新年のご挨拶
 あけましておめでとうございます。2016年初の更新になります。

 休みに入り、積読本をなるべくたくさん減らそうということで、いろいろ読んでいます。
 新年、最初に手に取ったのが、押切蓮介の漫画『サユリ』(幻冬舎バーズコミックススペシャル)と『ミスミソウ』(双葉社アクションコミックス)だったのですが、これがまた凄かった。
 どちらも傑作だと思いますが、精神にこたえるような「痛み」と「つらさ」にあふれた作品で、新年から読むにはきつい作品でした。


434483464Xサユリ 完全版 (バーズコミックス スペシャル)
押切 蓮介
幻冬舎 2015-12-24

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 『サユリ』は、念願のマイホームを手に入れた家族が、家に憑いていた少女の霊によって、次々と憑り殺されるという物語です。この霊の攻撃がすさまじく、心臓発作で殺したり、精神を病ませて舌を噛み切らせたりするのです。あげくには異空間にさらってしまうなど、暴力度がとんでもない。
 この辺りでも、かなりきついのですが、生き残った少年と祖母が、復讐として霊に立ち向かう、という後半の展開がさらに強烈。とくに、祖母のキャラクターのインパクトが半端ではありません。霊すらも「殺そう」とする執念が描かれるのです。


4575842079ミスミソウ 完全版(上) (アクションコミックス)
押切 蓮介
双葉社 2013-03-12

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 『ミスミソウ』は、父親の都合で田舎に一家で移り住んだ少女が、ふとしたことから、いじめに会うという物語。このいじめが度を越していて、ついには少女の家族が放火で焼き殺されてしまうのです。
 そして、本人さえも自殺を強要されるに至って、少女は復讐するために、いじめっ子たちを残虐な手段で殺してまわるのです。
 問題は、殺されるクラスメイトたちが完全な悪として描かれないこと。一人一人に事情があり、大事な家族がいる、ということが記されるため、復讐にカタルシスを感じられず、やりきれなさが残るのです。

 どちらの作品も、子供時代に読んだら確実にトラウマになりそうなレベルのどす黒さで、続けて読んで、グロッキーになってしまいました。


4336059594ウィスキー&ジョーキンズ: ダンセイニの幻想法螺話
ロード ダンセイニ Lord Dunsany
国書刊行会 2015-12-25

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 口直しになるような作品は…と、手に取ったのが、年末に出たばかりの、ロード・ダンセイニ『ウィスキー&ジョーキンズ ダンセイニの幻想法螺話』(中野善夫訳 国書刊行会)でした。
 こちらは、能天気に楽しめるホラ話で、しかもお洒落かつ幻想的。おかげで気分も持ち直しました。
 クラブの常連である初老の紳士ジョーキンズが、ウィスキーをおごると話してくれる奇想天外なエピソードを集めた連作短篇集です。現実的にオチがつくこともあるし、超自然的な要素が出ることもありますが、共通するのは、突拍子もない奇想とユーモア。
 虎に襲われたジョーキンズの逃走を描く『薄暗い部屋で』、喉の渇きを癒してくれる護符を持った男の奇妙な最期を描く『渇きに苦しまない護符』、オルフェウスの曲を手に入れた男がそれを税金逃れのために利用する『流れよ涙』、目的もわからぬまま、謎の結社の命令にしたがう男を描いた、カフカ的な『ライアンは如何にしてロシアから脱出したか』など、ユーモア小説としてもファンタジーとしても楽しめる短篇がたくさん収録されています。
 とくに『薄暗い部屋で』の結末は印象的で、これはまさに「トール・テール」(ほら話)です。
 二十数篇が収録されていてボリューム感たっぷりなのですが、未訳のエピソードがまだ百近くあるというのですから、ぜひとも続刊を出してほしいものです。


