7月の気になる新刊とグラビンスキのこと
7月2日刊 ブライアン・オールディス『寄港地のない船』(竹書房文庫 予価756円)
7月8日刊 レオ・ペルッツ『第三の魔弾』(白水Uブックス 1728円)
7月8日刊 ロアルド・ダール『来訪者 新訳版』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価950円)
7月12日刊 佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』(平凡社ライブラリー 予価1512円)
7月13日刊 カーター・ディクスン『ユダの窓』(創元推理文庫 予価1058円)
7月23日刊 ジョン・ヴァーリイ『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作選』(ハヤカワ文庫SF 予価1404円)
7月24日刊 『江戸川乱歩妖美劇画館 1巻 パノラマ島奇談/地獄風景』(少年画報社 予価864円)
7月24日刊 『江戸川乱歩妖美劇画館 2巻 白昼夢/人間椅子/芋虫/お勢地獄/巡礼萬華鏡/お勢登場』(少年画報社 予価864円)
7月25日刊 ジョー・ヒル作/ガブリエル・ロドリゲス絵『ロック&キー』(飛鳥新社 予価4320円)
7月29日刊 セバスチアン・ジャプリゾ『新訳版 新車のなかの女』(創元推理文庫 予価1210円)
7月29日刊 海野十三『獏鸚(ばくおう) 名探偵帆村荘六の事件簿』(創元推理文庫 予価1080円)
7月刊 ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』(国書刊行会 予価2592円)


 ブライアン・オールディス『寄港地のない船』は、世代間宇宙船ものとして、未訳のオールディス作品では有名な作品ですね。本当に突然なのですが、映画化の話でもあるのでしょうか。

 レオ・ペルッツ『第三の魔弾』は、ペルッツの代表作というべき作品。国書刊行会の《世界幻想文学大系》に収録された作品ですが、近年は手に入りにくくなっていました。
 ペルッツ流ゴシック・ロマンスといった感じの作品で、彼の作品中ではシリアス度がいちばん高いんじゃないでしょうか。僕も高校生のころに読みましたが、叢書の中でも、物語の面白さとリーダビリティの高さは図抜けていました。
 というのも、この《幻想文学大系》って、象徴性や秘教性が高い作品が多くて、エンタテインメントとして無条件に楽しめる作品が少ないんですよね。エンタテインメントとして一般の読者にも楽しく読めるのって、この『第三の魔弾』のほかは、モームの『魔術師』、セルバンテスの『ペルシーレス』ぐらいでしょうか。とにかく、ペルッツの代表作が手軽な形で読めるようになるのは、嬉しいですね。

 ロアルド・ダール『来訪者 新訳版』は、ダールの傑作集の新訳版。ダール作品の中でも『オズワルド叔父さん』と並んで、艶っぽい話が多く、大人の童話集といった趣の作品集です。

 SF短篇の名手として知られるジョン・ヴァーリイも、いつの間にか入手できる短篇集が全滅のようで、再編集の傑作集として刊行されるのが『逆行の夏 ジョン・ヴァーリイ傑作選』です。ハヤカワは定期的に、往年のSF作家の傑作集を出しているような印象がありますね。

 7月の新刊でいちおしはこれ、ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』です。ポーランドでほぼ唯一とされる恐怖小説作家の短篇集です。訳者の芝田文乃さんが、以前から電子出版でいくつかの収録作品を出していましたが、今回は短篇集の全訳になるようです。
 このブログでも、収録作品のいくつかを紹介しています。( 「魔の列車  ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』」
 20年前の『東欧怪談集』でグラビンスキの作品を読んで以来、ずっと邦訳を待ち続けていた作家なので、感無量です。これを機に、もっと邦訳が進んでほしいですね。
 国書刊行会でも、すでに紹介ページができていたので、載せておきます。
 http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336059291/

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
海野十三
海野十三の帆村荘六シリーズは青空文庫の電子書籍で親しんでいました。
青空文庫の海野十三は約170編。コンテンツのみであれば、紙本コレクションを電子書籍で拾って読むこともありでしょうか。
その場合、"選択"という知的営為は、著作権によっても保護されないんですよね。
【2015/06/20 14:33】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
青空文庫でそんなに読めるんですか。
著作権の切れた作家の作品を出版するのには、やっぱりある程度の「付加価値」が必要になってくるのかもしれませんね。

以前出ていた、ちくま文庫の傑作選も入手できなくなってますし、個人的には怪奇小説をまとめた傑作集が欲しいところです。
【2015/06/20 18:56】 URL | kazuou #- [ 編集]

第三の魔弾
ベルッツの作品が図書館にあることが分かり「夜毎に石の橋の下で」から借りて読んでおります。西洋とも東洋とも違うユダヤ人の失われた世界が魅力的です。グラビンスキの本も
図書館が入れてくれますように。世代間宇宙船というと佐藤史生先生を思い出します。
先生が今もご健勝で現役の漫画家でいて下さったらどんなに良かったでしょうか。
【2015/06/22 12:30】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


新訳版がいろいろ出るのですね。

「出版社の冊子」(書店で無料で入手できるもの)に、
翻訳ものが売れない→ミステリは「平積み」にしないと読者が手に取らないから、
新訳して「平積み」にするというような事が書いてありました。

