マイ・ベスト・怪奇小説
 6月29日に神田で開催されたという読書イベント「豊﨑由美アワー 第39回読んでいいとも!ガイブンの輪」。ぜひ行ってみたかったのですが、都合がつかず行けませんでした。なぜ行きたかったかというと、ゲストは翻訳家の西崎憲さんで、テーマが怪奇小説だったからです。怪奇小説ファンとしては、興味津々ですよね。
 盛況だったようで、ネット上に内容やレポートなどが挙がっており、僕もいくつか読ませていただきました。当日発表されたという「西崎憲が選ぶ怪奇小説ベスト10+4」が実に興味深いです。

「6月29日『豊崎由美アワー 第39回読んでいいとも!ガイブンの輪』西崎憲さんの怪奇小説ベスト10のまとめ (Togetterまとめ)

『豊﨑由美アワー 第39回読んでいいとも!ガイブンの輪』( ゲスト西崎憲)に参加してきた(異色もん。)

ベスト10(+4)の内容は以下のようなもの。

1 W・W・ジェイコブズ『猿の手』(平井呈一訳『怪奇小説傑作集1』創元推理文庫収録)
2 チャールズ・ディケンズ『信号手』(小池滋訳『ディケンズ短篇集』岩波文庫収録)
3 M・R・ジェイムズ『笛吹かば現れん』(紀田順一郎訳『M・R・ジェイムズ怪談全集1』収録)
4 A・ブラックウッド『柳』(早川書房編集部『幻想と怪奇1 英米怪談集』ハヤカワ・ミステリ収録)
5 H・R・ウェイクフィールド『ゴースト・ハント』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
6 W・F・ハーヴィー『炎天』(平井呈一訳『怪奇小説傑作集1』創元推理文庫収録)
7 ジョン・マーティン・リーイ『アムンゼンの天幕』(小尾芙佐訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇 ポオ蒐集家』収録)
8 H・P・ラヴクラフト『ダンウィッチの怪』(大瀧啓裕訳『ラヴクラフト全集5』創元推理文庫収録)
9 J・D・ベリズフォード『喉切り農場』(吉村満美子訳『怪奇礼賛』創元推理文庫収録)
10 アンナ・カヴァン『輝く草地』(西崎憲訳『英国短篇小説の愉しみ3』筑摩書房収録)
11 E・F・ベンスン『いも虫』(平井呈一訳『怪奇小説傑作集1』創元推理文庫収録)
12 ジェイムズ・スティーヴンズ『月光に刻まれて』(未訳 東京創元社アンソロジー収録予定)
13 J・S・レ・ファニュ『ゴールデン・フライヤーズ奇談』(室谷洋三訳『ゴールデン・フライヤーズ奇談』福武文庫)
14 アーサー・マッケン『白い粉薬のはなし』(平井呈一訳『怪奇クラブ』創元推理文庫収録)

 例えばミステリでは、ベスト作品を集計すると、クリスティとかクイーンなど、定番作品が必ず出てくると思うのですが、怪奇小説でそれをやると、ものすごく好みがばらけるような気がします。
 というのも、何をもって怪奇小説の美質とするか、人によって千差万別だからです。例えばウォルター・デ・ラ・メアの作品。デ・ラ・メアみたいに、朦朧法を駆使した作品なんか、何が面白いかわからない人もいると思います。現代作家で言うと、ラムジー・キャンベルなんかもそうですね。
 また、古典的な怪奇小説ファンからは、現代のスプラッタ作品は認めない、という立場もあると思います。実際、クライヴ・バーカーが翻訳され始めたとき、批判していた方もいますし。
 というわけで、好きな怪奇小説を公にするということは、ミステリやSFなどのジャンル以上に、自らの審美感を試される…ような気がします。

 さて、西崎さんのベストは、大御所の定番作品がメインですが、逆に奇を衒わないところがいいですね。それでいて、マイナーかもしれないけれど自分は好きだ!という作品をはさんでいるところが、実ににくい。
 こういうのを見ると、自分でもベストを選んでみたくなってきます。というわけで、僕の偏愛する怪奇小説10作を選んでみました。順位を決めるというのは難しいので、順不同で。リストアップしていたら、あっという間に10作以上になってしまったので、国別に挙げてみたいと思います。イギリスとアメリカに関しては、候補作が非常に多いので、西崎さんに倣って+4作としました。

