怪奇小説の副読本  欧米の怪奇小説ブックガイド案内
 前回の怪奇小説ベストの記事を書くに当たって、いろいろ参考文献を読み直しました。とはいっても、欧米怪奇小説がメインのガイド本って、かなり少ないんですよね。
 ずいぶん昔に、幻想文学のガイドブックの案内記事を書いたこともありますが、今回は、怪奇小説メインのガイド本を紹介していこうかと思います。



4043665016ホラー小説大全[増補版] (角川ホラー文庫)
風間 賢二
角川書店 2002-07

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 風間賢二『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫、双葉文庫)
 怪奇小説の原型とされる<ゴシック小説>から現代の<モダンホラー>まで、ホラー・怪奇小説の幅広い分野を扱っています。
 「吸血鬼」「フランケンシュタイン」「狼男」を扱った章や、著者オススメのブックガイドコーナーもあり、盛りだくさんです。アンソロジー&短篇紹介のコーナーは、非常に参考になります。この分野の基本図書として一番にオススメしたい本です。



4840127514怪談文芸ハンドブック (幽BOOKS)
東雅夫
メディアファクトリー 2009-03-25

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 東雅夫『怪談文芸ハンドブック』(メディアファクトリー 幽BOOKS)
 日本・海外を含めた<怪談>のブックガイドです。最初に「怪談をめぐる七つのQ&A」が置かれていたりと、全体に初心者向けの概説書といっていいでしょうか。
 ギリシャ、中国、欧米、日本と、世界の<怪談>を広く紹介しています。メインは日本の部分に置かれてはいますが、欧米の怪奇小説に関してもコンパクトにまとまっています。



4043680015ホラー・ガイドブック (角川ホラー文庫)
尾之上 浩司
角川書店 2003-01

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 尾之上浩二編『ホラー・ガイドブック』(角川ホラー文庫)
 総合的な怪奇小説・ホラーのガイドブックです。日本編と海外編に分かれており、それぞれ複数の著者による通史やガイドが収録されています。
 どちらかと言うと、現代よりの怪奇小説・ホラー作品が多く紹介されています。
 小説だけではなく、テレビドラマや映画など、映像作品も一緒に紹介されているのが特徴ですね。編者の尾之上浩二さんの得意分野である、海外ホラー・SFオムニバスの紹介が詳細で、読み応えがあります。読んでいて愉しいガイド本です。



ファンタジーファンタジー―幻想文学館 (1979年)
F.ロッテンシュタイナー 村田 薫
創林社 1979-10

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 フランツ・ロッテンシュタイナー『ファンタジー(幻想文学館)』(村田薫訳 創林社)
 世界の怪奇小説・幻想文学のブックガイドですが、著者のロッテンシュタイナーがオーストリアの人のため、英米系に偏らない紹介がなされています。英米に加え、フランス、ロシア、ドイツ、オーストリア、ベルギー、ポーランド、ラテンアメリカ、日本など、世界各国の怪奇小説が紹介されます。
 全体に範囲が広いため、各国の主だった作家と代表作に触れる程度の簡単な紹介にとどまっています。ただ、E・T・A・ホフマン、エドガー・アラン・ポオ、ゴーゴリに関しては、三大巨匠として位置づけており、多少、記述が詳細になっています。
 ブックガイドとしては弱いのですが、作家の肖像画、作品集の挿絵など、毎ページと言っていいほどヴィジュアル面が充実しており、弱点を補っている印象です。



4048835718ホラー小説講義
荒俣 宏
角川書店 1999-07

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 荒俣宏『ホラー小説講義』(角川書店)
 タイトル通り<ホラー小説>のレクチャーガイドです。著者独自の史観・考え方が反映されているため、とても刺激的なのですが、逆に初心者には勧めにくいかもしれません。ある程度、このジャンルに馴染んでから読んだ方が、楽しめるように思います。



4875022468空想文学千一夜―いつか魔法のとけるまで
荒俣 宏
工作舎 1995-02

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 荒俣宏『空想文学千一夜』(作品社)
 著者の怪奇幻想やファンタジーに関するエッセイや評論をまとめた本です。1章の「幻想の見取図」が、怪奇幻想小説の通史になっており、未訳の作品も多く取り上げられています。
 他にも<ヒロイック・ファンタジー><ダンセイニ><ク・リトル・リトル神話>に関する章もあり、怪奇小説ファンには、末永く愉しめる本です。



sekaigensou.jpg世界幻想作家事典
荒俣宏
国書刊行会 1987-12

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 荒俣宏『世界幻想作家事典』(国書刊行会)
 著者一人で書き上げているという驚異的な事典です。怪奇小説に限らず、ファンタジーや幻想文学に分類される作家も収録されています。著者独自の見解によって書かれているのが特徴ですね。資料性という点では少々物足りないのですが、その代わり「通読が可能な」読む事典として使うことができます。



