堂々巡り  《ループもの》作品概観3
 前2回で取り上げ切れなかった作品を、まとめて紹介しておきたいと思います。


415208682313のショック (異色作家短篇集)
リチャード マシスン Richard Matheson
早川書房 2005-11

by G-Tools

リチャード・マシスン『死の宇宙船』(吉田誠一訳『13のショック』早川書房収録)
 移住可能な惑星を探して、宇宙飛行を続けている3人の飛行士たちは、ある星で何か光るものを見つけます。そこにあったのは、大破した宇宙船でした。船の中に3人の乗組員の死体を発見しますが、その顔は自分たち3人とそっくりでした…。
 外惑星を舞台にしたSFホラー作品。登場人物たちがいろいろ仮説を立てますが、何の現象が起こっているかが全く説明されないため、不条理感の強い作品になっています。ドラマシリーズ『ミステリー・ゾーン』でも映像化されている名作短篇です。


4488501079怪奇小説傑作集〈2〉英米編2 (創元推理文庫)
ジョン コリアー 中村 能三
東京創元社 2006-03

by G-Tools

L・E・スミス『船を見ぬ島』(宇野利泰訳 平井呈一編『怪奇小説傑作集2』創元推理文庫収録)
 難破した船員の男は、島影を見つけ、そこを目指して泳ぎ始めます。ただ一人生き残った男が島で出会ったのは、同じように難破した人間たちでした。3人の男と1人の女は、それぞれ100年以上前からこの島で生活しており、この島で暮らす限り、歳も取らず死ぬこともできないと話します。しかも、島から出ようとしても必ず戻ってきてしまう。話を信じない男は脱出を考えますが…。
 永遠に出られない、呪われた島をめぐる怪奇小説です。主人公の男が聞く内容は、ほぼ伝聞で、描写もあっさりしているところが、逆に想像力をかき立てます。


4044743010サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
河野 裕 椎名 優
角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-05-30

by G-Tools

河野裕『サクラダリセット』(角川スニーカー文庫)
 その街、咲良田では、住む人間それぞれに超能力が発現します。記憶したことを忘れないという能力を持つ主人公の少年、浅井ケイは、世界を三日分、元に戻す能力を持つ少女、春埼美空とともに、「奉仕クラブ」の一員として、様々な事件を解決していきます…。
 主人公のみが「リセット」されても、記憶を保持しているという設定です。感情的に問題のある少女の人間的な成長を「リセット」することにためらいを覚えるなど、情感が細やかに描かれます。


4336035970魔法の書 (文学の冒険シリーズ)
エンリケ アンデルソン=インベル Enrique Anderson Imbert
国書刊行会 1994-12

by G-Tools

エンリケ・アンデルソン=インベル『魔法の書』(鼓直/西川喬訳『魔法の書』国書刊行会収録)
 大学教授が古本屋で見つけた一冊の古本。それは無意味なアルファベットの羅列に見えますが、集中して始めから読んでいくと、内容を認識できるのです。ただし、少しでも気をそらすと、意味をとれなくなってしまいます。本を読破しようと考える教授でしたが…。
 永遠に終わらない本をめぐる、哲学的な幻想小説です。


4167900467もっと厭な物語 (文春文庫)
文藝春秋
文藝春秋 2014-02-07

by G-Tools

アルフレッド・ノイズ『深夜特急』(高見沢芳男訳 文藝春秋編『もっと厭な物語』文春文庫収録)
 それはバックラム装丁の痛んだ古本。タイトルは「深夜特急」。少年は、幼いころに見つけたその本に引き込まれますが、あるページの挿絵になぜか恐怖を覚え、それ以上読み進むことができません。成人した少年は、再びその本に出会い、幼い頃読めなかった続きを読もうとしますが…。
 掌編ながら、鮮やかさの際立つ作品です。


4150312087さよならアリアドネ (ハヤカワ文庫JA)
宮地 昌幸 坂本 ヒメミ
早川書房 2015-10-21

by G-Tools

宮地昌幸『さよならアリアドネ』(ハヤカワ文庫JA)
 妻と幸せな生活を送るアニメーター服部政志のもとに、ある日、「アリアドネ邦子」を名乗る中年女性が現れます。彼女は、政志が15年後に妻に見捨てられ、不幸になると話します。ただし、15年後のある日を繰り返せば、破滅の回避ができる可能性があるというのです。そのリミットは72回。しかし、壊れきった妻との仲や友人関係などを修復するのは容易ではありません…。
 試行錯誤するタイム・トラベルもの。オーソドックスといえばオーソドックスなのですが、なかなか読ませます。ループを繰り返すのは1日ですが、ささいなきっかけや気付きが、人生を変えていくという、地に足のついたテーマは好感が持てます。後半は、邦子の話にシフトしていくところもユニークです。