●イギリス
コナン・ドイル『寄生体』(北原尚彦、西崎憲編『ドイル傑作集2』創元推理文庫収録)
ブラム・ストーカー『判事の家』(桂千穂訳『ドラキュラの客』国書刊行会収録)
ヒュー・ウォルポール『ターンヘルム』(西崎憲訳 西崎憲編『怪奇小説の世紀3』収録)
E・F・ベンスン『アルフレッド・ワダムの絞首刑』(今本渉訳 西崎憲編『怪奇小説の世紀1』収録)
A・E・コッパード『消えちゃった』(南條竹則『天来の美酒/消えちゃった』光文社古典新訳文庫収録)
ロバート・ルイス・スティーヴンスン『びんの小鬼』(河田智雄訳『スティーヴンソン怪奇短篇集』福武文庫収録)
バーナード・ケイペス『月に撃たれて』(橋本槙矩訳『猫は跳ぶ イギリス怪奇傑作集』福武文庫収録)
マイクル・アレン『アメリカから来た紳士』(宇野利泰訳 別冊宝石108収録)
W・F・ハーヴィー『五本指の怪物』(大西尹明訳『消えた心臓』東京創元社収録)
H・R・ウェイクフィールド『赤い館』(鈴木克昌訳『ゴースト・ハント』創元推理文庫収録)
L・P・ハートリー『動く棺桶』(今本渉訳『ポドロ島』河出書房新社収録)
メイ・シンクレア『希望荘』(南條竹則訳『胸の火は消えず』創元推理文庫収録)
ローズマリー・ティンパリイ『ハリー』(乾信一郎訳 ロアルド・ダール編『ロアルド・ダールの幽霊物語』ハヤカワ・ミステリ文庫収録)
クライヴ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』(宮脇孝雄訳『ミッドナイト・ミートトレイン』集英社文庫収録)

●アメリカ
フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『手から口へ』(大瀧啓裕訳『金剛石のレンズ』創元推理文庫収録)
イーディス・ウォートン『万霊節』(薗田美和子、山田晴子訳『幽霊』作品社収録)
ジョン・ケンドリック・バングズ『ハロウビー館のぬれごと』(早川書房編集部『幻想と怪奇2 英米怪談集』ハヤカワ・ミステリ収録)
ジェローム・K・ジェローム『ダンシング・パートナー』(風間賢二訳『フランケンシュタインの子供』角川ホラー文庫収録)
H・P・ラヴクラフト『時間からの影』(大瀧啓裕訳『ラヴクラフト全集3』創元推理文庫収録)
カール・ジャコビ『水槽』(中村能三訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇 ポオ蒐集家』収録
デイヴィッド・H・ケラー『地下室の怪異』(仁賀克雄訳『アンダーウッドの怪』国書刊行会収録)
H・S・ホワイトヘッド『わな』(大瀧啓裕訳『ラヴクラフト全集 別巻1』創元推理文庫収録)
ロバート・ブロック『切り裂きジャックはあなたの友』(仁賀克雄訳『切り裂きジャックはあなたの友』ハヤカワ文庫NV収録)
フリッツ・ライバー『指人形の魔力』(竹生淑子訳『闇の世界』ソノラマ文庫海外シリーズ)
シオドア・スタージョン『監房ともだち』(小笠原豊樹訳『一角獣・多角獣』早川書房収録)
レイ・ブラッドベリ『骨』(宇野利泰訳『十月はたそがれの国』創元SF文庫収録)
レイ・ラッセル『サルドニクス』(永井淳訳『嘲笑う男』早川書房収録)
ルイス・シャイナー『輪廻』(仁賀克雄訳 アイザック・アシモフ、マーティン・H・グリーンバーグ編『恐怖のハロウィーン』徳間文庫収録)

●フランス・ベルギー
マルセル・シュオッブ『木乃伊をつくる女』(日影丈吉訳『フランス怪談集』河出文庫収録)
シャルル・ラブー『トビアス・グワルネリウス』(川口顕弘訳『19世紀フランス幻想短篇集』国書刊行会収録)
エルクマン-シャトリアン『人殺しのヴァイオリン』(南條竹則訳『イギリス恐怖小説傑作選』ちくま文庫収録)
アンリ・トロワイヤ『自転車の怪』(澁澤龍彦訳『怪奇小説傑作集4』収録収録)
トーマス・オーウェン『黒い玉』(加藤尚宏訳『黒い玉 十四の不気味な物語』創元推理文庫収録)
ジャン・レイ『闇の路地』(森茂太郎訳 東雅夫編『世界幻想文学大全 怪奇小説精華』ちくま文庫収録)
マルセル・エイメ『死んでいる時間』(江口清訳『マルタン君物語』ちくま文庫収録)
マルセル・ベアリュ『宝の島』(高野優訳『奇想遍歴』パロル舎収録)
モーリス・ルナール『歌姫』(秋山和夫訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社収録)
J・H・ロニー兄『吸血美女』(小林茂訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社収録)

