《奇妙な味》のショーケース  中村融編『街角の書店 18の奇妙な物語』
4488555047街角の書店 (18の奇妙な物語) (創元推理文庫)
フレドリック・ブラウン シャーリイ・ジャクスン 中村 融
東京創元社 2015-05-29

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 『怪物ホラー傑作選 千の脚を持つ男』『ロマンティック時間SF傑作選 時の娘』など、好アンソロジーをいくつも編んでいる中村融氏の最新アンソロジー『街角の書店 18の奇妙な物語』(創元推理文庫)は、《奇妙な味》に属する作品を集めたという作品集です。
 江戸川乱歩が名づけたという《奇妙な味》は、もともとはミステリ寄りの概念でしたが、現代では、とぼけた味わいや、ブラック・ユーモア、非日常的な不思議さなど、ジャンル分類不能な作品の総称として使われています。非常に定義の広い概念といっていいかと思います。
 面白かったものを、いくつか紹介していきましょう。 

ジョン・アンソニー・ウェスト『肥満翼賛クラブ』
 夫を太らせることがステータスとされる世界で、歯牙にもかけられていなかった女性が作り上げた夫の姿は皆を驚かせますが…。
 徹頭徹尾、冗談のような筆致で描かれる物語です。結末のブラックさには唖然とさせられます。

シャーリイ・ジャクスン『お告げ』
 ふとしたことから祖母がなくしてしまったメモが、一組のカップルの運命を変える…というラブコメディ。『くじ』のジャクスンからは想像しにくい、微笑ましい一篇です。

ジャック・ヴァンス『アルフレッドの方舟』
 ある日、洪水が世界を沈ませるという啓示を受けたアルフレッドは、方舟を作り始めます。冗談だと受け取る周りの人間たちでしたが、やがて豪雨が降り始めて…、
 奇人だと思われていた人間が実は真実を知っていて…というタイプの作品かと思いきや、もうひとひねりしてきます。ことが終わった後の人間関係はどうなってしまうのか、想像するのも面白いですね。

ハーヴェイ・ジェイコブス『おもちゃ』
 立ち寄った骨董店で、子どものころ遊んだおもちゃを見つけた男は、なつかしさに惹かれ、そのおもちゃを購入しようと考えます。ふと周りを見渡した男は、その店にある品物すべてが自分の思い出のつまった品物であることに気づきますが…。
 過去への郷愁と悔恨を扱った、ほろ苦いファンタジー。名作です。

ミルドレッド・クリンガーマン『赤い心臓と青い薔薇』
 病院で出会った中年の女は、自分の家に転がり込んできた不気味な男の話を始めます。最初は身寄りのない男をやさしく迎え入れますが、やがて男の態度はエスカレートしていきますが…。
 ヒュー・ウォルポールの『銀の仮面』を思わせるストーリー。集中でも、江戸川乱歩の提唱した《奇妙な味》にいちばん合致するタイプの作品といっていいでしょうか。不気味さは比類なく、強烈な印象を与える力作です。

ロナルド・ダンカン『姉の夫』
 車中で出会った男と意気投合した青年は、姉の待つ家に男を招待します。やがて姉と結婚することになった男でしたが…。
 「姉の夫」とはいったい何者なのか? 終始不穏な雰囲気を漂わせるゴースト・ストーリー。

カート・クラーク『ナックルズ』
 善神に対する悪神がいるように、サンタクロースに対する神として「ナックルズ」が存在する。父親は、子どもたちにその存在を教え込んでいきますが、やがて「ナックルズ」の存在感は厚みを増し始めて…。
 想像力が実在を呼び起こす…というテーマのファンタジー。サンタクロースの対極的存在という立ち居地がユニークですね。

テリー・カー『試金石』
 男が骨董店で手に入れた「試金石」は、常にさわっていたくなる奇妙な魅力を持っていました。その石を触っているうちに、男は何に対しても興味を失っていきます…。
 「試金石」とは何なのか? 結末に至ってもその由来も意味も明かされず、妙な読後感を残す一篇です。

ジョン・スタインベック『M街七番地の出来事』
 息子が大好きなガムを噛み続けるのにいらつきを隠せない父親は、ある日ガムを噛んでいる息子に怒りを爆発させますが、ガムを噛んでいるのは息子ではなく、息子がガムに「噛まれて」いたのです。やがてガム自分の意思を持ち始めますが…。
 意思を持ったガムを扱った、なんとも人を食った作品。W・F・ハーヴィー『五本指の怪物』を思わせる、パロディ的な怪奇小説です。

ロジャー・ゼラズニイ『ボルジアの手』
 体の一部を付け替えることができるという行商人に、絶大な能力を持つという「ボルジアの手」を移植された少年は…。
 結末で少年の未来を暗示させる技巧的な一篇です。

