最近読んだ本

4041034663ヘブンメイカー スタープレイヤー (2)
恒川 光太郎
KADOKAWA/角川書店 2015-12-02

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恒川光太郎『ヘブンメイカー』(角川書店)
 10の願いをかなえる力を与えられた「スタープレイヤー」を描くシリーズの第2作です。1作目とは主人公が異なり、2人の青年がメインに描かれます。一人は「スタープレイヤー」として異世界に辿り着いた青年。もう一人は、大勢の人間と共に甦った青年です。
 「スタープレイヤー」の青年は、死んだ恋人を甦らせます。甦った青年は仲間とともに、グループを作り異世界の探検に乗り出します。この2つのパートが交互に描かれますが、後半になり2つのパートが一つになる流れには膝を打ちました。
 異世界にも原住民が住んでおり、王国や帝国も存在します。「スタープレイヤー」といえど、場合によっては簡単に殺されてしまうのです。共同体を建設したり、他国と戦争になったりと、「開拓もの」としての面白さも味わえます。
 「スタープレイヤー」の願いは、制限はあるものの、大量の死者を甦らせたり、複数の条件を同時にかなえたりと、かなり大規模なものも可能です。ただ、かなえた願いが必ずしも登場人物たちの幸せにつながらず、人間不信に陥ったりと、単なる願望充足の話に終わらないところは流石ですね。
 願いを実現する超自然的な存在の謎や、異世界の秘密など、まだ明かされない部分もたくさんあります。シリーズの続刊が楽しみです。



4488010423センター18
ウィリアム・ピーター・ブラッティ 大瀧 啓裕
東京創元社 2015-12-21

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ウィリアム・ピーター・ブラッティ『センター18』(大瀧啓裕訳 東京創元社)
 『エクソシスト』で知られる作家ブラッティの長編作品です。
 ヴェトナム戦争で精神を病み、妄想を抱くようになった将校たちを集めた療養所「センター18」。新たに配属されたケイン大佐は、患者たちの妄想を聞いているうちに、自らも精神のバランスを崩していきます…。
 冒頭から、精神を病んだ登場人物のオンパレードで、誰が正気なのかがわからないという、何とも強烈な作品です。主人公が狂ってしまうダークな作品かと思いきや、結末では「救い」がもたらされてしまうという、ある種、宗教的でもある作品。長編としては非常に短いのですが、読後の密度は分厚い長編のそれに負けません。



4883752127七つ星の宝石 (ナイトランド叢書)
ブラム・ストーカー 森沢 くみ子
書苑新社 2015-09-24

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ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』( 森沢くみ子訳 アトリエサード)
 エジプト学者トレローニーが何者かに襲撃され、昏睡状態に陥る事件が発生します。娘のトレローニー嬢にほのかな思いを抱く弁護士ロスは、屋敷に向かいますが、襲撃者の正体ははっきりしません。やがて、トレローニーがエジプトで発見したというミイラが事件に関わりがあるらしいことがわかりますが…。
 ミイラをめぐる伝奇小説です。さすがに今読むと冗長な部分があります。事件の謎をミステリータッチで追っていくのですが、現代の読者から見れば犯人は明らかなので、その部分にかなりのページを割かれていると、飽きてきてしまうのです。
 ただ、全体の雰囲気・ムードは素晴らしいと思います。ミイラを猟奇的に取り扱うというよりは、時を越えた愛や美、といった要素が強く、例えばライダー・ハガードの《女王もの》に近い感性の作品でしょうか。



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ジョー・ホールドマン『我は四肢の和を超えて』(はるこん実行委員会翻訳班 ハルコン・SF・シリーズ)
 ホールドマンの未訳の短篇を集めた作品集です。
 クローンが当たり前になった世界を舞台に、資産家の娘のクローンを匿うことになった探偵を描くハードボイルドタッチの『血の結び付きは濃く』、不老不死の実現された世界の情景を四通りに描くショート・ショート『四つの掌編』、サイボーク化によって絶大な力を得た男が暴走する『我は四肢の和を超えて』の3篇を収録。
 とくに『四つの掌編』は短いながら、考えさせるアイディアに満ちた好篇です。
 


