短篇集を読む

4309023800ゾンビ・アパート
飯野 文彦
河出書房新社 2015-05-24

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飯野文彦『ゾンビ・アパート』(河出書房新社)
 主にノベライズで知られた作家ですが、時折発表していたホラー作品は、なかなか魅力的で短篇集がまとまるのを楽しみにしていました。
 将来を嘱望されていた落語家が邪神の眷属だったという、ひねったクトゥルー神話作品『襲名』、ゆがんだ親子愛を描く『愛児のために』などが面白いですね。江戸川乱歩の『押絵と旅する男』に着想を得たと思しい『横恋慕』は、レンズ効果を使い、自分の頭の中に横恋慕した女性を取り込んでしまおうとする男を描いた、奇想に富んだホラー作品。突拍子のなさに驚かされます。



4334753108薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集 (光文社古典新訳文庫)
モラヴィア 関口 英子
光文社 2015-05-12

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アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ』(関口英子訳 光文社古典新訳文庫)
 イタリアの文豪モラヴィアには、幻想的・超現実的な短篇を集めた《シュルレアリスム・風刺短篇集》があり、『薔薇とハナムグリ』には、50篇以上からなるこの作品集から、15篇が訳されています。
 割と単純な寓話から、ホラーそこのけの幻想小説まで、傾向もさまざまで楽しめます。
 投機目的で、生物とも物ともつかない謎の品物「パパーロ」を買い込んだ男の悲喜劇を描く『パパーロ』、悪臭を発し、さらに病気が進むと悪臭がかぐわしい香りに変わるという病気を描いた風刺的作品『疫病』などが面白いです。
 いちばん読み応えがあるのは、夢によって全島民を支配する怪物を描いた『夢に生きる島』。テーマはボルヘス、描写はカルヴィーノ、怪物はラヴクラフトといった感じの作品で、ユーモアさせたたえた不思議な雰囲気の怪奇小説です。



4153350206紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
ケン・リュウ 古沢嘉通
早川書房 2015-04-22

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ケン・リュウ『紙の動物園』(古沢嘉通訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 アジア系アメリカ作家によるSF短篇集です。表題作の『紙の動物園』もなかなか良いのですが、他の収録作品がどれを取っても面白いので驚かされます。
 縄を結ぶことで情報を伝えるという技術を持つミャンマーの民族を描いた『結縄』、宇宙人がどんな「本」を作り得るのかを描いた『選抜宇宙種族の本づくり習性』、愛を持ったAIを作ろうとする夫婦を描く『愛のアルゴリズム』など。
 アジア風のウェットな感性を中心に据えた作品もあるかと思えば、中国風幻想譚とサイバーパンクを合わせたような『良い狩りを』みたいな作品もあり、伝統的なSFのテーマに沿って描かれた作品もありと、素晴らしい短篇集だと思います。一冊読めば、必ずどれか気に入る作品があるでしょう。、

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
紙の動物園、装丁も素敵な絵ですね。
「清麗閣」は諸星先生が描くグリム童話のお話にありそうです。
佳き日になる筈が、スクラプスティックに地獄絵図に突入していって
誰も逃げ出さない。「夢に生きる島」北○鮮はリアルであんな風なんでしょうね。

自分はテッド・チャンよりケン・リュウの方がしっくりきます。
しかし華麗なる経歴ですね。多才というか天は何物も与えたもうたというか。
「良い狩りを」が最高でしたが腸内フローラの話も面白かった。
「結縄」は高野秀行さんの黄金の三角地帯の紀行に出てきそう。
ホロ苦い結末です。
【2015/06/12 13:35】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


『清麗閣』は、諸星大二郎風というか、星新一風というか…。

ケン・リュウは、あのレベルの作品を書いていて、しかも多作というのは凄いですよね。一昔前のロバート・シルヴァーバーグみたいです。
比較されるテッド・チャンは、難解な作品もありますが、いわゆる「センス・オブ・ワンダー」が感じられるものが多いので、個人的には大好きです。次の短篇集が出るのはいつごろになるんでしょうか。

【2015/06/13 08:28】 URL | kazuou #- [ 編集]

あれこれ
「紙の動物園」は珍しく、本屋で存在を知って、手に取ってみた結果買うことにしたのですが、ご紹介を読んでも面白そうなので楽しみにしています。
「薔薇とハナムグリ」は、ここを拝見して買いました。モラヴィアは昔ハヤカワ文庫のリストを見ると沢山でていた記憶がありますが、(上流階級の?)あまりドラマチックではない大河劇という感じで果たしてこれは読んで面白いのだろうか??という感じで横目で見ていましたが、シュールリアリズム系の作品もあるんですね。
「ゾンビ・アパート」も買おうかなぁ・・こちらで最近ご紹介のある和製ホラーは結構魅力的なものが多いので、最近は意欲的な作家さんが多いのかなぁと思ったりしていますが。

あちこちに書くのも何なのでここにまとめて。
7月はやはり「魔弾」とグラビンスキが非常に楽しみです。何れもこちらで出会った作品・作家でもありますし。「街角の書店」は「赤い心臓と青い薔薇」読みたさに買って見ようか迷っています。
ナイトランドの話題でちょっと引っかかったのがラズニック・テムの話。というのは私は結構この人の作品が好きなので。スピード感や構成の妙などはあまり感じませんが、雰囲気醸成と心理世界の描き出しに非常に長けている気がします。

ちょっと驚いたのがアイヴァスの「黄金時代」。ネットを見ると、他でも褒めているところがありますね。個人的には1作目でちょっと懲りた感じだったのですが、1作目とはかなり違った感じなのでしょうか?あるいは全体の感じは変わらないけれど、そこに非常に魅力的な長所が加わった感じ、なのでしょうか?