そんなに翻訳は読まれなくなったのかと、愕然としています。

【2015/06/26 22:03】 URL | fontanka #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
ペルッツの邦訳は、長いこと『第三の魔弾』しかなかったので、シリアスなゴシックロマンスを書く作家だと、ずっと思ってました。
近年邦訳された作品郡を読むと、サスペンスもユーモアも恋愛要素もあるし、本当に多彩なんですよね。下手に長大にならないところも素晴らしい。
【2015/06/27 08:24】 URL | kazuou #- [ 編集]

>fontankaさん
ちょっとした規模の書店に行くと、翻訳ものって、平積みになっていることが多くて、意外と売れているのかなあと思ってました。


確かに、メジャー、マイナー含めていろんな作品が出るようにはなったと思うのですが、書店から消えるのが、ものすごく速くなっているような気がします。半年前に出た本がもうなかったりしますし。
【2015/06/27 08:28】 URL | kazuou #- [ 編集]

寄港地のない船
パンドラムという映画を思い出しました。同じ作者の「地球の長い午後」より暗いような。

佐藤史生先生の「阿呆船」のラスト、形容のすべなきこの怪異この異形この豊穣。
混沌こそはわれらが神、豊穣の女神のつれあい、祭りを!みたいな終わり方だったらなあ。
【2015/07/12 15:48】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


購入しましたが、まだ未読です。
発行部数が少ないのか、大きい書店にもなくて、探し回って、
結局、地元の書店で見つけました。
これは、すぐ入手困難になりそうな感じですね。
【2015/07/14 21:07】 URL | kazuou #- [ 編集]

第三の魔弾
読了しましたが頭と胸がいっぱいでグラグラします。主人公と公爵の血の宿縁。貴殿が血で染めなかった畑はなく、絞首台に変えなかった木はない。
【2015/07/22 11:42】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

ゴシック・ロマンス
この作品って、ペルッツのゴシック・ロマンスですよね。時代といい、舞台といい、映画化したら映えそうです。
【2015/07/26 06:44】 URL | kazuou #- [ 編集]

軍記物の魅力?
「第三の魔弾」を読みました。
ストーリー自体は、本当に3発の銃弾が撃たれるまで(もっとも、3発目が実際に撃たれたのかどうか不明ですが)が書かれたもので、意外と短期間のシンプルな物語でしたが、色々な魅力のある本でした。
スペイン(・ポルトガル?)のラテンアメリカ植民地化の歴史は、実際のところ子供向けアニメ(のおまけ情報)で得た知識があるくらいで、人名はコルテスの名(メンドーサの名前は出てきましたが、多分史実の副長官とも作中の人とも別物)が分かるくらい。なので、時代を経た空想的な作品とはいえ、一方の当事者でもあるヨーロッパ人の目によるアステカ征服の物語という点でも面白く読みました。欧州人の目から見ても、コルテスの征服は非情で非道だったということでしょうか。

霧の向こうにある過去を呼び覚まそうとするような導入部はさすがという感じ。
ただ、グルムバッハが主人公であるにもかかわらず、グルムバッハ視点の記述が少なくて、特に初めは登場場面もかなり少ないのでちょっとじれました。代わりにスペイン軍の動向に結構ページが割かれ、コルテス、そして狡猾(かつ幸運)なメンドーサの人物像にはグルムバッハ以上に肉付けがされていて、描きたかったのはつまりは彼らのことなのかと感じるほど。
ある意味狂言回しかもしれないとも思えるグルムバッハですが、しかし最終盤の姿には何だかやるせないものを感じてしまいます。
第3の魔弾が奪ったのは彼の精神だったということなんでしょうか。

ところで、読んでいて特に面白かったのが兵隊たちの野卑で偏見・迷信に満ちた会話。あの国の女はみな四つん這いで動き、卵を産んでかえすだとか、当地のイチジクの実に十字架と拷問具が種の代わりにどっさり入っているだとか… まぁ圧倒されました。
これが作者の想像力の産物なのか、時代考証によるものなのか不明ですが、空想ならまるでマコーマックのような空想力、時代考証なら時と所が変わると会話もこうも変わるのかと、いずれにしても興味深いです。
英国トラッドの歌詞も、そういえば特にオリジナルの歌詞はそのまま世に広めるのがはばかられるような歌詞だと言いますし、日本の海女さんなどの会話もかなりきわどくて野卑なものが多かったらしいとかいった話を連想しました。
この辺、ほとんど読んだことはないのですが軍記物(のサブプロット)の魅力はこんな感じなのかと思ったり。戦闘に明け暮れるのですからこの話自体軍記物と言っていいのかもしれないですが。

あと、悪魔がまるで悪徳商人のようで、騙されて悔しがっていたりするのも面白いです。今の発想からすると、超常的な存在であれば情報が偽りかどうか、確認するのもわけないのではと思ってしまいましたが、当時の悪魔ってもっと人間に近い存在だったんでしょうか・・・
【2015/08/16 16:36】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

臨場感
 19世紀以前の欧米の小説で、南米が登場するとたいてい書き割りのような感じで、あまりリアリティを感じなかったりするのですが、この作品の南米の描写はすごいですよね。ペルッツの他の作品でも、戦争の描写って臨場感があるように思います。

 ペルッツの時代考証かどうかは何とも言えませんが、この時代の南米について書かれた『新世界のユートピア』(増田義郎)なんかを読むと、当時の人種差別や残虐行為はひどいものだったみたいです。

 欧米の小説に登場する「悪魔」は伝統的なもので、ある種ステレオタイプな型があったりしますね。ポーやホフマンの作品に登場する「悪魔」は滑稽なものが多かったりしますし。
【2015/08/16 21:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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