 さて、最後に2016年度刊行予定の中から、個人的に気になる本を挙げておきたいと思います。

河出書房新社
ジョン・スラデック『ロデリック』
『エドワード・ゴーリーの優雅なる秘密』
アンナ・スタロビネツ『むずかしい年頃』
アメリア・グレイ『AM/PM』

群像社
『レスコフ短篇集』

国書刊行会
サーバン『石の環』
シャーリイ・ジャクスン『鳥の巣』
横山茂雄・若島正責任編集海外文学シリーズ

作品社
リディア・デイヴィス『ブレイク・イット・ダウン』

白水社
イヴリン・ウォー『ウォー初期傑作短篇集』
スティーヴン・ミルハウザー『魅せられし夜』
ハッサン・ブラシム『死体展示』

早川書房
若島正『ベスト・ストーリーズ』続刊

東京創元社
ヘレン・マクロイ『The Deadly Truth』
ウィル・ワイルズ『ウェイ・イン』
エドワード・ケアリー『堆塵館』
ショーン・ステュアート『モッキンバード』
キャサリン・チャンター『The Well』
ウルズラ・ポツナンスキ『Saeculum』
サッシャ・アランゴ『真実と嘘、その他の嘘』

藤原編集室
サキ『けだものと超けだもの』(白水Uブックス)
ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』(白水Uブックス)
ロバート・エイクマン『奥の部屋』(ちくま文庫)
ヘレン・マクロイ『その名はウィリング』(ちくま文庫)
アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(ちくま文庫)
J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォラントの部屋』(創元推理文庫)

 スラデックの『ロデリック』は、何年も前から刊行予定になっていましたが、ようやく出版のようですね。

 気になるのは『レスコフ短篇集』。レスコフの短篇って面白いんですが、日本では岩波文庫の短篇集1冊ぐらいしか邦訳はないんじゃないでしょうか。

 ウィル・ワイルズ『ウェイ・イン』は、あらすじを見る限り、すごく面白そうな作品ですね。「出口のないホテル、謎の支配人、壁に掛けられた異様な抽象画、そして運命の女――他人の名前でホテルを渡り歩く男が遭遇する異様な一夜に始まる恐怖。J・G・バラード『ハイ‐ライズ』+スティーヴン・キング『シャイニング』ともいうべき巨大建築幻想譚!」

 『堆塵館』のエドワード・ケアリーは、『望楼館追想』で知られる作家です。ずいぶん久しぶりの邦訳になりますね。これも面白そうな作品。
 「ロンドンにある〈堆塵館〉は、ゴミで材をなしたアイアマンガー一族の広大な屋敷だ。屋敷の裏手には百年以上にわたって集められたロンドンじゅうのゴミが山となって広大な敷地を占領している。屋敷では、一族数百人がひとつ屋根の下で暮らしている。屋敷の地上階に暮らしているアイアマンガーたちは屋敷から出ることをゆるされず、彼らに使える召使いたちもみな一族の遠い縁戚にあたる。アイアマンガー一族は生まれるとすぐに何か品物をひとつ与えられ、生涯持ち続けるのだ。バースオブジェクトという。そんなアイアマンガーのひとり、クロッドには、品物の声が聞こえるという特殊な力があった……」

 ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』は、幻想小説の名作として、幻想文学読者の間では有名ですが、入手難になっていたもの。古書価は万単位で手が出ず、僕も未読でした。

 驚いたのは、アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』とJ・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォラントの部屋』。 ロルドは、グラン=ギニョールの代表的作家。恐怖短篇を集めた短篇集のようです。
 J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォラントの部屋』は、短篇集ですが、純粋な怪奇短篇だけでなく、スリラーものも収録するようですね。
 
※「読んでいいともガイブンの輪」の「隠し玉」レジュメ、「2016年 東京創元社 新刊ラインナップのお知らせ」を参考にさせていただきました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ジャック・ヴァンスの未訳作品を!
明けましておめでとうございます。今年も素晴らしい本が沢山出ますように。昨年はぺルッツの年でしたね。国書刊行会さまジャック・ヴァンス作品をよろしくお願いいたします。
【2016/01/02 17:37】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
あけましておめでとうございます。

そういえば、国書の《ジャック・ヴァンス・トレジャリ―》も予定に挙がってましたね。
【2016/01/02 23:07】 URL | kazuou #- [ 編集]


これからもよろしくお願いいたします。
短編がすこし復権しているようでうれしいです。
【2016/01/03 09:00】 URL | fontanka #- [ 編集]

管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
【2016/01/03 09:04】 | # [ 編集]


あけましておめでとうございます。
ことしもよろしくお願いします。

『望楼館追想』は、ずいぶん前に読んだはずですが、
内容はすっかり忘れてしまってます。
ずいぶん重かった印象はありますね。
『堆塵館』、どうしようかなぁ・・・
【2016/01/03 17:00】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

