迷宮の遊び方  たかみち『百万畳ラビリンス』
4785956011百万畳ラビリンス 上巻 (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

by G-Tools
478595602X百万畳ラビリンス 下巻 (ヤングキングコミックス)
たかみち
少年画報社 2015-08-10

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 たかみち『百万畳ラビリンス』(少年画報社ヤングキングコミックス)は、迷宮をテーマにした、魅力的なコミック作品です。
 人見知りの大学生、礼香は幼い頃から周りの環境に溶け込むのが苦手でした。唯一心から楽しめるのは、ゲームだけ。やがて、ゲーム会社でバグ探しのアルバイトをするようになります。ルームシェアをすることになった庸子が、同じゲーム好きであったことから、意気投合し友人になります。
 ある日突然二人は、謎の巨大建築物の内部にいることに気がつきます。部屋の扉を開けても、そこにはまた別の部屋が続いているのです。建物の内部には、現実にはありえないような作りの部屋や不思議な家具が次々と現れます。二人は出口を探しますが、一向に見つかる気配がないのです…。

 迷路のような謎の建築物からの脱出という、何とも魅力的なテーマを持った作品です。まず、どうやって食料を手に入れるのか? という疑問が浮かびますが、じつは建造物内部の部屋には普通に家具が置いてあり、時折、冷蔵庫も存在します。中には食料が入っているのです。
 冷蔵庫だけでなく、それぞれの部屋には電気もガスも水道も通っており、トイレや風呂もパソコンも携帯電話も存在するのです。生き延びるに当たって、当座は困ることがありません。
 サバイバル的な面では切迫感がないために、最初はのんびりとした空気さえ漂っています。実際、礼香はこの世界に来たことで、生きる意欲を取り戻し、建造物内にずっといたいとさえ考えるようになっていくのです。
 しかし、インフラが整っている以上、この建造物を管理している存在がいるに違いない。その考え通り、二人は、建造物を作ったらしき存在と遭遇を果たします。それは人間ではなく、しかも二人に敵意を持っているようなのです…。

 この作品のいちばんの魅力は、なんといっても、巨大建造物とその内部の部屋や家具にあります。見た目は普通の家具ながら、不思議な特性を持ったものが数多く存在するのです。
 例えば、行く先々でやたらと見かける、同じ型のちゃぶ台。これらのちゃぶ台は全て同期しており、何か物を置くと、すべてのちゃぶ台の上に、同じものが現れるのです。そしてそこから物を取り除くと、物は消えます。
 ちゃぶ台だけではなく、異世界の法則やルールを、手探りで探っていく過程の面白さは抜群です。この建物はいったい何なのか? 何の目的で作られたのか? 出口はあるのか?
 やがて明らかになる、建造物の謎。そして脱出のための方法。脱出の方法が判明したとき、礼香のとった選択肢とは…

 冒険行のなかで、主人公二人の友情や思いもまた変化していきます。現実の世界では人と関わることをしなかった礼香は、現実的な性格の庸子と触れ合うなかで、他人の気持ちを慮るようになっていくのです。
 小説作品では、恩田陸『MAZE』(双葉文庫)など、正面から迷宮を扱った作品がありますが、マンガ作品でこれだけ正面きって迷宮を扱った作品は初めてではないでしょうか。迷宮の魅力だけでなく、成長物語としての側面も持った意欲作です。

 ちなみに、タイトルがとても印象的なのですが、レイ・ブラッドベリ『百万年ピクニック』からインスピレーションを受けているのでしょうか。

テーマ:マンガ - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント
迷宮と D&D ?
これまた面白そうですね。
未知の部屋の連なりを探検するというと、どうしても連想してしまうのがRPGで(といってもあまり経験はなく、一度部活仲間でやろうかということになったものの、設定その他も自分たちで考えるなどと大風呂敷を広げた結果、後が続かなかったという… という訳で、RPGと言って思い浮かぶのは創元文庫から出ていたいわゆる「ゲームブック」…)、謎解き+命運のかかった選択の連続という辺りの興奮を思い出しますが、小説内であっても同様の興奮は感じられそうな気がします。
(似た設定というと「少女庭園」を思い出しますが、あれはかなり血なまぐさい、まさに異色作でしたので…。そういえば「少女庭園」、登場人物の名前があんまりといえばあんまりな感じでしたが、読み終わって振り返ると、あの名前のために登場人物が幾分記号化して残酷さを薄めて感じるのと、実際にはありえなさそうな名前なので実在の人物を連想したりすることがないことなど、じつはあれでよかったのだと感じられたのでした… どうでもいい余談ですが)

CUBEだったかいう映画のことも思い出しますが、この映画の場合など、慣れてくると単調化して感じた記憶があります(対策として時折人が無残に死んだり、仲間内での疑心暗鬼を生じさせたりしていたような…)。この作品ではその辺りは気にせずに楽しめましたでしょうか?

恩田陸さんの『MAZE』は知りませんでしたが、作品としてはお勧めの範疇でしょうか?
また迷宮ものの名作、案外リストアップできるくらいあったりするものでしょうかね… 迷宮(っぽい空間)が出てくるだけならいくつかあげられそうですが、完全にこういう設定のものはこちらの乏しい知識ではぱっと出てこないのですが・・・
(ミノタウロスの神話とか…? 部屋に限定せずエンデの「果てしない物語」とか「鏡の中の鏡」のようなものを含めてしまう? 迷宮的舞台、まで含めてしまうとボルヘスの「バベルの図書館」とか古川日出男の「アラビアの夜の種族」とか挙げられそうですが、でもこの辺はさすがに違うか…)

ただ、こちらが読んでいないだけで、RPG(ゲーム)を経験した世代以降の邦人作家の作品には、結構多いのかもしれないですね。
(あるいはRPGの発想源になったような作品群が存在する??)
【2015/08/16 16:40】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]


 「閉ざされた環境」というと、たいてい登場人物の人間性が露になる…とか、内輪もめが始まったりするのが定番なのですが、その点、この作品はそういうのがほとんどなくて、ものすごく陽性で開放的です。
 登場人物が迷宮を楽しんでいて、読者もそれを楽しむ…という感じでしょうか。

 迷宮を扱った作品って、サイドストーリーの舞台に使われたりとか、脇役としてはたまに見るのですが、迷宮そのものをテーマにした作品って意外と少ないんですよね。
 恩田陸『MAZE』は、迷路の謎がメインテーマで描かれていて、迷宮好きには愉しめると思います。結末が弱いのがちょっと気になりますが、オススメです。

 この手のテーマに関しては、以前このブログでも取り上げています(『迷わずに行こう -迷宮文学への招待-』http://kimyo.blog50.fc2.com/blog-entry-107.html)。
 物理的なものだけでなく、比喩的なものも入れてますが。
【2015/08/16 21:33】 URL | kazuou #- [ 編集]

迷路といえば
ラヴクラフトにちょっと変わったものがありました。透明迷路!
拙ブログの記事で恐縮ですが

http://blog.livedoor.jp/akiotsuchida/archives/51334315.html
【2015/08/17 22:12】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

追記
失礼!
正確には、ラヴクラフトが添削した他の作家の小説ですね。
【2015/08/17 22:29】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
面白そう、これは読まねば…と思ったら、『ラヴクラフト全集 別巻』、じつは買っているはずなんですよね。
上巻を読むのが非常にきつかったので、下巻は読んでないのかも。
改めて読んでみたいと思います。
【2015/08/18 20:53】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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