神秘なるロマンス  アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』
4883752194エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿 (ナイトランド叢書)
アリス&クロード・アスキュー 田村 美佐子
書苑新社 2015-12-10

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 《ナイトランド叢書》の一冊として刊行された、アリス&クロード・アスキュー『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』(田村美佐子訳 アトリエサード)は、コナン・ドイルの《シャーロック・ホームズ》シリーズと同時代に書かれた作品です。

 タイトルにあるように、「オカルト探偵」である、エイルマー・ヴァンスが遭遇する超自然的な事件を描いた連作短篇集になります。
 語り手を務めるのは、弁護士のデクスター。ふとしたことからヴァンスと知り合ったデクスターが、やがて相棒となり、事件を共に追っていくというのが物語の大枠になります。前半の数話はデクスターがヴァンスに過去の事件の話を聞くという体裁なのですが、中盤からは、実際にコンビを組んだ二人が、リアルタイムで直接事件に対峙するようになります。

 特徴としては、探偵であるエイルマー・ヴァンスが、それほど超人的な能力を与えられていないことが挙げられます。常識人で冷静、頭脳明晰ではあるものの、特殊な能力を持っているわけではありません。
 むしろ相棒のデクスターの方が、能力者として描かれます。中盤のエピソードで「千里眼」の能力に目覚めたデクスターは、以後、その能力をたびたび発揮することになるのです。
 しかし、「専門家」のヴァンスと「霊能力者」のデクスターが組んでさえ、ときに事件を解決することができません。怪異現象を防ぎきれず、目の前で人を死なせてしまうこともあります。怪異が人間の力ではどうしようもない場合があることを、ヴァンスは冷徹に認識しているのです。

 今回のバリストン氏のように、助けを求めてわれわれを訪ねてくる人々は、わたしたちが摩訶不思議な謎めいた力で霊を鎮めたり、霊に彼らの望みを伝えたりすることができると思いこんでいるふしがあるが、じつはわたしたちにそんな力はない。何百年も昔に証明されたことをあらためて目の前に示しているだけだ。この世もあの世も、まだまだいまの人間にはとうてい理解できないことばかりなんだ。

 しかしそれと同時に、怪異に見舞われた依頼人やその周りの人間たちの「思い」を汲み、彼らの意思を尊重するという、人間的な一面も垣間見られるところが、ヴァンスの魅力でしょうか。
 交霊術にのめり込み、妻に悪霊を憑依させたことから起こる悲劇を描く『侵入者』、呪われた血族の末裔の娘とその夫をめぐる『ヴァンパイア』、悪魔的な才能を持つオルガニストを描く『固き絆』など、いくつかのエピソードにおいて、引き裂かれようとする恋人や夫婦を助けるために、ヴァンスは奔走するのです。
 夫婦の合作だったことも関係しているのでしょうか、全体に、恋愛要素が強いのも特徴ですね。基本的には、人間に危機が迫るエピソードの中にあって、ヴァンスが幽霊に恋をするという『緑の袖』という、可憐なエピソードも含まれます。

 集中でもっとも印象的なエピソードとしては、巻末の『恐怖』が挙げられます。古い館に出現する怪異現象を描いていますが、現れるのは霊やポスターガイストではなく、なんと「恐怖」そのものなのです。屋敷の中を走り回る「それ」に近づいた人間は、すさまじいまでの「恐怖」を感じるというのです。怪異の原因を調査するヴァンスとデクスターが辿り着いた結論とは…。

 派手さはないものの、どのエピソードも細心に作られた趣があります。古色蒼然とはしているものの、古くはないのです。主人公たちが等身大の人間として描かれており、比較して、それに対する怪異現象が恐れを抱かせるものとして描写されているために、怪奇小説としての鮮やかさが増しているといってもいいでしょうか。
 まさに、怪奇小説の知られざる名作。このような作品が未訳で残っていたとは驚きです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします。

早速読まれましたか。当方、例により積読中💧
心霊主義がブームだったコナン・ドイルの時代、まだまだ未紹介のオカルト探偵ものがあるかもしれませんね。
ナイトランド叢書、今後も期待大です。
【2016/01/09 11:09】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
こちらこそ、よろしくお願いします。

オカルト探偵というので、ブラックウッドの《ジョン・サイレンス》みたいな感じかと思って読んでみました。意外にロマンティックな味わいでしたが、これはこれで味がある作品だと思います。
こういう無名の逸品的な作品も、紹介が進むと嬉しいですね。
【2016/01/09 14:01】 URL | #- [ 編集]


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