最近読んだ本

4336058938スウェーデンの騎士
レオ ペルッツ Leo Perutz
国書刊行会 2015-05-15

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レオ・ペルッツ『スウェーデンの騎士』(垂野創一郎訳 国書刊行会)
 軍を脱走した青年貴族と泥棒の男は、追っ手をまくために身分を交換します。貴族の婚約者である無垢な娘に一目惚れをした泥棒は、やがて盗賊団を乗っ取り金を荒稼ぎし始めます。蓄えた財産を持って娘の窮状を救おうと考えますが…。
 序盤から波乱万丈の展開で飽きさせません。リーダビリティという点では、ペルッツ作品の中でも一番ではないでしょうか。短めの作品の中で、多彩な登場人物が動き、人生が交錯します。主人公の成り上がり一代記かと思いきや、一筋縄ではいかない複雑さ。結末も単純なハッピーエンドにはならず、かといってアンハッピーエンドにもならない余韻の深さ。素晴らしい傑作だと思います。



489219400X失われた時
グザヴィエ・フォルヌレ 辻村永樹
風濤社 2015-07-17

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グザヴィエ・フォルヌレ『失われた時』(辻村永樹訳 風濤社)
 19世紀フランス、小ロマン派のマイナー・ポエット、フォルヌレの短篇集の邦訳です。
 名作『草叢の金剛石(ダイヤモンド)』は素晴らしいのですが、他の収録作品が微妙な出来で、悲しいかな、生前評価されなかったのも仕方がない、という感じがします。
 幻想的なイメージに満ちた『夢』、互いに不幸な境遇の男女が出会う『パリにて、九時に』などには、時折はっとするような美しい部分があるのですが、全体に冗長なのは否めません。『草叢の金剛石(ダイヤモンド)』が飛びぬけた作品、と考えた方がいいようですね。



4488010407禁忌
フェルディナント・フォン・シーラッハ 酒寄 進一
東京創元社 2015-01-10

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『禁忌』(酒寄進一訳 東京創元社)
 共感覚の持ち主で芸術家肌のゼバスティアンは、写真家として成功を収めますが、ある日、女性の誘拐容疑で逮捕されてしまいます。彼を弁護することになったやり手の弁護士ビーグラーは、調査を始めますが…。
 異色の芸術家小説、といっていいのでしょうか。ゼバスティアンの半生を語ってゆくくだりは、そこの部分だけ切り取っても十分魅力的。結局犯罪はあったのか、なかったのか、ゼバスティアンの意図とは何だったのか? ミステリとして見ると、割り切れない部分が多数残りますが、個人的には楽しめました。



4062990539誰かの家 (講談社ノベルス)
三津田 信三
講談社 2015-07-07

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三津田信三『誰かの家』(講談社ノベルス)
 全6篇を収録した怪奇小説集です。どれも水準以上の面白さですが、奇怪なドールハウスと現実の死がリンクするという『ドールハウスの怪』、湯治場で出会った女性には夫の霊が取り憑いていた…という『湯治場の客』、忍び込んだ家で少年が出会う怪奇現象を描く『誰かの家』などが面白いです。
 他の作品でもそうなのですが、都市伝説風の語りといい、ホラー小説やホラー映画への言及といい、ホラー・怪奇小説好きにはたまらない要素が多く、楽しませてくれます。既刊の短篇集『赫眼』 (光文社文庫)、『ついてくるもの』 (講談社ノベルス)もオススメしておきましょう。



4781613411超日常の少女群 ユエミチタカ作品集
ユエミチタカ
イースト・プレス 2015-07-17

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ユエミチタカ『超日常の少女群 ユエミチタカ作品集』(イースト・プレス)
 新人漫画家のデビュー作品集。少女を主人公に、主にSF的なテーマを扱った短篇を集めています。正直、玉石混交なのですが、いくつかの作品には光るものがあります。
 日常で感じたイライラ感が、目に見える黒いあざ「シュリケン」となって体に現れてしまうという『げきおこシュリケン』、短期間で人格が次々と入れ替わるヒロインを描く『マルチヒロイン』が秀作です。
 とくに『マルチヒロイン』が素晴らしいです。「無限多重人格」である少女は、幼い頃から、次々と人格が生まれては入れ替わっています。人格はいくつあるのかわからず、今までに同じ人格が現れたことはないのです。短くて数日、長くて数ヶ月しか人格は継続しないにもかかわらず、何年間も彼女を慕う少年の恋心に対し、彼女は自分への愛を信じられないと話しますが…。
 記憶や人格の継続しない相手に対して、愛を抱くことは可能なのか? 考えさせるテーマを持った作品です。