4167712016都市伝説セピア (文春文庫)
朱川 湊人
文藝春秋 2006-04

by G-Tools

朱川湊人『昨日公園』『都市伝説セピア』文春文庫収録)
 仲の良い友人と公園で遊んでいた少年は、別れた後に友人が事故で亡くなったことを知らされます。翌日公園を訪れた少年は、友人がそこにいることに驚くと同時に、時間が昨日に巻き戻っていることに気がつきます。
 事故に気をつけるように友人に念を押しますが、友人はまた別の事故で亡くなってしまいます。何度、過去に戻っても友人の死を防げないことに少年は絶望しますが…。
 情感のあふれる切ない作品です。主人公の過去の回想という形で語られるのですが、同じような現象が、現在にも起こっているのではないかと匂わせる結末も見事ですね。


4086800098螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)
辻村 七子 清原 紘
集英社 2015-02-20

by G-Tools

辻村七子『螺旋時空のラビリンス』(集英社オレンジ文庫)
 時間遡行機「アリスの鏡」によって、過去へのタイムトラベルが可能になった近未来。極端な貧富の差がある世界において、過去の美術品を盗み出し、資産家に売るという商売が横行していました。泥棒のルフは、商品を持ち出し19世紀のパリに逃げ込んだという幼馴染の女性フォースを連れ戻すという依頼を受けます。彼女は「椿姫」マリーになりすましているというのです。しかも肺病を患った状態で。
 帰ることを拒否するフォースの態度に困惑しているうちに、「アリスの鏡」の不調により、装置を通るたびに、初めにその場所を訪れた時点にループしてしまうことに気付いたルフでしたが…。
 同じ時間を繰り返すたびに、過去の自分が増えていってしまう…というユニークな設定が使われています。自分が勝手なことをすると、「次の」自分の首を絞めてしまうという制約があったりするのが面白いところです。


4122033160潤一郎ラビリンス〈8〉犯罪小説集 (中公文庫)
谷崎 潤一郎 千葉 俊二
中央公論社 1998-12-18

by G-Tools

谷崎潤一郎『呪われた戯曲』(千葉俊二編『潤一郎ラビリンス8』中公文庫ほか収録)
 悪魔的な男は、愛人と一緒になるために妻を殺そうと考えます。男は、妻を殺す計画を戯曲の形にして作成し、それを妻に読んで聞かせようとしますが…。
 物語自体が何重もの入れ子構造になるという、目の回るような作品です。


4882930676鬼火 (ふしぎ文学館)
横溝 正史
出版芸術社 1993-10

by G-Tools

横溝正史『蔵の中』『鬼火』出版芸術社ほか収録)
 妻を亡くした雑誌編集者は、ある日、美少年が持ち込んできたという原稿を読み始めます。亡き姉への思慕を語ったその内容は、やがて編集者自身の殺人の疑惑を指摘し始めます。原稿に書かれた場所へ現れた少年は、原稿の後編を取り出しますが…。
 作中に登場する原稿の中にさらに原稿が登場するという、虚構と現実とがごっちゃになった怪奇探偵小説です。上記の『呪われた戯曲』に影響を受けたと言われていますが、こちらの方がエンターテインメントとしては面白いですね。


4041851033火の鳥 (3) (角川文庫)
手塚 治虫
角川書店 1992-12

by G-Tools

手塚治虫『火の鳥 異形篇』(角川文庫ほか)
 左近介は、横暴な父に男として育てられた女性でした。ある日、父の病気の治療に訪れた八百比丘尼を見た左近介は、自らが年を取ったような容貌の尼に驚きます。父を憎んでいた左近介は、寺を訪れ尼を殺害しますが、その直後から、なぜか寺から出ることができなくなってしまいます…。
 『火の鳥』シリーズ自体が、円環構造をテーマとした作品ですが、この《異形編》は、とくにループものとしての要素の強い作品です。