>fontankaさん
こちらこそよろしくお願いいたします。

短編集やアンソロジーが途切れずに紹介されつづけているのは、嬉しいですね。
【2016/01/03 19:01】 URL | kazuou #- [ 編集]

>kennさん
今年もよろしくお願いします。

ケアリーは、ファンタスティックな設定を使っても、お話自体はけっこうシビアで重かったりするんですよね。『アルヴァとイルヴァ』もそうだったし。
でも『堆塵館』は、きっと読むと思います。
【2016/01/03 19:05】 URL | kazuou #- [ 編集]

楽しみ
新年早々の更新、嬉しく拝見しました。本年も楽しみにしております。

押切蓮介の名前(とミスミソウという作品名)、聞き覚えがあったのでwikipediaで作品名を見たりこちらの過去ログを検索してみたりなどしましたが、特に記憶を呼び覚ますような記述や作品名に行きあたらず、どこで目にしたのかと考えることしきり。
そういえば読んでいる新聞の若い人向けの欄に注目のマンガなどを紹介するコーナーが近頃出来ていて、そこで目にしたのだったか・・・そうなら多分いじめ問題を考えるとかいった文脈で紹介されていたのかなとも思いますが、kazuouさんのご紹介の通りなら、新聞のお勧めマンガとかいじめを考える教材にするには少々強烈すぎるかも知れない感じでしょうか。(もっとも、いじめそのもののどす黒さは現実も結構なものではないかと思われるので、被害者側としては反撃ができる物語であるだけで十分ファンタジーでありエンターテイメントであるような気もします)
個人的には両作品とも世界観がシビアそうなのに興味を引かれましたが、でもなかなかきつそうでもありますね…読もうか迷います。

ダンセイニ卿はご紹介文を見る限り楽しそう。ダンセイニはまだ「ペガーナの神々」だの何とかの弟子?だったかだのを読んだくらいで、短編作家としてのダンセイニにはまだあまり触れていなかった気がします(何かのアンソロジーの中で作品を目にしていそうではありますが…)
とはいえ、まだ古典の頃の作家さんなこともあって、結構玉石混淆な感じでは?というのが現時点での率直な感覚なのですがどうでしょう? ほら吹きな語り手といえばカーシュなんかも連想しますが、それよりは明るく洒脱そうな気はしますが。

気になるリストをみて真っ先に思ったのが(またもやですが)、シャーリー・ジャクスンに関して昨今何かあったっけ?ということ… 「なんでもない一日」「日時計」ときて、更に次の作品とは…この翻訳ラッシュは何なのでしょうかね…
(ミルハウザーも昨年に引き続き刊行。こちらは雑誌に訳してきた短編がたまってきたからではないかと想像。)
そういえば、「何でもない一日」に納められたエッセイには、子供ネタの話のほかに、主婦であることを求められるばかりの日常に(きっかけは画家と間違われたことですが…)、「私は作家よ」と言って1日限りのプチ家出(旅行?)をしてみたりする(家族は慣れっこになっている?)ジャクスン自身の姿もユーモラスに書かれていたりして、ジャクスンも普通の主婦でもあったのだなぁという感慨を持ちました。

エドワード・ケアリー、『望楼館追想』は懐かしいですね。『堆塵館』も楽しみです。
ウィル・ワイルズ『ウェイ・イン』は、何となくデイヴィッド・マレルの「廃墟ホテル」を連想したのですが、あちらが途中からは割とシンプルに監禁/脱出アクションだった印象があります。対するに、「J・G・バラード『ハイ‐ライズ』+スティーヴン・キング『シャイニング』ともいうべき巨大建築幻想譚!」と来たら幻想・恐怖の要素もよりたっぷり入っていそうですし、「他人の名前でホテルを渡り歩く」という主人公自身の謎も楽しめそうですね。期待大です。

