面白い怪奇冒険小説です。後半には主人公をめぐる、ちょっとしたロマンスもあり、ホジスンのサービス精神がいかんなく発揮されています。ホジスン作品の中でも、エンタテインメント度では最高の作品なんじゃないでしょうか。

 これで、《ボーダーランド三部作》が出揃ったわけですが、三部作それぞれが独自の特徴を持った作品になっているのが素晴らしいですね。
 シンプルな骨格のモダンホラーというべき『幽霊海賊』、異次元SFの傑作『異次元を覗く家』、そしてスリリングな怪奇冒険小説、『〈グレン・キャリグ号〉のボート』。すでに古典といっていい年代の作品ながら、どれもバラエティに富んでいて、現在読んでも楽しめる怪奇小説です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ナイトランド
ホジスンの作品がこんなに訳されるなんて夢のよう。前半の女性の手記と廃船を見つけるところはマタン⚪を思い出させますが、主人公の仲間は好漢揃いで醜い争いは無いのですね。自分はホジスン作品の中でナイトランドが一番好きです。ヒロイン抜きでナイトランドの隅々まで探索するスピンオフを読みたい!
【2016/04/05 12:27】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


ホジスンの、海を舞台にした作品って、導入部が大体似てますね。ワンパターンかもしれないけれど、それがまたホジスンの魅力だったりします。

『ナイトランド』は、世界観がすごく魅力的ですよね。世界観の壮大さ、怪物の設定など、ホジスンの『ナイトランド』ほど、オリジナリティがある作品は、そうそうないと思います。
ロマンス部分が多少冗長なので、ここがなかったら、もっと面白い作品になったと思います。
【2016/04/05 19:59】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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