最近読んだ本

4041021626牛家 (角川ホラー文庫)
岩城 裕明
KADOKAWA/角川書店 2014-11-22

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 『牛家』『瓶人』の2編を収録した短篇集です。

 『牛家』 特殊清掃員が同僚とともに訪れたゴミ屋敷。圧倒的なゴミの量を前に、一日で片付けきれず、翌日再び訪れた彼らの前に現れたのは、前日と全く同じゴミでした。やがて異様な幻覚も現れはじめて…。
 起承転結ははっきりせず、ムードと雰囲気で終始する作品なので、好き嫌いは別れる作品ですね。ゴミ屋敷の情景描写や幻覚の生々しさなどはインパクトがあります。語り手の妻が神経を病んでいて、現実でも幻覚でも語り手が苦しめられるという、悪夢めいたところが読みどころです。

 『瓶人』 一族には死人を甦らせる秘法が伝えられていました。甦った人間は「瓶人」と呼ばれ、甦らせた人間に忠実に従うのです。母親は、死んだ父親を甦らせますが、生前とは異なる父親に失望し、家を出てしまいます。
 父親と二人暮らしをすることになった少年は、世話をしてくれる父親に感謝をしつつも、複雑な思いを抱きますが…。
 いわゆるゾンビものなのですが、甦った死人があっけらかんとしていて、日常生活や子育てを普通に行っているという、変にコミカルなところが面白いですね。死んだ父親の愛情が本物ではないという、鬱屈した思いを抱く少年の心理が丁寧に描かれています。傑作だと思います。

 表題作はともかく、『瓶人』はぜひ読んで欲しい作品ですね。



4041019249スタープレイヤー (単行本)
恒川 光太郎
KADOKAWA/角川書店 2014-08-30

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 くじ引きで一等賞を当て、その景品として異世界に飛ばされてしまった女性、夕月。その世界でのみ通用する、十の願いをかなえる権利を得た人間は「スタープレイヤー」と呼ばれていました。夕月は、自らの願いを次々とかなえますが、やがて同じ力を持つ「スタープレイヤー」と出会うに及び、生き方を変えていくことになります。
 何でも願いがかなうというテーマを聞いて、単純な願望充足的ファンタジーだと想像しがちですが、なかなか一筋縄ではいきません。そもそも元の世界に帰れば、願いの結果も記憶もなくなります。そして願い自体も、詳細な条件を満たしたうえでなければ、かなえられないのです。
 そもそも異世界自体が、原住民や社会などはあるものの、未発達な世界に設定されています。主人公や仲間の「スタープレイヤー」たちは、願いを使って社会を作っていこうと考えるのです。このあたり、開拓もののような要素もあり、単純なヒロイック・ファンタジーには終わりません。
 この作家の作品は、全作品読んでいます。叙情的な要素とクールな要素とが微妙に入り混じった作風が特徴ですが、今作は、今までの作品とはだいぶ毛色が変わっています。願い自体よりも、その願いによって何を変えることができるのか、他人や社会をどうやって動かしていくのかという、前向きなテーマが扱われており、読後感も非常にいいものに仕上がっています。



4150413215プリムローズ・レーンの男〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
ジェイムズ レナー James Renner
早川書房 2014-10

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4150413223プリムローズ・レーンの男 下 (ハヤカワ文庫NV)
ジェイムズ レナー James Renner
早川書房 2014-10-10

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 犯罪ノンフィクション作家、デイヴィッドは産後間もない妻が自殺してから、筆を絶っていました。しかし担当編集者のもちこんだ事件に興味をそそられ、再び調査を始めます。
 殺された老人は、「プリムローズ・レーンの男」と呼ばれた世捨て人でした。一年中ミトンをはめていたという老人は、指が全て粉々になっていたというのです。やがて死んだ妻の指紋が老人の自宅から発見されるに及び、デイヴィッドに殺人容疑がかかりますが…。
 これはなかなか面白いジャンル・ミックス小説です。上下巻になりますが、上巻では、謎の提出と地道な捜査がメインとなります。それなりに面白く読めますが、正直派手な展開はまだありません。本領は下巻になってから。怒涛の真相が次々と明かされていき、上巻で提出された伏線が回収されていくのは爽快です。
 かなりSF的な要素が強いので、本格的なミステリを期待すると、ちょっと期待はずれかもしれませんが、とにかく面白い小説ですので、オススメしておきたいと思います。