4336041083幻想文学大事典
高山 宏 風間 賢二 ジャック サリヴァン
国書刊行会 1999-02

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 ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』(高山宏、風間賢二監修 国書刊行会)
 日本語で読める怪奇幻想小説のガイドとしては最強の一冊です。古典の時代から、現代作家まで、幅広く取り上げられています。
 記述が詳細なのが特徴で、資料性も非常に高いです。マイナー作家でさえ、突っ込んだ紹介がなされるというマニアックさです。映画・音楽・美術といった関連分野の紹介、「悪魔」「アーカム・ハウス」「吸血鬼」「幽霊」などの54項目のテーマ・エッセイなどが読み応えがありますね。
 原著にあった書誌に加え、邦訳書誌まで完備、巻末付録として、「本邦怪奇幻想文学アンソロジー・リスト」と「戦後怪奇幻想文学全集・叢書リスト」が付いており、怪奇小説ファンなら、一家に一冊備えておきたい本です。



4488585019真夜中の檻 (創元推理文庫)
平井 呈一
東京創元社 2000-09

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 平井呈一『真夜中の檻』(創元推理文庫)
 我が国の怪奇小説紹介の第一人者だった著者による、創作とエッセイをまとめた本です。 ブラックウッド、J・S・レ・ファニュ、デ・ラ・メア、ラヴクラフト、アーサー・マッケン、デニス・ホイートリ、M・R・ジェイムズなどに触れています。
 書かれた時代が古いこともあり、資料性という点では弱いです。ただ、どれも著者の怪奇小説愛が感じられる滋味のあるエッセイになっています。



477803760X怪奇三昧 英国恐怖小説の世界
南條 竹則 荒木飛呂彦(カバーイラスト)
小学館 2013-05-24

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 南條竹則『怪奇三昧 英国恐怖小説の世界』(集英社新書→小学館(増補版))
 英国の古典怪奇小説に絞ったガイドです。範囲を絞っただけあって、それぞれの作家の紹介は詳細になっており、参考になります。ブラックウッド、マッケン、M・R・ジェイムズ、ダンセイニ、ラヴクラフト、メイ・シンクレア、M・P・シール、ジョン・ゴーズワース、H・R・ウェイクフィールドなどの作家が取り上げられています。
 古典的な怪奇小説に関しては、最高のガイドでしょう。



makai.jpg菊地秀行の魔界シネマ館 (ソノラマ文庫)
菊地 秀行
朝日ソノラマ 1994-06

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 菊地秀行『菊地秀行の魔界シネマ館』(朝日ソノラマ文庫)
 ガイド本とはちょっと趣が異なるのですが、ホラー映画のファンである著者が映像作品について書いた本です。子供時代に影響を受けた怪奇小説や、原作と映像化作品についての違いなどについて書かれた部分など、興味深く読むことができます。映画のスチール写真がたくさん使われているのも愉しいですね。



huransugensou.jpgフランス幻想文学史 (クラテール叢書)
マルセル・シュネデール 渡辺明正
国書刊行会 1987-09

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 マルセル・シュネデール『フランス幻想文学史』(渡辺明正訳 国書刊行会)
 自身も幻想小説家であるシュネデールがフランスの幻想文学についてまとめた通史です。フランス作品に特化しているのが特徴ですが、ポオやホフマンなどの、フランスに強い影響を与えた外国作家、フランス語で作品を書いたベックフォード(『ヴァセック』の著者)やポトツキ(『サラゴサ手稿』の著者)にも多少筆が割かれています。
 近代小説以前の作品から、現代まで、マイナーな作家にもかなりのページが割かれています。フランスの怪奇小説についてのガイドとしては、この本が一番でしょう。


