果実たっぷりの女  唐瓜直『美しい果実』
4041030366美しい果実 (幽BOOKS)
唐瓜 直
KADOKAWA/角川書店 2015-05-22

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 第9回『幽』文学賞短編部門大賞の受賞作である、唐瓜直『美しい果実』 (幽BOOKS) は、恋人を食べるという「カニバリズム」と、人間が植物に変身するという「植物幻想」を合わせたような奇想小説です。

 皮膚の硬化する謎の病気にかかった妻は、夫に自分をある農園に埋めてほしいと懇願します。望み通り、農園に妻を埋めますが、そこには自分と同じように、妻を埋めたという夫たちが多数働いていました。やがて、妻を埋めた場所からは、人型の果実が育ち始めますが…。

 愛する妻や恋人にもう一度会いたい。男たちの純粋なまでの愛情が悲劇を引き起こす…と思いきや、そうはなりません。農園に埋められた女たちは、体に果実を宿した果実人間として生まれ変わり、その果実はこの世のものとも思えないほど美味なのです。
 妻をこの世にとどめておきたいと考える男たちの愛情は、やがて果実そのものとなった妻を食べたいという倒錯したものに変わっていきます。そこに悲壮感はほとんどなく、あっけかんとしたユーモアさえたたえています。
 テーマからは、グロテスクな作風を思い浮かべるでしょうが、そうした要素はあまり感じられません。むしろ、果実になった女たちのエロティシズム、食べることそのものに関する官能性が強く押し出されているのが特徴です。

 受賞作は短篇なのですが、本作はそれを核とした連作短篇集になっています。二話目以降の語り手は、妻を失った当事者だけでなく、マッサージ師であったり、一般の女性だったり、学生だったりと、バラエティに富んでいます。
 果実の特徴や、農園の主催者である男の謎などが、小出しに明かされてゆくミステリ的な興味もあり、読んでいくうちに作品世界が広がっていくのも魅力の一つですね。

 同種のテーマを扱った作品として、ジョン・コリア『みどりの思い』、水谷準『恋人を喰べる話』などが、選評でも挙げられていますが、確かにこれらの作品に近いようなトーンを持った作品ですね。自分が読んでいて思い出したのは、R・C・クック『園芸上手』(橋本槙矩、宮尾洋史訳『イギリス怪奇傑作集』福武文庫収録)です。
 あるいは、ハリー・クレッシング『料理人』(一ノ瀬直二訳 ハヤカワ文庫 NV)や、ジェフ・ニコルスン『食物連鎖』(宮脇 孝雄訳 早川書房)などとも、食に関する官能性を描いた作品としては共通するところがありますね。

 従来から、いわゆる「怪談」をテーマにしてきた『幽』文学賞ですが、今回から文学賞の名前から「怪談」を削除したそうです。それに合わせたかのように、本作は「怪談」というよりは「奇談」といった方がふさわしいような作品になっています。
 変わった小説、面白い小説を読みたい方には、オススメしておきましょう。

テーマ:ブックレビュー - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
やっと図書館で借りられました。
装幀が内容にピッタリで美しく官能的です。作者は男性だと思うんですが女性的な感じも
します。女性マッサージ師の出てくる「ヘスペリスの園」なんか、この人の施術を是非受けて
みたいと、ウットリしてしまいます。読み終わるとデパートの高級フルーツ売り場に駆け込んでお財布の許す限り、宝石のような果物を買いたくなります。スイカの名産地在住で家庭菜園でキウイやイチジクはナンボでも採れるし、柿などは食べきれなくて柿酢にする程。でも
この作品に出てくるのは、もっと金と人手のかかった高級品のような気がします。石川県産の一房100万円の葡萄のように。この作品を教えて下さって有難うございました。
【2015/07/20 15:20】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


「食」を扱った作品には、官能性がついてまわる印象があるのですが、この作品はそれこそストレートでしたね。
菜園とか園芸とかやっている人は、やはり楽しめたんでしょうか。
【2015/07/20 18:24】 URL | kazuou #- [ 編集]


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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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