異次元の影  ウィリアム・ホープ・ホジスン『幽霊海賊』
4883752070幽霊海賊 (ナイトランド叢書)
ウィリアム・ホープ・ホジスン 夏来 健次
書苑新社 2015-07-27

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 ウィリアム・ホープ・ホジスン(1877~1918)は、主に怪奇・冒険小説の分野で作品を残したイギリスの作家です。
 作品数は多くはありませんが、代表的な作品は、いくつか日本語に訳されています。邦訳のある作品は以下の通り。

長編
『異次元を覗く家』(団精二訳 ハヤカワ文庫SF)
『ナイトランド』(荒俣宏訳 原書房)

短篇集
『夜の声』(井辻朱美訳 創元推理文庫)
『海ふかく』(小倉多加志訳 国書刊行会)
『幽霊狩人カーナッキの事件簿』(夏来健次訳 創元推理文庫)

 船員として働いた経験のあるホジスンの作品では、よく海が舞台になります。『夜の声』『海ふかく』では、そうした海洋怪奇小説が多く収録されています。とくに短篇『夜の声』は、東宝の特撮映画『マタンゴ』の原作としてクレジットされており、日本ではホジスンの名前は、この映画の原作者として知られているのではないでしょうか。
 今回、《ナイトランド叢書》の第1弾として刊行された『幽霊海賊』(夏来健次訳 アトリエサード)も、そんな海洋を舞台にした怪奇小説の一つです。

 とある商船に乗組員として乗り込んだ男が主人公です。しかしこの船には、何かいわくがあるらしく、前回の航海の後、1人を除いた全員が契約を切って船を降りているのです。 最初は順調な航海を続けたものの、しばらくして主人公は夜の当直の際に、人影のようなものを目撃します。
 謎の人影が頻繁に目撃されるようになってから、やがて乗組員は、ひとりまたひとりと謎の死を遂げていきます。主人公は上司に打ち明けますが、とりあってもらえません。彼らは幽霊なのか、それとも…?

 ジャンルとしては、いわゆる「幽霊船もの」といっていいのでしょうか。序盤から怪異がおおっぴらに起こるわけではなく、日常的な風景を描きながら、じわじわと怪異を盛り上げていくタイプの作品です。
 「日常」とはいっても、舞台が基本的に海の上の船という「非日常」なので、日常描写からして、何やら不穏な空気に包まれています。
 この手の閉塞環境を舞台にした作品では、登場人物たちの葛藤や対立が描かれるのが常です。『幽霊海賊』においても、確かに人物間の対立などはあるのですが、あまり人間関係には重きが置かれず、あくまで怪異そのものとそれが乗組員に起こす不安定な精神状態などがメインに描写されていきます。
 展開が遅いので、現代の読者からすると、多少まだるっこしく感じられるかもしれませんが、じっくり読んでいくと、これはこれで味わい深い作品かと思います。
 面白いのは、目撃される人影が「幽霊」ではなく、異界の存在ではないのか?と、主人公が推測するくだりです。そのあたり、異次元の存在を描く『異次元を覗く家』との共通点も感じられますね。

 本作は《ボーダーランド三部作》と呼ばれる三部作に属する作品なのですが、残りの2作、『<グレン・キャリグ号>のボート』(野村芳夫訳)と『異次元を覗く家』(荒俣宏訳)も、同じくアトリエサードより刊行予定になっています。
 《ナイトランド叢書》について言えば、すでにハワード傑作集も刊行されており、非常に精力的な刊行ペースで、じつに嬉しい限りです。
 8月26日には、『ナイトランド・クォータリーvol.02』も発売予定になっています。ついでに内容紹介をしておきましょう。

『ナイトランド・クォータリーvol.02 邪神魔境』

ロバート・E・ハワード「神の石塚」
訳/中村融 画/藤原ヨウコウ
ブライアン・M・サモンズ「狂気の氷原へ」
訳/植草昌実
デイヴィッド・コニアース「熱砂の妖虫」
訳/植草昌実
ジョシュ・リノールズ「悪夢の卵」
訳/牧原勝志
ウィリアム・ホープ・ホジスン「呪われしパンペロ号」
訳/徳岡正肇
コンスタンティン・パラディアス「ルルイエの黄昏」
訳/甲斐禎二

朝松健「〈一休どくろ譚〉魔経海」
間瀬純子「北極星」

Night Land Gallery 東學~魔物としての女
/沙月樹京
魔の図像学(2) C・D・フリードリッヒ
《雲海の上の旅人》/樋口ヒロユキ
ハワード紹介の新時代に向けて/中村融
ケルトの幻像と、破滅的ヒロイズム/岡和田晃
幽霊船と鯨──小説家になった船乗りたち/植草昌実
ブックガイド クトゥルー神話世界の地図/牧原勝志
未邦訳・クトゥルー神話セレクション/植草昌実
作品解説
【書評】橋本純「百鬼夢幻~河鍋暁斎 妖怪日誌」
/牧原勝志

表紙=東學

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「幽霊海賊」読みました。
 なかなか良かったと思います。
 まず、読みやすかったです。小難しい引用もなく、複雑な設定や伏線もなく、区切りも多かったので、合間に少しずつ読む読書スタイルの私にはありがたかったです。

印象に残ったのは、語り手の、怪奇現象に対して先入観なく受け入れる姿勢でした。
端的に言えば、現代人(や未来人)だったらまず「非科学的だ!」と言って否定しますし、もっと昔の欧米人なら「奇跡」「神罰」「異端」などキリスト教と無理やり結びつけるでしょうけど、今回はそのどちらでもなかったですね。
時代もそうですし、語り手が知識人ではない、というのもあったと思います。
【2016/03/21 11:02】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
登場人物の考え方が、先進的というか、そのあたりがホジスンがSFの先駆者の一人に数えられる理由でもあるんでしょうね。
SFと怪奇小説が未分化だった、この時代の小説って、今読んでも魅力的に感じます。
【2016/03/21 11:17】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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