覆水盆に返る  《ループもの》作品概観2
 《ループもの》といえば、時間的なループをまず考えますが、空間的なループ作品も存在します。登場人物によって、空間的な繰り返しが体験される作品、とでもいいましょうか。先日紹介した、映画『パラドクス』も、そのタイプの作品でした。
 今回は、空間的な《ループもの》を取り上げていきたいと思います。


4336045690アジアの岸辺 (未来の文学)
トマス・M.ディッシュ 若島 正 浅倉 久志
国書刊行会 2004-12

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トマス・M・ディッシュ『降りる』(若島正、浅倉久志他訳『アジアの岸辺』国書刊行会収録)
 デパートで買い物をした主人公は、下りのエスカレータに乗りますが、いつまで経っても一階にたどり着きません。意地になった彼はひたすら降り続けますが、エスカレーターは延々と続いているのです…。
 悪夢のような不条理作品です。空間的ループといえば、まず挙げたい作品ですね。


4652005148おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)
三田村 信行 佐々木 マキ
理論社 2003-02

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三田村信行『ぼくは五階で』『おとうさんがいっぱい』フォア文庫収録)
 少年が、遊びに出かけようと、ドアを開けて外に出ますが、気がつくと、そこはなんと同じ部屋の中なのです。何度くり返しても外には出られません。ベランダを越えて、となりの部屋に行っても、そこはまた同じ部屋でした…。
 永久に外に出られない少年を描く作品。寓話としても、気味の悪い作品です。


4003279018悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)
コルタサル 木村 栄一
岩波書店 1992-07-16

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フリオ・コルタサル『続いている公園』(木村栄一訳『悪魔の涎・追い求める男』岩波文庫収録)
 ミステリーを読みふけっている男は、いつの間にか本の中の被害者となってしまいます…。
 現実と虚構が交錯する、超絶技巧的な小品です。


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呉均『陽羨鵝籠』 (井波律子訳 『ミステリマガジン1991年8月号』早川書房収録)
 ある男が山の中を歩いていると、一人の書生に出会います。書生は、男に食事をご馳走するといいますが、見ていると、口から食物を盛った盤を吐き出します。やがて書生は、一人の美しい女を吐き出しますが、書生が酔って眠ると、女は自分の口から、恋人の男を吐き出します…。
 口の中から出てきた人間の口の中から、さらに人間が出てくるという、目の回るような作りの物語です。


4150119899輪廻の蛇 (ハヤカワ文庫SF)
ロバート・A. ハインライン Robert A. Heinlein
早川書房 2015-01-23

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ロバート・A・ハインライン『歪んだ家』(矢野徹他訳『輪廻の蛇』ハヤカワ文庫SF収録)
 その家は、三次元かつ四次元的に建てられた家でした。地震のせいで四次元空間がたわんでしまったために、その家からは人が出られなくなってしまいます…。
 脱出の顛末をコミカルに描くSF作品です。


カットナー

ヘンリー・カットナー『大ちがい』(小笠原豊樹訳『ボロゴーヴはミムジィ』ハヤカワSFシリーズ収録)
 精神科医にかかっている男は、自分の今の状態は夢を見ており、本当の自分は別の世界にいると話します。一方、別の世界で、異様な姿をした生物が精神科医に、自分は夢を見ているのだと話していました。二つの世界の精神科医は、患者の妄想を正すために、それぞれ強硬な治療を始めますが…。
 「ループ」というのとは、ちょっと違いますが、別世界にいる同一人物が「行ったり来たり」するという、奇妙な味のファンタジーです。


ヴィスコチル
そうはいっても飛ぶのはやさしい (文学の冒険)
イヴァン・ヴィスコチル カリンティ・フリジェシュ 千野 栄一
国書刊行会 1992-07

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イヴァン・ヴィスコチル『ズビンダおじさんの<冬外套>』(千野栄一訳『そうはいっても飛ぶのはやさしい』国書刊行会収録)
 女好きで人の良いズビンダおじさんが失踪し、残ったのは、彼が借金のかたに置いていった冬外套のみでした。女友達とのデートの日に、コートを汚してしまった「ぼく」は、ズビンダおじさんの冬外套を着ていくことになります。切符を入れたはずのポケットから、切符が見つからず驚いた「ぼく」は、ポケットを探っているうちに、女友達ともどもポケットの中に落ちてしまいます…。
 ポケットの中に異世界があり、現実世界とつながっているというファンタジー。外套を着たまま、外套の中に落ちるという、目の回るような作りが楽しいです。


4092510063第四次元の小説―幻想数学短編集 (地球人ライブラリー)
R・A ハインライン 三浦 朱門
小学館 1994-08

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A・J・ドイッチュ『メビウスという名の地下鉄』(三浦朱門訳 クリフトン・ファディマン編『第四次元の小説』収録(小学館の新版もあり))
 ボストンの地下鉄で、夕方の混雑時にに86号列車が消失してしまいます。列車はどこに消えたのか、ハーバード大学の数学者は調査を開始しますが…。
 「メビウスの輪」を作品に仕立て上げた、数学的SF作品です。
 

433603060X壜の中の世界 (文学の冒険シリーズ)
クルト クーゼンベルク Kurt Kusenberg
国書刊行会 1991-10

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クルト・クーゼンベルク『壜(ラ・ボテリヤ)』(前川道介他訳『壜の中の世界』国書刊行会収録)
 老船長が空にした壜の中のボトルシップの話が、いつの間にか南国のスクーナー船の話になってしまう…。
 ストーリーがループするという、技巧的な名品。