4062194449殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow
殊能 将之
講談社 2015-06-25

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殊能将之『殊能将之 読書日記 2000-2009 The Reading Diary of Mercy Snow』(講談社)
 2013年に亡くなったミステリ作家、殊能将之が自身のホームページ上に書いていた読書日記をまとめたものです。実はこの方の作品、一冊も読んだことがないのですが、生前に連載していた読書日記は、ずっと読ませてもらっていました。
 主に、海外の未訳作品を紹介、論評するスタイルの読書日記です。取り上げられる作家が、マイナーとは言わないまでも、一癖ある作家ばかりなのが特徴。ジーン・ウルフ、ブライアン・W・オールディス、グラディス・ミッチェル、マイクル・イネス、トマス・M・ディッシュ、フリッツ・ライバー、アルジス・バドリス、ポール・アルテ、アヴラム・デイヴィッドスンなど。
 アヴラム・デイヴィッドスンに関しては、この読書日記から邦訳短篇集『どんがらがん』が生まれています。他にも、フリッツ・ライバーやアルジス・バドリスの未訳作品なども多数紹介されており、これらの作家に興味のある人には楽しく読めるかと思います。バドリスの有名作『無頼の月』に関しても詳しく触れられており、参考になります。



4756245978パラレルワールド御土産帳
穂村弘 パンタグラフ
パイインターナショナル 2015-06-11

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パンタグラフ、穂村弘『パラレルワールド御土産帳』(パイインターナショナル)
 パンタグラフは、広告美術を制作するアーティスト集団。彼らが製作した架空の商品を紹介するという趣旨の写真集です。
 現代のデジタル機器にアナログ風味を加えたらどうなるか? といった感じの品物がメインなのですが、品物の完成度が半端ではありません。本当にこういう商品が売られているんじゃないかと思わせるほどのクオリティと、品物としての美しさが両立しているところがすごいです。
 ルーターに真空管を採用したという『真空管無線ルーター』、「0」と「1」のみ打てるデジタルデータ専用タイプライター『ゼロイチ・タイプライター』など、遊び心にあふれた品物が盛りだくさんです。
 紹介ページはこちら

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
スウェーデンの騎士
他の方も書いておられましたが青年貴族がヘタレで泥棒の方がずっと好漢に思えます。
戦功及び最新流行の装い>婚約者だったんでは?たった七年のこととはいえ、泥棒は
有能な農園主であり、この上ない夫で優しい父親だったのですから青年貴族と結婚するより
婚約者は良かったのではと思ってしまいます。その分、失う悲しみは大きいですが。
殊能将之 読書日記、とても面白そうですね。
【2015/07/26 20:46】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


 主人公はあくまで泥棒の方ですよね。序盤で、青年貴族の方は一時退場してしまうので、読者としては、やっぱり泥棒の方に肩入れしてしまいます。

 『殊能将之 読書日記』、紹介されてるのは未訳の作品ばかりなんですけど、紹介の仕方が上手いので、楽しく読みました。著者が生きていたら、アルジス・バドリス傑作集も出たのかも…と思うと、残念な思いでいっぱいです。
【2015/07/27 19:48】 URL | kazuou #- [ 編集]

どれもそのものではなく周辺の話ですが
新しい記事にもコメントしたいところですが、乱歩への関心はいまいちで(ミステリ作家としては横溝正史なんかの方が好きだったりしますし、幻想作家としてならむしろ文豪その他の作家の作品の方が…)、グラビンスキは少しずつ読み進めているところでもあるのでこの辺りから…

もはや安心のペルッツという感じですが、こちらも「~魔弾」を目下読んでいるところ(荷物が多い日は「魔弾」、少ない日はグラビンスキという感じで…)。
スウェーデンの騎士は、ペルッツ作品中でも少し変わり種らしいと、ネット記載の幾つかの記事から感じていましたが、リーダビリティ高なんですね・・・ 次に読むとしたら「ボリバル侯爵」辺りかと思っていましたが、ちょっと迷うことになりそうです。
ペルッツは、劇作家としてある作品で大当たりをとった後は、作家としての売れ行きは下り坂、ドイツが第一次大戦に敗れ最晩年にはナチスが台頭するなどする中、人生も不遇になって行ったらしいですが、「夜毎に…」が最晩年の作品だったことを考えると作品の質は落とすことなく描き続けていたんですね。
そういえば、ラストエピソードが庶民の側からの統治者への怒りとささやかな(?)抵抗を予告して終わった辺り、暗示的といえばそうですが。

