ある教養人の人生から  紀田順一郎『幻島はるかなり』
4879843318幻島はるかなり
紀田 順一郎
松籟社 2015-02-10

by G-Tools

 荒俣宏とともに、日本に幻想文学を根付かせた功労者である紀田順一郎。近年、著者の自伝的な随筆が何冊か刊行されましたが、その決定版ともいうべき回想記『幻島はるかなり  推理・幻想文学の七十年』(松籟社)が刊行されました。
 著者の名前は幻想文学ファンにはお馴染みですが、幻想文学だけでなく、戦後日本のミステリ黎明期には、ミステリに関する評論や活動も行っています。実際、本書の一部は『ミステリマガジン』に掲載されています。
 サブタイトルの「推理・幻想文学の七十年」からは、ミステリや幻想文学に絞った内容を思い浮かべますが、実際に扱われている内容はもっと広く、著者の半生記ともいうべき内容になっています。
 両親のことや育った環境、読書に興味を持ったきっかけから、なぜ特定のジャンルに惹かれるようになったのかなど、ミステリや幻想文学に関わるようになった理由が説得力を持って書かれています。
 もともと著者の守備範囲は非常に広く、ミステリや幻想文学だけにとどまるものではありません。著者もはじめからミステリや幻想文学にのめりこんだわけではなく、これらのジャンルにたどりつくまでの必然的な流れがあります。その読書遍歴、ジャンル遍歴を、ひとりの人間の人生、時代背景と重ね合わせながら丁寧に語っていくところが、この本の読みどころでしょう。
 ミステリがまだ広く根付く前のファン活動の様子や、ジャンル小説が当時世間にどう見られていたかなど、当時の時代の空気が感じ取れるところも、時代の証言として参考になります。
 著者が個人的に関わった多くの人が登場しますが、多くのページが割かれているのが、大伴昌司と平井呈一です。ことに大伴昌司との交友に関しては、印象深いエピソードも多く、興味深く読み進めることができます。
 幻想文学ジャンルの話に関しては、一章分が割かれていますが、先に出た『幻想と怪奇の時代』(松籟社)と重複する部分が多いのがちょっと残念ですね。この分野に関してもっと知りたい方は『幻想と怪奇の時代』も併読すると、興趣が増すかと思います。
 時代の背景や、一人の人間がどのように考え生きてきたのかが真摯に描かれており、その意味で、教養書の趣さえあります。衒いのない筆致には、現代の若い読者も共感を持てるでしょう。
 ミステリや幻想文学といったジャンルに興味のある人だけでなく、一般の方にも薦められる良書だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/589-fedc2fd6
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する