マルセル・シュオッブ、聞き覚えがあるなぁと思ったのですが、確か風間賢二氏が「黄金仮面の王」だったかを何かのベストの1冊として挙げておられませんでしたっけ?結局全く作品には触れておらず、初めのうちシュペルヴィエルと混同していたりしましたが、作家・作品としての魅力はどのような所になりますでしょうか?(話題としては造本・装丁の話題でしたが)
【2015/07/05 06:11】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]


 モラヴィアは、早川がたくさん邦訳を出していましたね。それもあって、亡くなったとき、『ミステリマガジン』で追悼特集があったんですよね。そのときに《シュルレアリスム短篇集》からの紹介があり、初めて幻想系作品の存在を知りました。

 ペルッツはともかく、グラビンスキの出版は驚きました。実際、商業出版が難しいので、電子書籍で出版されたんだと思っていたので。それなりに反響があったということでしょうか。グラビンスキが出せるなら、たいていのマイナー作家は出版できるような気もします。

 ラズニック・テム、この人、アンソロジーの短篇などを読むと、味のある作家ですよね。長編はたぶん一冊だけ邦訳されてて(『深き霧の底より』 )、あんまりぱっとしなかった印象がありますが。

 アイヴァス、僕も邦訳1作目の『もうひとつの街』はシュールすぎてついていけなかったのですが、2作目の『黄金時代』は面白く読みました。『もうひとつの街』とは大分違いますよ。
 『黄金時代』は、淡々と舞台となる島や人々を描写していくうちに、幻想性が立ち上ってくる…といった感じの作品です。『もうひとつの街』みたいに、地の文がすでに理解できない…といったことはないと思います。クリストファー・プリーストの『夢幻諸島から』とか、カルヴィーノの『見えない都市』、キアラン・カーソン『琥珀捕り』あたりに近い印象でしょうか。

 シュオッブ、この人の魅力って何だろう?と言われると、説明するのが難しい作家だと思います。怪奇小説や幻想文学の文脈で語られる作家ですが、ことさら怪奇幻想を志向している作家ではないんですよね。
 該博な知識を持って、空想的な作品を書く作家、とでも言いましょうか。作品の舞台は現代に限らず、古代だったり超未来だったり、あるいはいつとも知れぬ時代だったりします。「経験」ではなく「空想」の反映された、極度に人工的に作られた奇譚といった感じです。似たような雰囲気の作家を探すと、ボルヘスとか澁澤龍彦とか、そのあたりになるでしょうか。
【2015/07/05 08:21】 URL | kazuou #- [ 編集]

「薔薇とハナムグリ」読みました
レベルの高い話が多く、あっという間に読んでしまいました。

僕は表題作と「蛸の言い分」が好みです。
動物に例えられると、今まで当たり前だと思っていた事も考えさせられますね。

あと、「ショーウインドウの中の幸せ」は、なんというか、結構ある話ですね。
僕もわかります。
個人的には、ショーウインドウの中にあるのが「学歴」だったらどうなるかな、
など考えてみました。
【2015/07/25 23:02】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
現実を離れた、シュールな話ばかりなんですが、それゆえに、現在でも古びていない…というところがありますよね。読んでいて、星新一作品を思い出しました。

『蛸の言い分』は、ずいぶん皮肉が効いている作品ですね。これは動物を使って、人間を風刺しているのでしょうか。
【2015/07/26 06:51】 URL | kazuou #- [ 編集]

Re:>bear13さん
そうだと思います。

巻末の解説によれば、この作品が書かれたのは1943~45年ごろ、との事ですので、
僕としては蛸の3つの派閥は、それぞれ伝統的なキリスト教、近代的な考え方、
社会主義、の3つを象徴しているのではないか、と考えています。

以前読んだ池上彰さんの本によると、社会主義の(現実はさておき)
そもそもの考え方としては
「将来的にはユートピアの様な共産主義社会を築くのが目標だが、
すぐには実現できないので移行期間として社会主義体制を敷こう。
みんなユートピア目指して頑張ろう!」」
というものがあった、との事でした(現実はさておき)。

当時は世界大戦後半で、著者の祖国イタリアはボロ負け中、
社会主義のソ連が快進撃を続けていたので、
将来は社会主義かも、というのは現実味があったんでしょう。
著者は最後の方で、一応キリスト教でも社会主義でもない自身の考えを
表明してる感がありますが、まあそれもひっくるめて皮肉っているようですね。

以上は私の勝手な解釈になります。長文失礼しました。
【2015/07/28 20:53】 URL | bear13 #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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