モダンホラー作品再評価
 最近読んだ作品を並べてみると、期せずしてモダンホラー作品ばかりとなりました。あまり世評の高くなかったものが多いのですが、じっくり読んでみると、それぞれ、味がある作品です。そうしたマイナー作品を、積極的に評価してみたいと思います。



4150410518ステップフォードの妻たち (ハヤカワ文庫NV)
アイラ レヴィン Ira Levin
早川書房 2003-11

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アイラ・レヴィン『ステップフォードの妻たち』(平尾圭吾訳 ハヤカワ文庫NV)

 閑静な住宅街ステップフォードに超してきた主婦は、周りの女性がすべて家事にいそしみ、面白みのない女たちばかりなのを見て疑問を抱きます。やがて、自分と前後して越してきたばかりの女性たちが変貌していくのを見て、主婦は恐怖をいだき始めます…。
 レヴィンと言えば、恐怖小説の名作『ローズマリーの赤ちゃん』(ハヤカワ文庫NV)を思い出しますが、表面上の衣こそ違えど、この作品も『ローズマリーの赤ちゃん』の変奏曲といっていいかと思います。風刺的な要素が強い分、ホラーとしての衝撃度は薄れていますが、今でも楽しめる佳作かと思います。
 町全体が邪悪なものの影響下で変化を遂げてゆく…という、モダンホラーの一つの原型的な作品ですね。



4167661047嘲笑う闇夜 (文春文庫)
ビル プロンジーニ バリー・N. マルツバーグ Bill Pronzini
文藝春秋 2002-05

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ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ『嘲笑う闇夜』(内田昌之訳 文春文庫)

 ある地方都市で連続殺人が発生します。精神科医の見解によれば、犯人は殺人を犯しているときの記憶がなく、自分が殺人犯であるという意識さえない可能性が高いと言うのです。自分が犯人かもしれないと、街の人々は恐怖を覚え始めますが…。
 ミステリ要素の強いサイコ・ホラーです。主要な登場人物たちは、自分の精神のゆがみを自覚しています。また、自分の精神は正常だと感じている人物も、その主観描写を読むことで、読者には、その人物の心のゆがみが感じられるようになっているのです。
 結果として、すべての登場人物が怪しく見え、そしてそれがまた、ミスディレクションになっているという仕掛け。
 物語の要請上、複数の登場人物の視点がめまぐるしく変わるという構成を取ります。しかし、読みにくさはあまり感じず、テンポよく読むことができます。非常にウェルメイドな娯楽作品と言えますね。



4042775020覚醒するアダム (角川文庫)
デヴィッド アンブローズ David Ambrose
角川書店 1998-12

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デヴィッド・アンブローズ『覚醒するアダム』(務台夏子訳 角川文庫)

 「幽霊は人間によって作り出される」という持論を持つ心理学者サムは、関心を同じくする仲間とともに、架空の幽霊を作り出す実験を行います。実験に参加した記者のジョアンナは、「アダム」と名づけられた架空の存在が、異常なまでの存在感を持ち始めるのを目の当たりにします。やがて、参加者たちが一人また一人と死を遂げていきますが…。
 仮想世界テーマを得意とするアンブローズが、同テーマを超自然サイド寄りに描いたと思しき作品です。架空の存在が生命を持ち始める…という題材自体は目新しいものではありませんが、それを長編ホラーとしてまとめたのは力業といってもいいのではないでしょうか。作品後半、世界がゆらいでいくような、不思議な魅力があります。



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ティー・パーティ (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
チャールズ.L. グラント 竹生 淑子
早川書房 1987-08

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チャールズ・L・グラント『ティ-・パーティ』(竹生淑子訳 ハヤカワ文庫NV)

 17世紀、誰も住まない荒地にやってきた開拓者とその家族。開拓者は屋敷を作り上げ、その屋敷を「ウィンターレスト」と名づけます。しかし、その直後、一家は次々と命を失います。
 数百年後、誰も住むもののない「ウィンターレスト」は周囲の町の人々から畏怖の念を持って見られていました。ある日突然、この屋敷に買い手が現れると同時に、超自然的な現象が多発し始めます。やがて町の住民たちに「ウィンターレスト」からのティー・パーティの招待状が届けられますが…。
 「雰囲気派」の巨匠とされる、グラントのホラー長編です。我が国では非常に不評だったように思いますが、じっくり読んでみると、これはこれで捨てがたい味があります。
 主人公は、結婚生活で心に傷を追った男です。彼が、シングルマザーのキャリアウーマンと、小さな店を営むコケティッシュな女性との間で揺れる中で、町に頻発する怪奇現象が描かれます。
 確かに、後半ぎりぎりまでの日常描写が丹念かつ地味なので、前半で投げ出してしまいそうになる人もいるかと思いますが、ためにためた結末のクライマックスの効果はなかなかだと思います。



4488579019メイキング・ラブ (創元推理文庫)
メラニー テム ナンシー ホールダー Melanie Tem
東京創元社 1998-10

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メラニー・テム&ナンシー・ホールダー『メイキング・ラブ』(山田蘭訳 創元推理文庫)

 独善的な母親に育てられた、オールドミスの教師シャーロットは、理想の恋人を夢見ていました。ある日、奇人の弟カメロンが妙なことを言い始めます。自分は生命を何でも作り出せる、と。信じようとしないシャーロットでしたが、ある朝、美しい若い男が枕元に横たわっていたのに驚きを隠せません。その男ファネスは、彼女の恋人として振舞い、シャーロットはファネスに溺れていきます。理想の恋人と思えたファネスでしたが、やがてシャーロットの意思を無視し、勝手な行動を取り始めるのです…。
 弟カメロンの能力は、生命を作り出すことができるというもの。恋人とともにカメロンは「家族」を作ろうと、子供たちを大量に作り出していきます。しかし気に入らなかった子供は、簡単に消してしまうのです。
 ファネスを消されたくないシャーロットは、彼を守ろうとします。自分の自由にならなくなりつつあるファネスへの恐れと、恋人への愛に引き裂かれるシャーロットの心の揺れが読みどころです。
 やがてカメロンの作り出した子供たちの中に、非常に邪悪な存在が混ざりだします。彼らはとうとう殺人まで引き起こすのです。手に負えなくなった彼らをカメロンは一気に消し去ろうとしますが…。
 理想の恋人を作り出すという題材から、願望充足的なファンタジーを思い浮かべますが、これがなかなかどうして力作なのです。両親からの愛に恵まれなかった姉弟が、それぞれの愛を求めて試行錯誤を繰り返すという、非常に真摯なテーマを扱っています。シャーロットが自らの愛を自覚する結末のシーンには、ある種の感動を覚えるはず。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「ステップフォードの妻たち」を読みました
なかなか雰囲気があって面白かったです。
作者の文章の書き方も変わっていた様に感じました。
女性達の変貌もさることながら、主人公以外がそれに対して無反応というか、
当然の様に受け入れているのが不気味でした。

ただ、当時の時代の雰囲気がイマイチわからなかったのと、
生活のディテール(電子レンジはあったのか?車はどんな車?など)
についての知識がなかったので、場面が上手く思い浮かべられませんでした。
【2015/11/08 14:55】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
『ローズマリーの赤ちゃん』もそうだと思うのですが、話のネタそのものは単純なのですが、日常的なディテールを積み重ねて厚みを出すタイプの作品ですよね。そのあたりが、楽しめるかどうかの判断基準になるかと思います。

オリジナルとリメイク、2つの映画版がありますが、特にオリジナルの方を見ると、当時の生活のイメージがつかめると思うので、機会があったらぜひ。
【2015/11/08 16:41】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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