●ドイツ
E・T・A・ホフマン『砂男』(池内紀訳『ホフマン短篇集』岩波文庫収録)
ハインリヒ・フォン・クライスト『聖ツェチーリエ』(種村季弘訳『チリの地震 -クライスト短篇集』河出文庫収録)
イエレミーアス・ゴットヘルフ『黒い蜘蛛』(山崎章甫訳 岩波文庫)
ハンス・ハインツ・エーヴェルス『蜘蛛』(植田敏郎訳『怪奇小説傑作集5』収録)
カール・ハンス・シュトローブル『死の舞踏』(種村季弘編『ドイツ怪談集』河出文庫収録)
ゲアハルト・ハウプトマン『海魔』(桂千穂訳 荒俣宏、紀田順一郎編『怪奇幻想の文学5 怪物の時代』新人物往来社収録)
レオ・ペルッツ『月は笑う』(前川道介訳『独逸怪奇小説集成』国書刊行会収録)
アルフレート・クービン『吸血鬼狩り』(前川道介訳『独逸怪奇小説集成』国書刊行会収録)
クルト・クーゼンベルク『休まない弾丸』(前川道介訳『壜の中の世界』国書刊行会収録)
ミュノーナ『不思議な卵』(鈴木芳子訳『スフィンクス・ステーキ』未知谷収録)

●ロシア
ニコライ・ゴーゴリ『妖女 (ヴィイ)』(原卓也訳『怪奇小説傑作集5』創元推理文庫収録)
アレクセイ・レーミゾフ『犠牲』(原卓也訳『怪奇小説傑作集5』創元推理文庫収録)
アントン・チェーホフ『黒衣の僧』(原卓也訳『怪奇小説傑作集5』創元推理文庫収録)
アレクセイ・トルストイ『吸血鬼の家族』(粟原成郎訳 川端香男里編『ロシア神秘小説集』国書刊行会収録)
ウラジーミル・フョードロヴィチ・オドエフスキー『シルフィッド ある分別家の手記より』(望月哲男訳 川端香男里編『ロシア神秘小説集』国書刊行会収録)
ミハイール・ニコラエヴィチ・ザゴスキン『思いがけない客』(西中村浩訳 川端香男里編『ロシア神秘小説集』国書刊行会収録)
フョードル・クジミッチ・ソログープ『光と影』(貝沢哉訳 沼野充義編『ロシア怪談集』河出文庫収録)
アレクセイ・ニコライヴィッチ・トルストイ『牧神(ファヌス)』(佐々木彰訳 川端香男里編『現代ロシア幻想小説』白水社収録)
アレクサンドル・グリーン『魔のレコード』(沼野充義訳 沼野充義編『ロシア怪談集』河出文庫収録)
リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『新しい魂』(沼野恭子編訳『私のいた場所』河出書房新社収録)

●東欧
スワヴォミール・ムロージェック『小さな友』(長谷見一雄訳『象』国書刊行会収録)
レシェク・コワコフスキ『こぶ』(沼野充義訳 沼野充義編『東欧怪談集』河出文庫収録)
ステファン・グラビンスキ『シャモタ氏の恋人(発見された日記より)』(沼野充義訳 沼野充義編『東欧怪談集』河出文庫収録)
ガラ・ガラクティオン『カリファールの水車小屋』(直野敦訳 吉上昭三ほか編『現代東欧幻想小説』収録)
イヴォ・アンドリッチ『象牙の女』(栗原成郎訳 吉上昭三ほか編『現代東欧幻想小説』収録)
ゾラン・ジフコヴィッチ『ティーショップ』(山田順子訳『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』黒田藩プレス収録)
カレル・チャペック『最後の審判』(栗栖継訳『ひとつのポケットから出た話』晶文社収録)
イヴァン・ヴィスコチル『ズビンダおじさんの<冬外套>』(千野栄一訳『そうはいっても飛ぶのはやさしい』国書刊行会収録)
ヨゼフ・ネズヴァードバ『吸血鬼株式会社』(深見弾訳 ダルコ・スーヴィン編『遥かな世界 果てしなき海』早川書房収録)
ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』のエピソード(どれでも可)(工藤幸雄訳『サラゴサ手稿』国書刊行会収録)

