たくさんのふしぎ  ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』
4309206735モレル谷の奇蹟
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
河出書房新社 2015-04-15

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 代表的な作品が岩波文庫に入るなど、日本でも再評価の進むイタリアの異色作家ディーノ・ブッツァーティ。イラストレーターでもあった彼の画風は、『シチリアを征服したクマ王国の物語』(天沢退二郎、増山暁子訳)で窺うことができます
 そんなブッツァーティの遺作となった作品が『モレル谷の奇蹟』(中山エツコ訳 河出書房新社)です。「聖女リータの奇蹟に感謝して捧げられた奉納画」というコンセプトで作られた画文集になっています。

 大枠として、ブッツァーティ自身が、父親の遺品のなかにノートを見つけたことから物語は始まります。そのノートには、聖女リータが起こした奇跡について記されていました。興味を持ったブッツァーティは、聖女リータの祠を探し出し、番人である老人から、聖女の奇跡の物語を聞きだします。老人の話と、目にした奉納画を元に描かれたのが『モレル谷の奇蹟』という趣向です。

 各ページごとに奇跡の現場を描いたイラストと、その事件についての文章が記されます。文章は簡潔で、ジャーナリスティックなタッチで描かれます。事件が真実かどうかの当否については記さず、あくまで淡々と事実(とされること)が述べられるのがミソ。
 各々の事件は、基本的には人間の願いに応えて聖女が起こした奇跡がメインになります。人間にとりついた悪魔を追い払ったとか、怪物を撃退したというオーソドックスなものから、狩ったサイの首に裁判にかけられる貴族の話とか、円盤が襲来した話などの、奇想天外なものまで、時代や事件もさまざまに描かれます。

 イラストの画風もさまざまで、素朴な奉納画風と思いきや、ポップアート風だったり、デフォルメの効いたものだったりと、いろいろな絵が楽しめます。
 なかには、ブッツァーティ作品として有名な「コロンブレ」も現れ、彼のファンにとってはうれしいところです。(添付している画像の一つがコロンブレです)

 文章が短く簡潔なので、物語が展開される前にエピソードが終わってしまうのですが、読者の想像力を刺激するという意味では、これはこれでありなのかもしれません。
 読んでいて思い出したのが、クリス・ヴァン・オールズバーグ『ハリス・バーディックの謎』(村上春樹訳 河出書房新社)という絵本。この作品も絵に対して、一言だけの文章が添えられているだけで、読者が物語を想像する…という趣向の作品です。ついでにこの作品もオススメしておきましょう。
 あくまで事実を淡々と記すという形をとりながら、明らかなホラを混ぜてくるあたり、ブッツァーティのユーモアがチャーミングに現れた作品だと思います。

Buzzati1.jpg Buzzati3.jpg Buzzati2.jpg



テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
いい感じ
これは何か面白そうですね。
多分、話自体は話の種というか、素材をぽんと放り込んだくらいの感じなんだと思いますが、バリエーション豊かなタッチの絵が素敵です(挙げて頂いた絵を見た限り)。
さすが画家というだけあって、イラスト的なものも、デザイン的なものも、挿絵風も、どれもさまになっていて、他の絵もみたいという気持ちになりました。

「ハリス・バーディックの謎」については、どこかの記事でも評判を目にした気がするのですが、謎とか恐怖にまつわるものは特に、想像にゆだねる手法が有効な気がします。ユーモアについてはどうなのか、という点も、ブッツァーティの今回の作品、気になるところです。
【2015/04/19 00:32】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]


それぞれのエピソードの話自体は、素朴で単純なものですね。それだけで楽しむというよりは、絵と全体のコンセプトを楽しむべき作品だと思います。
ブッツァーティの小説作品は大好きなのですが、画家としての魅力も認識させられた作品でした。

『ハリス・バーディックの謎』は、謎を含んだ一枚絵に物語の断片を感じ取る…という趣向で、初めて読んだときは驚かされました。
【2015/04/19 08:26】 URL | kazuou #- [ 編集]

突っ込みどころ
これですが、期待していたより結構面白く読めました。
現代的な要素が混じってきたりして、そのミスマッチ感もいい感じでしたが、
なによりツッコミどころが多いところに、ブッツァーティの悪戯っ気を感じてそこが楽しい。
先ずは絵と説明文で奔放な空想世界を楽しみ、続いてブッツァーティ自身による事例への突っ込みを楽しむ感じ。
更には、ブッツァーティ自身は突っ込みを入れずに読者に突っ込む余地を残したものも多くて、これが聖女の力で解決するっていったいどういうことなのかと首をひねったり、あるいは聖女に対して、聖女さま、瀕死の人に道を示して終わりですか・・・ あれ、そこで何をしたんですか? もしかして登場しただけ・・? などなどと思ったり…

シリアスなブッツァーティ、温かなブッツァーティも良いですが、こんな面も楽しめる作家なのだと感心、楽しめました。
【2015/07/05 06:07】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

ブッツァーティのユーモア
 今まで邦訳されたブッツァーティ作品って、ユーモアもあるんですが「ブラック・ユーモア」なんですよね。『モレル谷の奇蹟』はどちらかと言うと「ブラック」ではない「ユーモア」が強く出た作品だと思います。いい感じに肩の力が抜けていて、すっとぼけた味があります。
 個人的には、浅倉久志さんが紹介していた「ユーモア・スケッチ」に近い感覚を感じました。
【2015/07/05 07:30】 URL | kazuou #- [ 編集]


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