 季刊『幻想文学』(アトリエOCTA)は、たびたび怪奇小説の特集を組んでいました。主に欧米の怪奇小説を取り上げた号としては、次のようなものが挙げられます。

 『4号 特集◎アーサー・マッケン』
 『6号 特集◎ラヴクラフト症候群』
 『14号 特集◎モダンホラー』
 『23号 特集◎ホラー読本』
 『28号 特集◎吸血鬼文学館』
 『37号 特集◎英国幽霊物語』
 『63号 特集◎M・R・ジェイムズと英国怪談の伝統』
 『別冊幻想文学 クトゥルー倶楽部』
 『別冊幻想文学 ドラキュラ文学館』
 『別冊幻想文学 ラヴクラフト・シンドローム』
 『別冊幻想文学 モダンホラー・スペシャル』

 『別冊幻想文学 クトゥルー倶楽部』と 『別冊幻想文学 ラヴクラフト・シンドローム』は 『6号 特集◎ラヴクラフト症候群』の増補版、 『別冊幻想文学 ドラキュラ文学館』『28号 特集◎吸血鬼文学館』の増補版、 『別冊 モダンホラー・スペシャル』は 『14号 特集◎モダンホラー』の増補版になっています。
 怪奇小説ファンにオススメしたいのは、 『14号 特集◎モダンホラー』『別冊幻想文学 モダンホラー・スペシャル』)、 『37号 特集◎英国幽霊物語』、 『63号 特集◎M・R・ジェイムズと英国怪談の伝統』でしょうか。



modernhorror.jpgモダンホラー・スペシャル (別冊幻想文学 (12))
幻想文学企画室
アトリエOCTA 1998-08

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 『14号 特集◎モダンホラー』『別冊幻想文学 モダンホラー・スペシャル』
 10年以上後に刊行された『別冊幻想文学 モダンホラー・スペシャル』の方が、内容は充実しているので、こちらの方の内容を紹介しておきます。
 モダンホラー作品についての評論、エッセイ、ブックガイドをまとめたものです。
 矢野浩三郎、風間賢二、尾之上浩司らのインタビュー、仁賀克雄、都筑道夫、菊地秀行らのエッセイ、中島晶也、東雅夫らの評論のほか、「モダンホラー必携」として、「幽霊屋敷」「安らがぬ死者たち」「呪術と魔術」など、テーマ別に分類したホラー作品のブックガイドが掲載されています。
 ガイドの方は、1970~1990年代に翻訳された作品について紹介されています。今改めて見ると、ほとんどの作品が手に入りにくくなっているのに驚きますね。



gensou37.jpg
 『37号 特集◎英国幽霊物語』
 英国のゴースト・ストーリー、怪奇小説についての特集になっています。マージョリー・ボウエン、L・T・C・ロルトの小説作品や、紀田順一郎、大瀧啓裕、仁賀克雄、風間賢二などのエッセイや評論が掲載されています。
 オカルトやスピリチュアリズムなどのアカデミックな評論が多いので、気軽に読めないものも多いのですが、D・スカブラー「近代小説における超自然」やJ・ブリッグス「幽霊たちの帰還」といった、欧米の評者による怪奇小説論は貴重です。
 何といっても愉しいのは、南條竹則&倉阪鬼一郎&西崎憲による座談会「ゴースト・ストーリーに憑かれて」でしょう。三氏が好きな怪奇小説について語りまくるという、ファンにとってはたまらない内容。それぞれのベスト3なども挙げられています。



gensou63.jpg幻想文学 (63)
幻想文学企画室
アトリエOCTA 2002-04

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  『63号 特集◎M・R・ジェイムズと英国怪談の伝統』
 創元推理文庫『M・R・ジェイムズ怪談全集』(紀田順一郎訳)の刊行に合わせての特集ですね。M・R・ジェイムズの未完の断章作品の翻訳、ジェイムズのレ・ファニュについてのエッセイなどがメインです。
 紀田順一郎、桂千穂、南條竹則、西崎憲、稲生平太郎などの怪奇小説に関するインタビュー、長山靖生、中島晶也らによる評論、梅田正彦、三津田信三らによるエッセイなど。中野善夫による「英国怪談愛好家のためのインターネット・ガイド」は、当時非常に斬新でした。
 怪奇小説を愛する諸氏によるインタビューが、どれも面白く読むことができます。『37号 特集◎英国幽霊物語』と特集内容が似ているのですが、エッセイ・評論含め『63号 特集◎M・R・ジェイムズと英国怪談の伝統』の方がエンタテインメントとして愉しく読めますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
出会いの経路
最近では別冊太陽の「こわい絵本」特集を買ってしまったりなど、結構ガイドブックは当てにする方で、今回のご紹介も楽しませていただきました。
ただ、同じテーマに沿ってのガイドブックとなると、基本図書はやっぱり揃えなくてはいけないし、サブジャンルのバランスへの目配りも必要だったりで、(マニアックなもの含め)結局内容的には同じような感じになって、読んでいる時にそこが結構煩わしかったりもするんですよね… なので、同種のガイドはやはり2-3冊くらいまで、趣向の違うものでもそうそうは揃えてはいないです。
その意味から、個々の作品鑑賞の力点が現れていそうな座談会やエッセイ、ビジュアルが充実していそうなものには、逆に興味がわきますね。