4894565021男を探せ (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所 1999-03

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小松左京『長い部屋』『男を探せ』ハルキ文庫ほか収録)
 大杉探偵は、ボディガードを依頼された天才科学者の家を訪れますが、直後に主人の死体を発見します。部屋の向こう側に犯人らしき姿を認めた探偵は、拳銃を発射しますが、同時に自分も弾丸を打ち込まれ、意識を失ってしまいます…。
 わざわざ見取り図まで掲載されるという、本格密室ミステリ《風》作品。真相には唖然とさせられます。読者をおちょくるユーモアSF作品です。


コミックからもいくつか。


B017LG9JRK百万畳ラビリンス(上) (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

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たかみち『百万畳ラビリンス』(少年画報社ヤングキングコミックス)
 ゲーム会社でバイトする二人の若い女性が、突如、謎の巨大建築物の内部にいることに気がつきます。家具も揃った、妙に生活感に満ちた部屋に違和感を抱く二人ですが、部屋の扉を開けても、そこにはまた別の部屋が続いているのです。脱出の方策を探る二人でしたが…。
 《迷宮ループもの》の決定版ともいうべきコミック作品。この手のテーマに興味があるなら、読むべき作品でしょう。


パラノイア
パラノイア・トラップ
高山和雅
青林堂 1986-10

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高山和雅『楽観』『パラノイア・トラップ』青林堂収録)
 全裸で目覚めた5人の男女。彼らは一人として記憶がありません。自分たちがいた建物を探っていくと、そこは建物ではなく、トンネル内を走る巨大な車だったことがわかります。目的も理由もわからないが、走っているならばいずれ目的地に着くはずだと楽観しますが、男の一人は、車内にあった装置から、自分たちに対して行われている計画を推測し始めます…。
 閉鎖的な環境から始まる、不条理SFスリラーというべき作品。急展開する結末が、じつに鮮やかです。


402269064X瓜子姫の夜・シンデレラの朝 (朝日コミック文庫)
諸星大二郎
朝日新聞出版 2016-01-07

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諸星大二郎『見るなの座敷』『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』朝日コミック文庫収録)
 田も持たない貧しい百姓の男のもとに、旅の女が居つき妻になります。よく気のつく妻のおかげで、生きがいを感じ始めた男でしたが、妻が何かをしているらしい納戸が気になり、中を覗こうとしますが…。
 民話をモチーフにしていますが、時間・空間ともに似たシチュエーションが繰り返されるという、構成の見事な作品です。


488379153X結晶星
たむら しげる
青林工芸舎 2004-03

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たむらしげる『青いビー玉』『スモール・プラネット』『結晶星』青林工芸舎収録)
 博士はビー玉を覗き込みながら、その中の世界に思いを馳せます。家の外に出た博士は自分の体がだんだんと大きくなっていくのに気がつきます。やがて地球よりも大きくなった博士は、宇宙の果ての壁に辿り着きますが、そこから見えたものとは…。
 宇宙自体がループしているという、壮大かつファンタスティックな一篇です。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

おー、 《ループもの》作品概観第2弾ですか!
前回のとき、何かkazuouさんが見落としたループ作品がないものかなーと考え、あっ映画トライアングルがあるじゃないか、さっそくkazuouさんに知らせてやろうと思ったところ、前回の文章の最後の頃に少し記載してあったのを見つけ、あーさすがkazuouさんだなーと頭が下がった思いでした。
その後もなにかループ作品がないかなーと探していたんですが何も見つからない、そんな折に第2弾、開いた口が塞がらない状態です。
しかし何とか1作品だけ思い出しました!
コルタサルの続いている公園に似たような作品ですが、アルフレッドノイズの深夜特急という作品です。
久しぶりに読み返しましたがループ物に入れてもいいと思い投稿しました。

それからループ物とは違いますが、映画『私はゴースト』、『マザーハウス 恐怖の使者』観ました。
とてもおもしろかったです。
【2016/03/06 21:39】 URL | つくばのガマ #17ClnxRY [ 編集]

>つくばのガマさん
そういえば、『深夜特急』もありましたね。これも《ループもの》に入れてよい作品だと思います。

『私はゴースト』は、アイディアがとても良かったです。序盤にちょっと《ループ》的な展開もあったり。『マザーハウス』もそうですが、パターンが出尽くした感のあるホラー映画でも、ちょっとしたアイディアや演出で、まだ新しいものが作れるんだな、と感じました。
【2016/03/07 21:58】 URL | kazuou #- [ 編集]


《ループもの》作品概観第3弾ですか!
:kazuouさんネタつきませんね
自分もあいかわらずループ物探してます
映画では『メメント』とか『ラン・ローラ・ラン』がループ物にあたると思いますが、小説ではなかなか見つかりません
そこで物語の終わりと始まりがループしてるようなものに視点を変えてみました
『13のショック』というアンソロジーの「目撃」という短編がループ物にあたると思います
やっと見つけたと思ったら、kazuouさんが以前にループ物として紹介してましたね

『私はゴースト』の霊媒師シルヴィアの声が全知能の語り手風で、プリーストの『魔法』のクライマックスとか『喜劇新思想大系』の「ミステリー」を思い出し楽しめました

【2016/03/15 22:14】 URL | つくばのガマ #17ClnxRY [ 編集]


『メメント』も、一種の《ループもの》ですね。これと似た題材のものとしては、ジョン・ヴァーリイの『きょうもまた満ちたりた日を』とか、エドワード・ウェレンの『心切り裂かれて』なんてのもあります。


『私はゴースト』は、叙述トリックというか、メタフィクション的な趣向を映像でやってみた、という感じでしょうか。本格ミステリ的な技法って、映像で再現するのは難しいので、たまにそういう趣向のものに出会うと嬉しくなります。
【2016/03/16 20:41】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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