4560090432ミニチュアの妻 (エクス・リブリス)
マヌエル・ゴンザレス 藤井 光
白水社 2015-12-19

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マヌエル・ゴンザレス『ミニチュアの妻』(藤井光訳 白水社)
 アメリカの新進作家ゴンザレスの短篇集です。必ずしもジャンル小説を志向しているわけではないようですが、SF・ホラー的なガジェットやテーマを使った短篇が多いです。非日常的な出来事を描きながらも、どこかとぼけた筆致の物語は魅力的ですね。
 突然ハイジャックされた飛行機が、数十年に渡って飛び続けるという『操縦士、副操縦士、作家』、謎の民族の研究で有名になった文化人類学者が失踪するという『セバリ族の失踪』など。
 集中でいちばんインパクトがあるのは、やはり表題作の『ミニチュアの妻』です。物を小型化する職についている男は、ある日ふとした手違いから、妻をミニチュア化してしまいます。妻を元に戻すべく、手を尽くしますが、失敗に終わります。やがてコミュニケーションもとれなくなってきた妻は、夫に対して敵意を抱くようになりますが…。
 最初は、小さくなった妻に感じる違和感を抱いた日常的な作品かと思いきや、後半に思い切りトーンが変わるのにびっくりです。これ、ほとんどリチャード・マシスンの『狙われた獲物』(仁賀克雄訳『不思議の森のアリス』論創社収録)ですね。『恐怖と戦慄の美女』の一エピソードとして映画化された作品ですが、あの映画を見た人には、なんとなくわかってもらえるでしょうか。


4488583040なんでもない一日 (シャーリイ・ジャクスン短編集) (創元推理文庫)
シャーリイ・ジャクスン 市田 泉
東京創元社 2015-10-30

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シャーリイ・ジャクスン『なんでもない一日』(市田泉訳 創元推理文庫)
 『くじ』で知られるジャクスンの日本オリジナル短篇集です。やはり、人間の悪意や弱さを描いた作品に秀作が見られますね。
 人々に悪意をばらまく老婦人を描く『悪の可能性』、善人と悪人の境目をさりげなく描いた『なんでもない日にピーナツを持って』、ロードムービーを思わせるような『レディとの旅』などが記憶に残ります。



4787292331時間SFの文法: 決定論/時間線の分岐/因果ループ
浅見 克彦
青弓社 2015-12-17

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浅見克彦『時間SFの文法』(青弓社)
 タイムトラベルやタイムループなど、「時間」に関わるSF作品を分類、評論した本です。時間SFについて論じた後半も興味深いのですが、圧巻は前半のジャンル俯瞰の部分です。
 主だった時間SF作品が、あらすじ付きで紹介されていくのですが、この量が半端ありません。ハインライン『夏への扉』『時の門』、フィニイ『ふりだしに戻る』、グリムウッド『リプレイ』、広瀬正『マイナス・ゼロ』など、有名作はもちろんマイナーな短篇作品まで、かなりの数の作品が概観されていきます。
 時間SFについてのガイドブックとしては、梶尾真治『タイムトラベル・ロマンス』(平凡社)がありますが、こちらは著者の愛する作品についてのエッセイといった趣で、それほど紹介作品があるわけではありません。
 ガイドブックのサブジャンル項目として、時間SFについて触れた本はあると思いますが、ここまで時間SFに絞り込んだ本は、日本では初めてではないでしょうか。評論というよりは、時間SFガイドブックとしても非常に楽しめる本になっています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
『時間SFの文法』は
書店で見て気になっています。
主要な作品について広瀬正の「『時の門』を開く」レベルの分析をした上で、論を展開していれば凄いのですが。
【2016/01/15 22:22】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
個々の作品の分析というよりは、時間SFのサブジャンルを細分化したうえで、それぞれのテーマの意義を語る…といった感じでしょうか。そういう趣なので、タイム・パラドックスものに対してもそこまで踏み込んでいるわけではありません。
ただ上に書いたように、作品紹介が豊富なので、ガイドブックとして読むのもありかと思います。
【2016/01/17 07:49】 URL | kazuou #- [ 編集]

ブラッティの作品
この中で個人的に最も気になるのはブラッティです。
というのは、以前読んだ「別天地館」という作品が意想外に面白かったから。成り行きと仕掛けは途中から読めてくるものの、幽霊屋敷を逆転の発想で解釈し、ホラーの怪しげな雰囲気を保ちつつもミステリやSF的に筋を通して展開した内容は結構新鮮で、結構佳品ではないかと感じた記憶があります。
エクソシストは映画で見ていて、映画が傑作だった分、それをまた書籍で読む気にまではなれず、また長いこと他の作品が紹介される様子がなかったため、きっと一発屋何だろうくらいの感じで全くのノーマークでしたが、この作品でおや?と思った感じだったので興味自体はあります。
(別天地館は、もはやAMAZONや創元のサイトには出てこない感じですが、絶版なんですかね・・・うろ覚えで検索をかけても出てこず、記憶違いかとちょっと焦りました)

