日本ホラー小説大賞受賞作を読む
 日本ホラー小説大賞の受賞作品は、毎年、面白そうな作品だけ選んで読んでいますが、今年度の刊行作品は、それぞれ興味をそそる内容でした。結局、刊行された3冊全てを読むことになりましたが、まとめて感想など書いてみたいと思います。



4041035562ぼぎわんが、来る
澤村伊智
KADOKAWA/角川書店 2015-10-30

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澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川書店)
 新婚の妻と生まれる予定の娘、順調な人生を送る田原秀樹のもとに、原因不明の怪現象が起こり始めます。自分の身の回りに起こった現象が「ぼぎわん」と呼ばれるものであり、かって祖父母が恐れていたのと同じ怪異現象ではないかと考えた秀樹は、家族を守るために、女性霊媒師とそのパートナーに援助を求めますが…。

 主人公たちを襲う怪奇現象「ぼぎわん」が、霊的なものというよりは、ほとんど物理的な暴力を伴ってくるところが特徴です。神出鬼没であり、その攻撃もほとんど人間には防げないという、とんでもないレベルなので、読んでいる間のハラハラドキドキ感が尋常ではありません。
 「ぼぎわん」に対抗するために、霊媒師を頼ることになるのですが、繰り出す方策がことごとく潰されていく絶望感が凄いですね。
 いわゆる「日本の妖怪」をモダンホラー風に仕上げた作品といえるのですが、リーダビリティが非常に強烈です。ただ怪物に襲われるだけのホラーではなく、主人公やその周りの人間たちの事情、なぜ襲われるのかといった謎解きや、霊媒師側のキャラクターの掘り下げなど、読みどころが沢山あり、飽きる暇がありません。
 エンタテインメント度でいったら、過去の受賞作品で一、二を争う作品ではないでしょうか。



4041035570二階の王
名梁 和泉
KADOKAWA/角川書店 2015-10-30

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名梁和泉『二階の王』(角川書店)
 東京の郊外で両親と暮らす八州朋子には、引きこもっている兄がいました。30歳を過ぎた兄は、外部の人間だけでなく、家族に対しても全く姿を見せずに、日常生活を送っていたのです。
 一方、元警察官の仰木とその仲間たちは、考古学者の砂原が残した予言をもとに、世界に邪悪をもたらす存在〈悪因〉の探索を続けていました。彼らの仲間たちは、邪悪な存在を五感で感じとることができるのです。
 グループの一員である掛井は、同じ職場の朋子にひそかに思いを寄せていましたが、彼女の周りで、人々に対する〈悪因〉の影響が強まったことに気付きます…。

 読んでいくとすぐにわかる、<クトゥルー>ものバリエーションの作品です。とはいえ、家族内の軋轢が世界の破滅につながっているという、その組み合わせの妙が素晴らしい。 陰々滅々となりそうなテーマですが、意外にも読みやすく、結末もある種のハッピーエンドになっているところに才気を感じさせます。
 ときおりはさまれる、能力者の回想シーンがミスディレクションになっているのにも感心しました。援助団体の名前に「ウェンディゴ」が使われていたりと、ところどころで見られるお遊びも楽しいですね。



4041035546記憶屋 (角川ホラー文庫)
織守きょうや
KADOKAWA/角川書店 2015-10-24

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織守きょうや『記憶屋』(角川ホラー文庫)
 「記憶屋」とは、忘れたい嫌な記憶を消してくれるという都市伝説の怪人。大学生の遼一も単なる噂だと気にも留めていませんでした。しかしある日、恋人の記憶がなくなっていることを知り「記憶屋」の正体を探すことになります…。

 この作品で、消去される記憶は、記憶の全てではなく、本人が嫌だと思う一部の記憶のみというものです。しかし、消した記憶に伴い、それらに関連している他の人間に対する記憶も消えてしまうのです。
 記憶がなくなったとき、その人間と周りの人間の関係はどう変わるのか?そもそも、本人以外が他人の記憶を消す権利などあるのか? 主人公の遼一は、自ら遭遇した事件から、「記憶屋」に対し、怒りを抱くことになります。
 テーマも真摯であり、面白いことは面白いのですが、主人公の行動原理がいまいち納得しづらいのと、「記憶」そのものに対する掘り下げがちょっと浅いのが気になりますね。 すでに続編が予定されているようです。


 ついでにもう一冊。これは、受賞作品とはいっても、ちょっと古めの作品です(1996年 第三回日本ホラー小説大賞短編賞佳作)。あんまり話題にならなかったようですが、なかなかの佳作だと思います。



4043622015ブルキナ・ファソの夜 (角川ホラー文庫)
桜沢 順
角川書店 2002-01

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櫻沢順『ブルキナ・ファソの夜』(角川ホラー文庫)
 『ブルキナ・ファソの夜』『ストーリー・バー』の短篇二篇を収録した作品集です。

『ブルキナ・ファソの夜』
 旅行代理店に勤める主人公が耳にしたのは、ある噂でした。それは地図にも記されていない寒村へのツアーで、参加した人々は、帰国後異様に老け込んでしまったというのです。しかも参加者は皆ツアーへの満足感を持っているといいます。その後も続く謎のツアーの評判を聞いた会社の上司は、主人公に対し、ツアーの内容を調査するように命じますが…。
 実態のつかめない謎のツアーをめぐる作品ですが、それらの内容がどれも魅力的です。実際に旅行代理店勤務の経験があるという作者だけに、作品中の異国の風景がエキゾチックで惹かれます。

『ストーリー・バー』
 雑居ビル内にある店「ストーリー・バー」の売り物は、なんと物語でした。複数の「ストーリー・テラー」が客に対し、物語を語るのです。しかし「テラー」に対し、顔を見たり、私的な会話はしてはならないというルールがありました。
 ある日、主人公のなじみの「テラー」は、行方不明の友人についての話を語り始めます。主人公はその話にのめりこんでいきますが…。
 これは、なんとも魅力的な作品。事実か空想かわからない物語が、やがて現実に反転するという、夢幻のような雰囲気を持った作品です。ゾラン・ジフコヴィッチの『ティーショップ』(山田順子訳『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』黒田藩プレス収録)を思わせます。
 

テーマ:ホラー - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
ぼぎわんが来る
デビュー作がこんなにレベル高いなんて。プロの作家さんが書いたと言われても信じてしまいます。霊媒師姉妹が魅力的でスピンオフ作品を読みたい!
【2016/01/21 11:26】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
構成も手が込んでいて、読んだ後、レヴィンの『死の接吻』を思い出しました。
これは、シリーズ化してほしいですね。
【2016/01/21 19:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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