●南欧
ジョヴァンニ・パピーニ『返済されなかった一日』(河島英昭訳 ボルヘス編『逃げてゆく鏡』国書刊行会収録)
ディーノ・ブッツァーティ『七階』(脇功訳『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』岩波文庫収録)
プリーモ・レーヴィ『ケンタウロス論』(関口英子訳『天使の蝶』光文社古典新訳文庫収録)
トマソ・ランドルフィ『ゴーゴリの妻』(米川良夫訳『カフカの父親』国書刊行会収録)
マッシモ・ボンテンペルリ『便利な治療』(坪井章訳『わが夢の女』ちくま文庫収録)
アルベルト・モラヴィア『夢に生きる島』(関口英子訳『薔薇とハナムグリ』光文社古典新訳文庫収録)
ホセ・デ・エスプロンセダ『義足』(東谷穎人訳『スペイン幻想小説傑作集』白水Uブックス収録)
ベンセスラオ・フェルナンデス=フローレス『暗闇』(東谷穎人訳『スペイン幻想小説傑作集』白水Uブックス収録)
ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン『死神の友達』(桑名一博訳 ボルヘス編『死神の友達』国書刊行会収録)
エッサ・デ・ケイロース『大官を殺せ』(彌永史郎訳『縛り首の丘』白水Uブックス収録)

●ラテンアメリカ
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『円環の廃墟』(鼓直訳『伝奇集』岩波文庫ほか収録)
マヌエル・ムヒカ=ライネス『吸血鬼』(木村榮一訳 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』河出文庫収録)
オクタビオ・パス『波と暮らして』(井上義一訳 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』河出文庫収録)
アルフォンソ・レイエス『アランダ司令官の手』(井尻香代子訳 木村榮一編『美しい水死人』福武文庫収録)
マヌエル・ローハス『薔薇の男』(坂田幸子訳 木村榮一編『美しい水死人』福武文庫収録)
フリオ・ラモン・リベイロ『分身』(入谷芳孝訳 木村榮一編『遠い女』国書刊行会収録)
カルロス・フエンテス『チャック・モール』(木村榮一訳『フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇』収録)
アドルフォ・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』(高岡麻衣、野村竜仁訳『パウリーナの思い出に』国書刊行会収録)
エンリケ・アンデルソン=インベル『魔法の書』(鼓直訳『魔法の書』国書刊行会収録)
ガブリエル・ガルシア=マルケス『大きな翼のある、ひどく年老いた男』(鼓直、木村榮一訳『エレンディラ』ちくま文庫収録)


 好みを優先させたら、ブラックウッド、M・R・ジェイムズ、マッケンの3巨匠が外れてしまいました。英米作品は、翻訳量が圧倒的なこともあって、候補作が山のように挙がってきます。絞るのが難しいですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
行ってみたいイベント
外国文学が売れず、取次さんが倒産する時代でもファンのためにイベントを開催して下さる、その意気や良し!怪奇ものを選ぶ時、人の内面が剥き出しになるから、それも怖い。
小説より漫画で一層顕著なような。ある人には全く怖くない一編が違う人には物凄く怖い
とか。kazuou様の偏愛怪奇小説も堪らないラインナップです。自分はイギリスの怪奇小説が一番好きでロバート・エイクマン作品が怖くてたまりません。
【2015/07/04 12:45】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
エイクマンは『鳴りひびく鐘の町』とか『列車』なんか好きですね。「よくわからないけれど怖い」ところが、凄いといえば凄いです。
やっぱりイギリス作品は、作家の層が厚いですよね。
【2015/07/04 16:45】 URL | kazuou #- [ 編集]

ありがとうございます
ごぶさたしております。リンクありがとうございます!そして何より、沢山の怪奇小説・海外文学を読んでこられたkazuouさんの現代ものや非英米ものを含んだベストが非常に興味深く参考になります。拙ブログの方でリンクさせていただいてもよろしいでしょうか?
【2015/07/04 18:23】 URL | 放克軒(さあのうず) #- [ 編集]

>さあのうずさん
レポート、興味深く読ませていただきました。
僕も行ってみたかったです。怪奇小説系の話題って、ネットでもあんまり挙がらないので。

もちろん、リンクしていただいて結構ですよ。
【2015/07/04 18:52】 URL | kazuou #- [ 編集]

「怪奇小説の」ベスト
最近精力的に面白い記事をアップされていて、楽しませて頂きつつなかなか声援を送れずにいますが、イベントの話題に乗ったとはいえ、ここに来てベスト系の記事も来ましたね!