4091910173半神 (小学館文庫)
萩尾 望都
小学館 1996-08

by G-Tools

萩尾望都『金曜の夜の集会』『半神』小学館文庫収録)
 アメリカの平和な町で幸せな生活を送る少年は、ある夜、自分の両親を含めた大人たちが集会を行っていることを聞きます。ひそかにその場所を訪れた少年は、大人たちが話す内容に驚きますが…。
 未来のない平和や幸せに意味があるのか。哲学的なテーマもはらんだ傑作短篇です。


488570412XWho!超幻想SF傑作集 (マイ コミックス)
佐々木淳子
東京三世社 1981

by G-Tools

佐々木淳子『リディアの住む時に』『Who―超幻想SF傑作集』東京三世社収録)
 山の中で女性のみで静かに暮らす館を訪れた青年は、年齢の離れた女性たちが互いにそっくりなのに驚きを隠せません。皆が好意的に接してくる中で、ただ一人シーラだけは、青年に冷たく当たりますが…。
 時間に閉じ込められた女性を描いています。一人の女性の生涯が一つの館の中に集約されてしまうという、SF的アイディアの光る作品です。


4063707660永遠の夜に向かって…(1) (講談社漫画文庫)
佐伯 かよの
講談社 2010-11-12

by G-Tools

佐伯かよの『永遠の夜に向かって…』(講談社漫画文庫)
 その日は、高校の一学期の終業式でした。教師の有田は、周りの人間たちが、1日の出来事を何度も繰り返していることに気がつきます。しかもその繰り返しは数時間であり、最終的には外からの巨大な光でリセットされてしまうのです。学校の外に出ることはできず、なぜか生徒の数は段々と減っていきますが…。
 ループの秘密については、早々と明かされてしまうのですが、作品自体はとても魅力的です。毎回それぞれの教師や生徒にスポットが当てられ、その人間性や思いについて描かれるという、ヒューマン・ストーリーになっています。全体を通しての謎も、結末で上手く明かされており、コンパクトにまとまった佳作だと思います。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
昨日公園
古典からラノベ、少女コミックまでループものの名作は沢山あるのですね。昨日公園はフジテレビの世にも奇妙な物語で放映していました。切ないお話でした。
【2016/03/13 12:46】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
日本のコンテンツ全般に、《ループもの》は、ジャンルとして根付いているといっていいのではないでしょうか。アニメなどでも、このテーマを扱った作品がありますし。

『昨日公園』は、《世にも奇妙な物語》のリメイク版でも取り上げられてましたね。
【2016/03/13 14:19】 URL | kazuou #- [ 編集]

『深夜特急』
子供の頃読んだ怖い話(アンソロジー?)で、なんだったっけ?と気になってるものがいくつかあったのですが、これもその一つ。まさにこの主人公と同じく絵の場面は覚えているのに、話が思いだせない…。今回改めて読み直すことができて感激しました。
今読んでみると、怖いけど、そんなに怯える話ではありませんね。子供の頃はとても怖かったのに…。

蛇足ですが、子供の頃学研の学習と科学をやっていて、学習に夏休みの読み物特集が付録でついてきたのです。こういう海外作品の名作を子供向けに訳出してたものが多く載っていたような気がします。毎年読むのが楽しみでした。再販してくれれば、買う大人がいると思うんですけどねぇ…。
あと、阿刀田高さん辺りが書いてらしたカッパノベルスの「子供にする怖い話」的本もわざわざ買って読んだ気が…変な子供ですね(笑。そして今の自分が出来上がっているようです。
【2016/04/20 12:43】 URL | ゆきやまま #M8wPbJsk [ 編集]

>ゆきやままさん
子供の学習ものに、ホラーが載ってたりとか、昔はありましたね。子どものころに読んだ「面白い話」って、ほんとうに一生残るので、低年齢対象のリライトものって、結構重要だと思います。

『深夜特急』は、それほど「怖い」話ではないんですよね。あらすじ自体も、時間が経つと思い出せないんだけれど、不気味な作品だったという印象はずっと残っているという…。そういう意味では、すごい名作なのかもしれません。
【2016/04/20 21:42】 URL | kazuou #- [ 編集]

ループテーマの捉え方
純粋に物理的に、あるいは単に精神的にゆとりがなかったりするうちに結構ご無沙汰(単にブログに読者コメントさせて頂くだけのことにご無沙汰も何もないとは思いますが…)してしまいました。

