最近読んだ本

4163942106元気で大きいアメリカの赤ちゃん
ジュディ バドニッツ Judy Budnitz
文藝春秋 2015-02-07

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ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』(岸本佐知子訳 文藝春秋)
 独特な「奇妙な味」の短篇集『空中スキップ』(岸本佐知子訳 マガジンハウス)で話題を呼んだ著者の作品集です。
 バドニッツの作品は、非常にユニークなアイディアや設定にあふれているのですが、本当にユニークなのは、そのアイディアや設定を使った上で、登場人物たちの心の動きを丁寧に描いていくところです。
 例えば『わたしたちの来たところ』。アメリカで子供を生むために、何年もの間出産をこらえ、密入国を繰り返す女性を描いています。現実ではありえない設定なのですが、子供を思う母親の心、密入国をしようと考える女性のおかれた政治的・経済的状況などは、ファンタジーではなくリアリティを持って迫ってきます。かといって「政治的」な作品にならないあたり、リアリズムとファンタジーの絶妙なバランス感覚が保たれています。
 どれも読み応えがありますが、個人的なベストは、母と娘の電話での会話が全くかみ合わず、異常な状況が間接的にほのめかされるという、技巧的なホラー作品『来訪者』でしょうか。



4150413347ウェイワード―背反者たち― (ハヤカワ文庫NV)
ブレイク クラウチ Blake Crouch
早川書房 2015-03-06

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ブレイク・クラウチ『ウェイワード -背反者たち-』(東野さやか訳 ハヤカワ文庫NV)
 序盤から謎が謎を呼び、結末では超展開が待っている『パインズ -美しい地獄-』の続編になります。前作は、非常に上手くまとまっていたので、続編は難しいのではないかと思っていたのですが、前作での謎をすべて所与のものとして受け入れた上で、物語を展開させるという、見事な構成になっています。
 前作の結末では、その異常な世界をいったんは受け入れたかのように見えた主人公が、やはりその世界を受け入れられずに、行動を始めます。その異常な世界の中での殺人事件を追った主人公が出会うのは、さらに驚愕の事実なのです。
 三部作だということですが、すでに今作で現れている伏線や、引きの強い結末など、最終作への期待が高まります。



4041024757あもくん (幽COMICS)
諸星 大二郎
KADOKAWA/角川書店 2015-03-30

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諸星大二郎『あもくん』(角川書店幽COMICS)
 掲載誌が怪談専門誌である『幽』だったこともあって、実話怪談風のテイストが強い、連作短篇集になっています。タイトルは、幼い従姉妹から「あもくん」と呼ばれる少年、守のことを指しています。この守と、その父親に起こる怪奇現象を淡々と描いていくという趣向の作品です。
 「実話怪談風」とは言いましたが、話が進むにしたがって、スケールが大きくなっていくというか、ファンタジー的な方向に話が拡がります。女神的な存在が現れたりなど、融通無碍な展開が魅力ですね。本作と同じく、『幽』に連載されていた、綾辻行人『深泥丘奇談』にも似た、ユーモアと不気味さが混沌となった雰囲気の良作かと思います。



4088803078魔物鑑定士バビロ 1 (ジャンプコミックス)
西 義之
集英社 2015-02-04

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西義之『魔物鑑定士バビロ』(集英社ジャンプコミックス)
 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』(集英社ジャンプコミックス)で知られる著者は、もともと怪奇やオカルトテイストを得意とする漫画家です。以前から、この人、ブラックな作品を描いたら、すごく冴えるんじゃないかと思っていました。
 『魔物鑑定士バビロ』は、まさにそのブラックでダークな資質が現れた作品です。人々の願いをかなえる呪具を持つ、「魔物鑑定士」バビロは、同級生である高校生オズに、さまざまな道具を貸し与えます。しかし、その結果は必ずと言っていいほど、悲惨な結果に終わるのです。
 何をやっても上手くいかない主人公のオズ、そしてそのオズに執拗に執着するバビロ、この二人の奇妙な関係が、徹底的にブラックに描かれていきます。最初は道具によって、幸せになったかのように見えたオズが、陥穽にはまり、悲惨な目に会う。これって、まさに『ドラえもん』の世界なのですが、この『バビロ』『ドラえもん』と違うのは、バビロがほぼ確信犯的にオズを陥れているところ。それでいて、彼はオズに幸せにしたいと、つきまとうのです。
 「闇のドラえもん」という評もあるようですが、いかにもと言う感じですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ちょっと連投になりますが・・
「…アメリカの赤ちゃん」って、今年に入ってからの本だったんですね。昨年の短編集ラッシュのあおりで、何だか昨年の本のつもりでいました。
購入済みなのですが、更に楽しみになりました。
奇想と日常心理の組み合わせという辺りのバランス感覚は、「月の部屋で会いましょう」何かに近い感じなんでしょうか。内容的にはもうちょっとシリアスそうですが。