一つ感じたのはそうは謳っていないけれどこれは短編のベストなんだなということ。怪奇小説の本分は短編にあり、なのでこれはまぁそうだろうなという感じ。
もう一つは「怪奇小説」というくくり方の問題。イベントでもその区別について話が出たとのことですが、確かに恐怖とあまりリンクしない、オチの鮮やかさやエスプリの効いた話、異界と絡まないミステリ的なもの、といった類のものは含めにくくなりますね(コリアのような異色作家系はこれで入りにくくなるような)。
古びた、迷信とか伝承に近しいものがあるような・・ 真っ暗な部屋の隅、あるいは向こう側に感じてしまうような何かに関わる話とでもいったらいいのか・・

豊崎さんは子供のころ読んだ童話にふれていたそうですが、子供の頃であった童話には確かに恐怖の要素もあって、例えばアンデルセン童話の主人公何かに降りかかる苛烈な運命などにも恐怖を感じていた気がしますが、その辺りはまた怪奇小説とは別ジャンルのものですよね・・・

kazuouさんのリスト、地域別にこれだけ挙げられることにまず驚きますが(数自体は絞らなければ、それなりに怪奇ものを読んだ人なら、人それぞれに幾らでも挙がるとは思うのですが)、結構な数なのでリストだけでも読みごたえがありました。
おなじみの話(「黒い玉」は外せないですね。個人的に「七階」を怪奇小説とするかは微妙ですが、ベスト的な傑作なのは同意、ジャコビも結構怖いですよね)、読んだことのなさそうなもの(「サラゴサ手稿」、高くてもいいからどこか完全版を翻訳紹介してくれないでしょうかね・・・)もあれば、読んだ記憶はあるけれどあまり印象は強くなかったり果ては内容を覚えていないものまで(「ズビンダおじさんの<冬外套>」ってどんなのでしたっけ…?)、頭の下がるリストです。。
個人的には、各作品にコメントが付いていてくれたら、もっと楽しみが広がったのですが、それはぜいたくというものですよね、多分・・
この数にコメントが付くとちょっと長くなりすぎてしまうというのもありますが、ただ、怪奇短編集の各作品に付く枕の解説が大好きな人間としてはそういう形で紹介されてくれると嬉しいというのと、やっぱり中身が分かる手掛かりがあった方が、未知の作品ならよりわくわくしたり、既読ならそういうところに感じるものがあるのかと思ったりできるので・・

この作家だったら自分ならこれかなぁというのも、リストを見る側の勝手な楽しみですね。
例えば、バーカーだったら自分なら「豚の血のブルース」かなぁとか。ミートトレインはラストのまとめ方など、どこか作り物めいて感じるところがあって… 閉鎖空間での心理劇的な要素もある「ブルース」の方により惹かれるのですが… もっとも、個人的な感性の問題だと思うのですが、血の本で好きな作品というと、どうしても特色とされるテクニカラー的な作品よりも「生贄」とか「死は生なればなり」など比較的モノクロームな印象の作品を挙げてしまうところはあります。
ラヴクラフトはやはり外せない作家ですが、個人的に一つならやはり「インスマウスの影」かなぁ、とか。この作品、ホラー作品で使われる様々なガジェットやシチュエーションがこれでもかというほど詰め込まれていて、振り返って考えたときにそのサービス精神に驚かされるんですよね。勿論読んでいる時のサスペンス感も十分ありますし。
この作家の作品は差別や偏見との結び付きも指摘されますが、それは未知の恐怖を描くものであることの裏返しでもあって、当時の人の感じていた(余所者、異人や異文化に対する?)恐怖感や警戒心を追体験させてくれるという意味でも貴重な気がします。他に挙げるなら何かに冒された地域の恐怖を描いた「宇宙からの色」でもいいかなと思いますが、『時間からの影』を選ばれたのはどういうところからなのでしょうか?
(この辺は書き始めるときりがないですね…)