ブリューソフの「南十字星…」は、昔々図書館で借りて読んだような記憶がありますが、同時期に読んだクービンの「裏面」(これも図書館で読んだ)などの作品とごっちゃになっていて、もはや短編集だった記憶さえありませんでした。
そのせいもあって、その辺りの作品の印象ははまとめて(⇒どういうまとめ方だか…)確かちょっと晦渋で読みにくかったような… という適当なものですが、読まれましたらkazuouさんのご感想なども伺いたいところです。
アンナ・スタロビネツは昨年もリストに挙がっていましたね・・やっぱり東欧・ロシア系は訳者が少ないか、訳すのに時間がかかるのでしょうか…ホラーっぽいものを書くロシアの新鋭みたいですが、粗筋をちょっと見た感じでは起きることは地味そうに見えるので、文学系の、キャロル・オーツみたいな感じを予想してしまいます。
アメリア・グレイの「AM/PM」は、実験的そうな印象ながら、上手くはまると面白そうな感じですね。例えば「冬の夜ひとりの旅人が」みたいな作品とはどう違ってくるのか、その個性に期待です。リディア・デイヴィスには既に訳書があるんですね。知らなかったですが、岸本さん訳の作品とのことで、やはり奇妙な世界を構築する、文学系の作家さんになるのでしょうか。
レスコフについても面白い以前に存在を知りませんでした。やはり政治風刺系の作品なのかなと思いますが・・ストーリーテラーとのことなので、「東欧系」への色眼鏡を外して読んでみるべきかも…
サーバン『石の環』もついては、エロティックなイメージ喚起力の高い作品らしい記載を見つけましたが、マンディアルグみたいな感じでしょうかね?

ジョン・スラデック、聞き覚えがあると思ったら、「見えないグリーン」「黒いアリス」で有名な方でした(とは書いたものの、どちらも読んではいませんが… )

余談ですが、先日久々に中小チェーン系の古本屋に本を売りに行ったら、査定の時間がやけに短く、買値もかなり安くなっていて、現状、本の価値はこんな感じなのかな(ゲームソフトがメイン??)と考えさせられました。
【2016/01/11 07:56】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
『ミスミソウ』は、たしかに現実にはありえないという意味では「ファンタジー」なんですが、情念の描き方がすさまじくて、その点では「リアリティ」がありますね。
「きつい」作品ではありますが、一読の価値はあると思います。

『ジョーキンズ』は、ダンセイニの作品としては、ファンタジー要素がいちばん少ないので、一般読者にはいちばん勧めやすい作品ですね。玉石混淆といえばそうなんですが、なんてことはない作品でも楽しく読めます。カーシュとかジャック・リッチーとか、あれほどのあざとさはないので、人によっては「薄味」に感じるかもしれません。

このところのジャクスンの邦訳には、僕も不思議に思ってました。でも、著作リストを見ると、未訳のものがまだたくさんあるんですよね。全部が全部、日本の読者に合うものじゃないんでしょうが、邦訳が続くのは嬉しいです。
むかし『ミステリマガジン』に連載されたエッセイシリーズも軒並み読みましたが、かなり「ドメスティック」で、『くじ』のイメージを持っていた身としては、驚かされた覚えがあります。

個人的に「館もの」が好きなので、『堆塵館』も『ウェイ・イン』も楽しみです。

個人的な印象ですが、最近は、英米系の作品だけでなくて、独・仏・東欧系の邦訳が増えてきたような気がします。エンタテインメントでも、創元社の刊行予定などを見ると、ヨーロッパ系の作品の予定がずいぶん多くなってきてますよね。

アンナ・スタロビネツは面白そうなのですが、ずいぶん時間がかかってますね。

リディア・デイヴィスは、二冊ほど短篇集を読みましたが、なかなか面白かったですよ。内容よりも、形式が実験的なのですが、基本的に短い作品が多いので、結果的に「超短篇」みたいになっています。

レスコフは、19世紀後半の人なので、もう古典の作家ですね。長編『魅せられた旅人』とか、短篇集『真珠の首飾り』は面白く読みました。ユーモアの要素が強くて、雰囲気としては、マーク・トウェインなんかと近い印象でしょうか。

サーバンは、『角笛の音の響くとき』しか邦訳がないので、どういう作家なのかも未だに判然としませんが、気になる人ではありますね。

スラデックは、短篇集もいくつか出てますね。変な話ばかり書く人なので『ロデリック』も気になっています。

チェーンの古本屋は、かなり買値が安くなってますね。もともと文芸書は安かったけれど、このところは更に安くなった感じです(その割に売値は下がってないですが)。
僕は、買取してもらうときは、セレクトショップ系の古書店にお願いしています。絶版本とかちゃんと評価してもらえますし。
【2016/01/11 09:40】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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