クラウチ、あそこから更にサプライズエンディングの続編を用意しているんですね。
クラウチの前作含め、昨今紹介されるモダンホラーを継承したようなエンタテイメント作品は、世界観の詰めが緻密な感じがします。この辺、違和感なく読めるので、ミステリやSFの読者なんかにも楽しめるのではと。
一方で、恐怖の感覚そのものに迫ったようなものは、やはりそうそう出てくるものではないのか、あまり見かけないような。モダンホラー自体がそんな感じだった訳ですが。
そういえば、前にご紹介されていた「黒蝶」、是非読んでみたいと思ったのですが、結構前に紹介された本だったんですね。存在すら知らなくて、今手に入るかも怪しそう(といってもまだネット古書店も当たっていないですが…)。こういう本をご紹介いただけるのは、嬉しくもちょっと苦しいですね(笑)。

諸星大二郎、誰もが知る恐怖マンガの大家の一人ですが、何故だか食わず嫌いというか、未読状態なんですよね。何だか壮大そうな理屈っぽそうな・・・といったイメージで今一つこちらの想定する恐怖とリンクしないというか、読みたい気持ちをそそられないというか・・・
今回ご紹介いただいた作品も、なるほど、から先に進まないのですが、初めに触れるのに良い作品、その資質を最も感じられる作品と言ったらどれになるでしょうか・・・?
【2015/04/19 00:30】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
バドニッツは、読み応えがありました。前作の『空中スキップ』の方が奇想度が高いので、あちらの方が好みですが、『アメリカの赤ちゃん』も捨てがたいです。

そうですね。モダンホラーって、良くも悪くも大雑把な感じの作品が多かったような気がします。最近のハヤカワNV系で紹介される作品は、構成がしっかりしている印象です。
『黒蝶』は、賛否分かれる作品ですが(否の方が多い気がします)、個人的に面白く読みました。

諸星大二郎はクセがあるので、面白くなるまで時間がかかるんですよね。僕も最初に数冊読んでもピンとこなかったのですが、ある日突然感覚がつかめるようになった感じです。代表作といえば、間違いなく《妖怪ハンター》シリーズなのですが、正直最初に読むにしては難しいかも。
エンタテインメント性と読みやすさで言うと、中国の志怪や伝奇をマンガ化したような《諸怪志異》シリーズ(双葉社ほか)、生物的なモチーフで描かれた『私家版鳥類図譜』(講談社)、『私家版魚類図譜』(講談社)、『未来歳時記 バイオの黙示録』(集英社)あたりが、とっつきやすいと思います。




【2015/04/19 08:01】 URL | kazuou #- [ 編集]

御無沙汰しております。
「元気で大きいアメリカの赤ちゃん」の娘さんはプレシャスというんですね。
同名の映画を思い出してしまいました。アメリカ国籍をゲットしたとしても幸せになれる訳
ではないのに。「来訪者」面白かったです。「マスターズ・オブ・ホラー」とかで映像化して欲しい。最終話の「母たちの島」は「変愛小説集」にも載っていたような。

入院してたんですが病院の売店には幼児雑誌「よいこ」「めばえ」と少年ジャンプしか
置いておらず、田舎なので最寄りのコンビニも車で走る距離。もう活字に飢えてました。
家の掃除もそこそこに図書館に駆け込みました。高額療養費の払い戻しまで金欠なので
無料の図書館は天の助け!こちらで紹介されている書籍も入庫予定で楽しみです。
【2015/04/20 11:47】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
入院されてたんですか。大変でしたね。
病院の売店って、雑誌しか置いていないところ多いですよね…。大きいところだと、図書室があるところもあるみたいですが。

『来訪者』僕もお気に入りです。以前観た『-less レス』というホラー映画が、この作品に似た雰囲気で面白かったのを思い出しました。
【2015/04/20 22:38】 URL | kazuou #- [ 編集]

「元気で大きいアメリカの赤ちゃん」読みました
なんというか、全体的にちょっと辛辣でしたね。
特に「ナディア」「象と少年」は読んだ後に色々考えてしまいました。

僕のベストは「顔」でしょうか。
昔「1984年」を読んだからか、独裁国家モノは結構好みです。
あちこちで意外な展開があって良かったと思います。

ちょっと似た(と感じた)話で、イーユン・リーという人の
「不滅」という話を思い出しました。こちらは実在の
独裁者の顔が出てきます。一人称で話が進む所や、
リアリティがあるけれど政治的にならないあたりが
共通していると思いました。
【2015/07/15 19:20】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
そうですね。「辛辣」だけでなくて、現実を感じさせる要素が強かったという感じがしました。表題作は、妙に政治的な部分もあったりして。

イーユン・リーの作品は未読なのですが、ちょっと気になりました。
【2015/07/18 07:14】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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