過ぎ去った夢  レオ・ペルッツ『聖ペテロの雪』
4336059527聖ペテロの雪
レオ ペルッツ Leo Perutz
国書刊行会 2015-10-26

by G-Tools

 国書刊行会の<レオ・ペルッツ・コレクション>、最終巻となる『聖ペテロの雪』(垂野創一郎訳 国書刊行会)が刊行されました。
 今までの3冊が、過去の時代を扱った、いわゆる「歴史小説」であったのに対して、『聖ペテロの雪』は、刊行当時の世相を舞台にした「現代小説」になっています。

 父を亡くし、叔母に育てられたアムベルクは、叔母の希望もあり、医学の道に進みます。ふとしたきっかけから、父の旧友であるフォン・マルヒン男爵の領地で医者としての仕事を得ることになったアムベルクは、かっての同僚で憧れだった女性ビビッシェと再会します。
 男爵が養子にした少年フェデリコの出自の謎、ビビッシェが男爵のもとで行っている奇妙な研究の詳細を知るに及んで、アムベルクは「神聖ローマ帝国」を復活させようとする男爵の壮大な計画に気付くことになりますが…。

 フォン・マルヒン男爵の計画が、実に壮大で魅力的です。少年フェデリコとビビッシェの研究が、計画に対してどんな意味を持つのか? タイトルにもなっている「聖ペテロの雪」の意味が明かされたときには、なるほどと膝を打つはず。
 一方、主人公のアムベルクは、自らを「傍観者」と称するとおり、事態に積極的に関わろうとはしません。唯一、彼が動くのは、執着を抱く女性ビビッシェに関することだけなのです。
 やがてビビッシェと恋仲になるアムベルクですが、余りにも上手くいきすぎる恋路に対し、疑念が湧いてきます。
 ここで気付くのは、物語全体が、事故に遭ったアムベルクの過去の回想という、枠物語の形になっていること。そして、アムベルクの記憶にある事実と、医者や同僚が語る事実は全く異なっているのです。
 アムベルクの体験は、真実なのか、それとも妄想なのか? 真実がはっきりしないままに進む展開は、じつにスリリングです。
 フォン・マルヒン男爵の「妄想」ともいうべき壮大な計画を描いた物語なのですが、その物語自体が、アムベルクの「妄想」なのではないかという、二重の語りには唸らされます。読了まで気をゆるめることのできない、きわめて現代的な幻想小説の傑作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/626-67c71eec
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する