こちらのシリーズ記事は、拝見した時に(こちらの記事は、拝見はリアルタイムでさせて頂いていたのです…)力が入っているなぁ、何か相応の声援が出来れば… なんて思ったものの、相応の内容も考えつかず…といった感じで一時コメントにとん挫した経緯があります。
でもやっぱり何かひと声でも、という感じで内容は無いながら簡単に…

実はループもの、心惹かれるものの、SFテーマ的に厳密な意味でのループものって実はほとんど読んでいなかったりします。
以前見ていたブログ上で、同様にループもの一覧を作った方がいて、その記事に対していろいろな方がこんなのもあるよとコメントしていたので、自分としてもループものは好きだし…とコメントしようとしたところが、自分の頭の中でループものの名作的に思っていた作品は、その方の規定したループもののルールには合うものがなかった… みたいなことがありました。(まぁ、映像作品などで、有名な名作だから含めたいのは分かるけど、でもこれはルールに合ってるの?的なものもリストには入っていたりみたいな恣意性はありましたが…)
ただ、そんな厳密に元の時間に戻ることを繰り返さなくても、繰り返していることが魅力の作品って沢山あるよなぁ…そういった作品ってじゃぁ何者なの?(「むしろ厳密なループものよりそっちの方が好きなんですが…」)…的な気持ちにもちょっとなったんですよね…
だからということでは全然ないんですが、結局そのリストに載っていた未読のループものは多分何一つ読んでいません。単純にそのリストを魅力的なブックガイドとしては見られなかったんですね…
その意味で、こちらの記事が空間のループや、あまり厳密な意味での「ループテーマ」に含まれないようなものまで含めて記載して下さっているのは好感度大です。もしかしたら、資料的には厳密なものの方が意味があるのかもしれないですけれど、面白いもの探しでリストを見る場合は、幅を持たせて、むしろ"面白さの要素"が似たものをまとめてくれる方が嬉しい気がします。

「(SF的に)厳密なループもの」について思うのは、主人公や一部の登場人物だけ以前の同じ時間の経験を記憶しているという設定自体が、SF的には整合性が取れていなくて(それで同じ時間に戻ったと言えるのか?)破綻しているんじゃないかということと、これは「私だけが知っている」テーマの変装的なものとも言えるかなぁということと、SFとしては珍しい、伏線回収をミステリ的に検証し、楽しむことができるジャンルなんじゃないかということなどですが、まぁこれらは"ほとんど読んでいない" 人間の屁理屈でしかないかもしれません。
「リプレイ」位は読んでみようかなぁ… 「七回死んだ男」も、確か千街晶之氏のブックガイドで紹介されていて面白そうだなと思った記憶はあります(結局読んではいませんが)
別項で紹介されていた「パラドクス」は面白そうですが、そのためにDVD購入までするかは…

「厳密ではない」"ループ" ものの名作としては…幾つか思い浮かぶ作品がありますが、一例としてはディックの「探検隊帰る」。結末が非常にダウナーな一作ですが、誰にとっても悪夢でしかないこのシチュエーションの見事さには感嘆するしかないと…
(そういえば、ジャンルは関係ないですが、シチュエーションの見事さについて同様な感想を持ったものにデュ・モーリアの「写真家」がありました。話自体は火遊びをした上流階級の婦人がしっぺ返しを食らうといった内容ですが、結末で主人公を包囲する何重もの陥穽が見事で唸るしかなかった…)


今年の他の過去記事もそれぞれ魅力的なので、機会があればコメントしたくはありますが…
【2016/08/21 09:03】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
《ループもの》って、厳密にはタイム・トラベルのバリエーションだと思うんですけど、「繰り返し」の要素があるものは、《ループもの》として捉えていいんじゃないでしょうか。だから実際に時間を遡らなくても、《ループもの》に分類できるものもあると思います。
例えば、記憶障害を持つ人物を主人公にした作品がありますが、あれも《ループもの》に入れていいんじゃないかと。この場合、「私だけが知らない」ということになりますか。

『探検隊帰る』も《ループもの》ですね。ディックの短篇って、悪夢めいたシチュエーションを使ったものが多いような気がします。
【2016/08/21 13:22】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/646-3e2a7e83
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する