個人的に挙げるなら他にこんな作品が・・・という話とか書けばきりがありませんが、既に長すぎるのでこの辺りで。
【2015/07/05 06:09】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
 怪談の極意は短篇にあり、ではありませんが、基本的に短篇が前提になっていますね。あと、「怪奇小説」というくくり方だと、いわゆる「異色短篇」や「奇妙な味」の一部の作品も入れにくくなる気はします。かって都筑道夫はアンソロジー「幻想と怪奇」で、その種の作品を収録して、読者を驚かせたわけですが。
 「怪奇小説」本来の狭義の意味だと、おそらく「超自然的な現象が起こる作品」になるんだと思いますが、そうすると精神的な怖さとか狂気を描いた作品とかが含められなくなってしまうし。例えばモーパッサンの作品に、狂気を描いた一連の作品がありますが、あれなんか怪奇小説としか呼びようがないですよね。

 最初、英米作品だけのベストを組んでいて、コメントはつけようかと思ったのですが、他の国のベストも増やしていったら、長くなってしまったので…。

 いちおう一作家一作品という縛りは入れています。そうでないと、4つも5つも入ってきてしまう作家がいるので。
 ドイツ・フランスは別として、他の諸国だと、おそらく英米型の「怪奇小説」という概念がない国があって、その意味で「怪奇小説」に分類するのは微妙、という作品もありますね。

 バーカー好きな人でも、やっぱり好みの作品は分かれますね。僕は『ジャクリーン・エス』とか『マドンナ』あたりも好きです。最初に読んだバーカーが一巻の『ミッドナイト・ミートトレイン』で、それまで読んだことのあるのが古典的な怪奇小説ばかりだったので、すごくショッキングでしたね。

 ラヴクラフトは『インスマス』『クトゥルーの呼び声』『ダンウィッチの怪』あたりが、定番でしょうか。これも人によって好みが分かれそうです。
 ラヴクラフト作品は、イメージは壮大なんだけれど、描写力が追いついていないところがあるんですが、『時間からの影』に関しては、そういうところがあまり感じられないんですよね。ラヴクラフトが描く「恐怖」って具体性に乏しいのですが、この作品に関しては、具体的に「恐怖」を感じさせるのに成功している感じがします。
 SF的な要素も強くて、ラヴクラフトがもっと長生きしていたらSF作家になったのではないか、という説もありますが、僕も同意見です。
【2015/07/05 09:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


近時では「黄色い壁紙」(シャーロット・パーキンス・ギルマン)がマイベスト・ホラー短篇ですが、オール・タイム・ベストを選ぶとなると、なるほど、超自然の恐怖になってきそうですね。
【2015/07/05 19:31】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
 とくに意識したわけではありませんが、ベスト作品のリストを改めて見てみると、超自然を扱った作品がほとんどですね。メイ・シンクレアなんかは、登場人物の精神的な危機の要素なんかも入ってきたりしますが。

 『黄色い壁紙』は、相当怖い作品ですよね。「怖さ」で言えば、ウェイクフィールドの『赤い館』と双璧だと思います。
【2015/07/05 19:39】 URL | kazuou #- [ 編集]


『幻想と怪奇』②まで読み終わりました!
①のときも思いましたが、さすがのアンソロジーです。好みはあるけど、クオリティーは高いです。
一緒に『終わらない悪夢』(ダークファンタジーシリーズ)を借りたので、余計にそう思いました(失礼ながら無名の作家さんの作品には読みにくいものが多かった)。
こちらでkazuouさんが挙げている作品、まだまだ読んでないのがたくさんあるので、これから探してみようと思います(所収している本まで書いてあるので参考になります)。

①に入っていた「アムンゼンの天幕」は気に入りました。テントの中にいたのが何だったのか…ちゃんと書かないことで恐怖をあおるところが…。
日本の作家なんですけど、小松左京の「牛の首」と似てませんか? 具体的に何が怖いのか、ちゃんと書いてないのに怖い…。
【2015/10/01 11:32】 URL | ゆきやまま #M8wPbJsk [ 編集]

>ゆきやままさん
『アムンゼンの天幕』は、恐怖の対象をはっきり描かないところが技巧的ですね。やっぱり「はっきり」描いてしまうと、怖くなくなってしまう、ということなんだと思います。
なるほど、読者の想像力にまかせる、という点では、『牛の首』との共通点もありますね。そういう意味では、《リドル・ストーリー》のバリエーションと考えることもできるのかも。


ヴァン・サール編のアンソロジーは玉石混交なので、B級作品も混じってますね。個人的には好きなんですけど。
【2015/10/01 18:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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