ただ、ハードカバーで買うだけの面白さがあるかな、というのと、あと書店で手にとって大瀧氏の解説をちょっと見たら何となく読む気が失せたというか・・・(笑)。
相性、なのかと思いますが、私はこの方の解説を読んでもあまり読みたいという気持ちをそそられないんですよね・・・ これは凄い作品だぞと力説しているのは分かるのですが、読むにはしっかりとした知識が必要なのだ、とか言われてもそれによって選民意識(あるいは選民になろうという意欲)を掻き立てられるより、何だか面倒な気がしてししまうというか、じゃぁただ手にとっても面白くないんだと感じてしまうというか(質の高い作品だよと言いたいんだとは思いますが)・・・・あくまで個人的な感覚なんですけれども。
そんな訳でいったん手に取ったものの、今のところまだ買ってはいません。

ホールドマン作品はテーマ的に興味をそそられます。ブラム・ストーカーは「ドラキュラ」を読んだ印象だとちょっと2冊目に手を出す気には… 内容的にもちょっと古めの感じですね。それがプラスに作用する場合もあるのだとは思いますが・・・・
恒川光太郎は、個人的には抒情的世界の作家さんという位置づけでしたが、多彩な作品に挑戦中なんですね。
手に取るかは今のところ微妙な感じなのですが。ゴンザレスも面白そうは面白そうなんですが、最近はこういったクロスオーバーの幻想的な作家さんの邦訳紹介が増えてきたため、ちょっと有難みというか期待度はその分薄れてきてしまっている感じです・・・
【2016/02/04 05:50】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
ブラッティは『エクソシスト』の印象が強いですよね。僕は原作の方を先に読んでいて、後から映画を見たのですが、それぞれ傑作だと思いました。
『ディミター』は、正直乗り切れなくて、途中で投げ出してしまっているのですが、『センター18』は短いこともあって読み通せました。個人的には面白く読みましたが、買うほど?と言われると、そこまでオススメするほどではないかもしれません。「変な話」ではあるので、そういう意味では面白いと思います。
大瀧さんの解説は、ちょっとクセがあるので、肌に合わない人もいるかも。

ホールドマン短篇集は、どれも面白く読めました。かなりオーソドックスなSFなので安心して読めます。

ブラム・ストーカーは、今読むと、かなり古い感じはしますね。僕は古風な怪奇小説が好きなのでいいんですが、現代の読者が読むには盛り上がりに欠けるかと。

恒川光太郎、確かに叙情的な要素はあるんですが、進行中のこのシリーズに関しては、冒険小説的な要素が強くて楽しめます。ファンタジーとはいっても、この人にしか書けない作品だと思います。

ゴンザレスは、文学寄りの奇想短篇としては、非常にレベルの高い作品集でした。
【2016/02/04 19:59】 URL | kazuou #- [ 編集]

「ヘブンメーカー」読みました
今回も面白かったです。
前作とは少し雰囲気が違った気がします。

今回のスタープレイヤーは、何というか、個々の願いは
非常によく考えられているのですが、
なかなか全体としての成果に結びつかない…。
事前に周囲に相談したり、願いの動機を突き詰めたりする作業の不足が
原因の様に思います。

ところで物語中盤で感じたんですが、
「スタープレイヤーに召喚された人」って結構心理的にしんどいと思います。
というのは、我々は世の中で嫌なことがあっても「誰のせいでもない」という事は結構ありますが、
召喚された人にとっては「全てコイツのせいだ」という存在がいるんですよね。具体的に。

あと、最後まで読んでも「事後保険」が一件解除された様子がないのですが、これは伏線でしょうか。何十年か後に大変な事になりそうです…
【2016/02/26 23:54】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
1作目の願いのかなえ方に比べて、2作目では工夫がされてましたね。やり方によっては、複数の対象に願いを適用できる…という要素が、上手く使われていたと思います。

「スタープレイヤーに召喚された人」は、つまるところ強制的に呼ばれた人なので、恨みを買いますよね。本来死んでいたのを助けてもらったというパターンでも、結局自分の運命を操られている…という感情がある場合がありますし。このあたり、シリーズを通して、重要な要素になるのではないかと思います。

1作目もそうでしたが、伏線がいろいろとあったようなので、これから展開していくのではないでしょうか。
【2016/02/27 07:31】 URL | kazuou #- [ 編集]

ヘブンメイカー
ヘブン編とクロニクル編が交互に書かれているのが1つに収束する仕掛けが良く出来ています。前作の懐かしのキャラクターも登場して嬉しい!召喚された若者がミスター味っ子みたいでヘブン編の方が明るい印象です。スタープレイヤーは力を使いこなせるだけの精神力と健全さが必要だと思いました。
【2016/03/04 10:56】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


ちゃんと、スタープレーヤー以外のキャラクターにもスポットを当てているのが、良いですよね。スタープレーヤーのキャラクターでも、精神の暗黒面について描かれるところが、この著者ならではのバランスの良さだと思います。
【2016/03/05 07:28】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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