フリッツ・ライバー『アダムズ氏の邪悪の園』
 女性のグラビアで財を築いたアダムズは、自らの秘密の庭で、女性たちの体を植物として再現させる魔術を行っていました。魔術にかけられた女性たちは、精神的なエネルギーを吸い取られてしまうのです。ある時、間違えて自らの体の一部を使って魔術をかけてしまったアダムズは…。
 「プレーボーイ」誌の社主ヒュー・ヘフナーをモデルにして描かれた怪奇小説。魔術の扱い方がライバーらしい作品ですね。

ブリット・シュヴァイツァー『旅の途中で』 
 旅の途中で体から頭を落下させてしまった男。口だけで体をよじのぼり、元の位置に帰ろうと考えますが…。
 頭が自分の体をよじのぼるだけ、という冗談のような小説。よじのぼる過程がやけにリアルなのが笑えます。

ネルスン・ボンド『街角の書店』
 作家の男が街角の書店で見たのは、著名な作家による聞いたこともないタイトルの作品ばかりでした。その中に、自分が構想中の作品が本として存在しているのを見つけた男は、作品が理想的な形で著されているのを知ります…。
 現実にはありえない理想的な形で自分の作品が結実する書店、という魅力的なガジェットを扱った作品。結末もこれ以外ありえないという形の理想的なファンタジー。

 いろいろな味わいの作品が楽しめる、まさに《奇妙な味》のショーケースといえるアンソロジーです。もともと明確な定義のない《奇妙な味》だけに、アンソロジーとしての一貫性という面では弱いのですが、このアンソロジーの場合、逆にその一貫性のなさが魅力にもなっています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
爽やかな装丁ですがホラー寄りの作品多し。
ブラックでビターな大人向けのチョコレート詰め合わせよのうな短篇集。
肥満翼賛クラブは1963年の作品だそうですが、出てくる食餌療法が現在と同じ。
ライザップの指導を逆にしたらこんな感じでブラックさに磨きがかかります。
【2015/06/01 15:13】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>ブラックユーモア
ブラックユーモア的な味わいの作品が多かったですね。読んでいて、昔の(1970年代)ぐらいの『ミステリマガジン』を読んでいるような気分になってきました。アンソロジーというよりは、雑誌的な味わいの作品集だったような…。
【2015/06/01 20:16】 URL | kazuou #- [ 編集]

どの掌編も粒揃い。
「赤い心臓と青い薔薇」の不気味さと後味の悪さときたら!ホノボノした
「緑の外套」と同じ作者だなんて信じられません。彼女の他の作品も
読んでみたくなりました。「アルフレッドの方舟」はリチャード・マシスンが書きそうな
ブラックな作品。ホント後でどうなったんでしょうね。

国書刊行会からジャック・ヴァンス叢書が今年中には出ますように。
【2015/06/05 12:54】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

赤い心臓と青い薔薇
『赤い心臓と青い薔薇』、集中でも一番の傑作かも。
サイコスリラーかと思いきや、超自然的な要素も現れてきて、最後には全てがわからなくなる…という、ホラーの理想系のような作品ですね。
この作家、こちら方面の作風が本領だとのことなので、もっと読んでみたい作家です。

『アルフレッドの方舟』は、マシスンっぽいですね。僕は読んでいて、ロッド・サーリングの有名な某短篇を思い出しました。
【2015/06/07 08:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


読むつもりですが、まだ、入手していません。
読むのが楽しみです。
【2015/06/07 20:30】 URL | fontanka #- [ 編集]


読了。
テーマ・アンソロジーのテーマが《奇妙な味》ってあり? と突っ込みたくはなりますが、そも《奇妙な味》って何? と楽しく考えるよすがとなりました。
にしても、「遭遇」は奇妙すぎました。
【2015/06/10 07:04】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
もともと乱歩は、分類が難しいものをまとめて《奇妙な味》と言っていたと思うんですよね。その意味で、このテーマでアンソロジーを作ってしまう…というのは、かなり冒険だと思いました。

『遭遇』は、解釈が難しかったですね。
【2015/06/10 20:17】 URL | kazuou #- [ 編集]

今更ですが読み終えました
よく見ると、1年経ってますね…

「M街七番地の出来事」「旅の途中で」が非常に良かったです。
どうやら私は、何が起こっているか客観的にわかる話が好みの様で、
そういう意味では逆に「遭遇」「古屋敷」は無理でした。

あと、歴史モノが好きなので「ボルジアの手」でしょうか。
今度ばかりは、手の再回収は出来なかったでしょうね。

あとがきの「作品の選び方よりも並べ方が重要」という話は、深いですね。
【2016/02/04 22:47】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
この手のジャンルだと、結末寸前まで何が起こっているのかわからない…というタイプの話もありますしね。

並べ方が重要、というのはなるほどと思いました。作品の口当たりという意味でも、アンソロジストはいろいろ考えているんでしょうね。
ただ、僕もそうなんですが、アンソロジーや短篇集を順番に読まない人にとっては、アンソロジストの苦心の跡が無駄になってしまっているのかも。
【2016/02/05 20:22】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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