三津田 信三さん、以前ご紹介頂いた「どこの家にも怖いものはいる」は、描かれた怪異が自分に迫ったらと考えると確かに怖いと思える内容でしたが、一方で入れ子構造の故か、ミステリとのハイブリッドにした故か、怖さを軽減させる要素が確かにあって、読後感としては結果的にさほど怖く感じられなかった印象ですが、ストレートな怪談だったらどうなのか、興味は感じます。

殊能将之さんというと、多分各種あとがきなどを読んだということなのか、千街晶之氏に通じる趣向を持った作家さんなのだろうというイメージを持っていましたが、実際に読んだ作品はといえば「ハサミ男」一作。
これは有名な代表作だけあって面白かったです。
ただ、更に他の作品を、というところまでは行かなかったです(それは読んだ当時、日本作家の代表作を読んでみようといろいろ手を出しているという流れの中で読んだので、そのせいも大きいと思いますが)。
外文好きの作家さんは結構いらして、趣味にも共感できる場合も少なくないのですが、その作品のファンになるかというと別問題だったりするケースは間々ありますが、もう一作ぐらい読んでみようか悩ましいところです。
読書日記はきっと面白かろうとは思いますが、ただ、そんなにガイドさんとしての魅力の記憶がないんですよね…。作品を読んだこととは別に名前を記憶しているので、何かで何度か書いたもの(恐らく何かのあとがきとか)を読んでいるはずだと思うのですが。

パラレルワールド御土産帳、こういうご紹介、待っていましたという感じ。
クラフト・エヴィング商会を連想しますが、実際に作ったもの(模型?)で勝負という辺りが違いになるのでしょうか?
紹介ページを見ると子供向け図鑑も連想したりするのと、これはネットやDVDやCD等のパッケージで、クリックでより詳細を見られるようになっていたりすると何だかはまって行きそうな楽しさを感じますね。
購入するかどうかは、ページ数などから実物を見て判断したい気持ちもありますが・・
あと、歌人の穂村さんは紹介文を書いておられるそうですが、そちらはマッチしていた感じでしたでしょうか? エッセイなどとても笑えるという方もいるようなのですが、「現実入門」というのを読んだ印象は、演じている(創作の)部分も感じつつちょっとニヤリ、といった感じでした。
【2015/08/09 08:32】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
 ペルッツ作品はどれも楽しく読めますが、中でも『スウェーデンの騎士』は、エンタテインメント度が高いですね。『ボリバル侯爵』とどちらか、と言われれば『スウェーデンの騎士』の方でしょうか。
 『夜毎に…』を読む限り、作品の質が落ちなかった…というより、むしろ上がっていると言いたいぐらい。


 三津田信三作品、長編はメタな視点や仕掛けを持ち込むのが持ち味なのですが、短篇はわりとストレートなホラーが多いので、「怖さ」という意味では、短篇集の方がオススメです。

 僕の場合、実作は読んだことがないので何とも言えないのですが、殊能将之の評論とか紹介文は、面白く読みました。自分の好きなものをちゃんと読んで、その感想を明晰に文章にできる…という点で、解説者としては一流だと思います。

 『パラレルワールド御土産帳』、これオススメですよ。クラフト・エヴィング商會に似てますが、こちらの方が現実に即した感じ。
 クラフト・エヴィング商會の作品が、イメージや概念が先にあって、それを品物化してみせるとすれば、『パラレルワールド御土産帳』は、土台となる現実の品物があって、それに空想を加える、という感じでしょうか。品物の設計・デザインが技術的にしっかりしているところがミソですね。
 穂村弘の紹介文はほんのちょっとですね。マッチしているといえばマッチしているんですけど。もう少し、個々の品物についての感想など書いてくれたら面白かったんですが
 彼のエッセイ集はほぼすべて読みましたが、殊更「笑い」をねらったものではないですね。クスリと笑えるという感じでしょうか。
【2015/08/09 10:29】 URL | kazuou #- [ 編集]

殊能将之読書日記
お盆の忙しさの中、少しずつ読んでいますが中身が濃くて時間がかかります。この方の著作はハサミ男しか読んだことがなく巻末の著作リストを図書館で調べたら殆ど貸出中でした。亡くなられた後も人気があるんですね。
【2015/08/14 10:25】 URL | 奈良の亀母 #TKKOP0Po [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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