一つ思い出すのが "ブックガイド・ガイドブック ミステリ編" でご紹介されていた阿刀田高氏の「恐怖コレクション」で、自分にとっての恐怖体験を書いたエッセイでもあり、自分にとって怖い話を書いたガイドブックでもあるという辺り、楽しんで読めました(といっても今となっては、それほど尖って参考になるガイドという訳ではなくて入門編といった感じかなと思いますし、あと、面白かったからとご本人の作品を読んでみるとそちらは今一つだと感じたりもしましたが…)。
この線で行くと、以前ご紹介いただいた「映画の生体解剖~恐怖と恍惚のシネマガイド~」なんかも非常に面白そうだと今更ながら思ったりしますが、今のところ未購入・未読です。

絵画で行くと、幻想美術というTASCHENのサンプラー的な本を買ってクノップフの「見捨てられた町」に出会ったりしましたし、美術の教科書経由で出会った作品が気に入った例も多いのですが(ミーハー?)、ただ比較的近年出会って気に入ったものというと、NHKの番組で見たフランシス・ベーコンとか、もう近年じゃないですが展覧会で見たレオン・スピリアールトとか… 桑原弘明氏にしても、出会いは新聞でしたし、ガイドブック経由よりも単独の出会いが多いかも…
ただ、本はこうした出会いのルートがそんなに多くない気がします(見てないだけかもしれませんが)。でもそのアンテナの差が読める本(その他の出会い)の幅を規定してくるんでしょうね…。
音楽なんかでも好きなものは結局自分で聞いて探すしかないんだ、というようなことをいう人がいますが、でもそこまでの時間とお金をかけられる訳もない人には、出来るはずもないことで……

※ 全然関係ない話で恐縮ですが、サイトのタイトルバックの地図ですが、これはヨーロッパの古地図なんでしょうか? ふと思いついて中に見えるIVTLANDTという文字を検索してみたら、オーストリアの国立図書館収蔵のatlas何とかいう本などに行きあたったりしましたが・・・
【2015/07/20 07:35】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
 まあ、同ジャンルのガイドブックを2、3冊読んだら、多少傾向は似てきますよね。ただ、ジャンルのマニアとしては、その微妙な差異も含めて楽しんでしまうところがあるので、似たようなコンセプトの本でも集めてしまいます。

 阿刀田高『恐怖コレクション』は、基本的には著者の「恐怖の原風景」を語るエッセイなので、取り上げられる作品も断片的ですね。ブックガイドとしては弱いと思いますが、個々の作品を読んでみたくなる…という点では、なかなかのものだと思います。

 本にせよ音楽にせよ、自分の好みの鉱脈を見つけられるかどうかが、ポイントだと思います。本当に面白い作品に出会ったときって、もっとこういう本が読みたい!ってなりますよね。そのジャンルだったり、テーマだったりするものを追いかけているうちに、関連した別の部分に惹かれていくようになるというか。好きになったのがミステリとかSFとか、ジャンル分けされている分野だったら、ある程度のブックガイドや参考書があるので、そこから広げていけますし。

 昔は、本だけを頼りに、芋づる式に探していくしかなかったのと比べると、ネットで情報を得られる今の環境は、本好きにとっても福音だと思ってます。
 ただ、音楽もそうですが、本当に自分の好きなものを見つけたいと思ったら、やっぱり時間とお金はかかりますよね。そのジャンルに興味のない人から見たら、今まで自分がかけた労力は無駄だと思われるかもしれないけれど、それこそが「好き」ということだから…。

 ちなみに、タイトルバックの地図は、北欧の古地図ですね。
【2015/07/20 09:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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