4885880831口のなかの小鳥たち (はじめて出逢う世界のおはなし―アルゼンチン編)
サマンタ シュウェブリン Samanta Schweblin
東宣出版 2014-10-18

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  アルゼンチンの若手作家による短篇集です。内容的には、起承転結のはっきりした「奇妙な味」の作品と、シュールなイメージに満ちた掌編とに分けられるでしょうか。
 小鳥を食べ始めた少女と娘に困惑する父親を描く『口のなかの小鳥たち』、人魚の男性と出会った女を描く『人魚男』、ある日大勢の子どもが消えてしまった村で、子どもを探すために大人がみな穴を掘り出すという『地の底』、異様に短気な男の人生を描いた『アスファルトに頭を叩きつけろ』など、面白い作品が収められています。
 おもちゃ屋に居ついてしまった厄介ものの青年、しかし彼が並べたおもちゃのレイアウトは子どもを引きつけ、店も繁盛するようになる、という『ものごとの尺度』、鬱病の弟が具合が悪くなるほど、一族が幸せになっていくという、ブラックな『弟のバルテル』などが、見事な出来栄え。



4001146134最初の舞踏会 ホラー短編集3 (岩波少年文庫)
平岡 敦
岩波書店 2014-11-28

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 子ども向けに編まれたホラー作品集の3巻目は、フランス編です。全15編が収められています。収録作品を紹介しておきましょう。

シャルル・ペロー『青ひげ』
テオフィル・ゴーティエ『コーヒー沸かし』
ギ・ド・モーパッサン『幽霊』
ジュール・シュペルヴィエル『沖の少女』
レオノラ・カリントン『最初の舞踏会』
ギヨーム・アポリネール『消えたオノレ・シュブラック』
マルセル・エーメ『壁抜け男』
モーリス・ルヴェル『空き家』
アルフォンス・アレー『心優しい恋人』
エミール・ゾラ『恋愛結婚』
モーリス・ルブラン『怪事件』
アンドレ・ド・ロルド『大いなる謎』
ボワロー=ナルスジャック『トト』
ジャン・レイ『復讐』
プロスペル・メリメ『イールの女神像』

 ウィットに富んだ軽妙さ、洗練された語り口、とフランスらしい作品が集められた、いいアンソロジーだと思います。アポリネールとエーメ、壁抜けを扱った2作品を並べるところなどにくいですね。
 とはいえ、名作だけに、怪奇アンソロジーのファンにとっては、お馴染みの作品が多いです。ただ、本邦初訳として、モーリス・ルブラン『怪事件』とアンドレ・ド・ロルド『大いなる謎』といった作品もとられており、初心者にもマニアにも楽しめるアンソロジーに仕上がっていると思います。
 『怪事件』は、元検事が語る陰惨かつ不可思議な猟奇事件を描いた作品。ものすごく後が読みたくなる展開なのですが、オチがちょっと残念。
 『大いなる謎』は、死んだ妻が自分のもとを訪れていると信じる男に対し、真実を暴こうとする語り手を描いた作品。グラン・ギニョルの代表的作者らしい作風ですね。



4309274897恐怖の作法: ホラー映画の技術
小中 千昭
河出書房新社 2014-05-15

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 独自のホラー理論「小中理論」で知られる脚本家、小中千昭がホラー映画、恐怖を扱ったエンタテインメントについて語ったエッセイ集です。
 以前に刊行された『ホラー映画の魅力―ファンダメンタル・ホラー宣言』 (岩波アクティブ新書)が母体になっているので、かなりの部分で重複はありますが、ホラー作品に興味のある方なら読んで損はない本でしょう。
 タイトルからは、ホラー映画やホラー作品を創作する上での技術的な指南書みたいなものを想像すると思うのですが、実際はちょっと違います。確かに技術的なものを語った部分もありますが、むしろ著者個人の「恐怖とは何か」についての探求、といった要素が強いです。その意味で、現代のネット怪談や都市伝説について語った第二部の内容はひじょうに読み応えがあります。



4063883876アイリウム (モーニング KC)
小出 もと貴
講談社 2014-11-21

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 これはコミック。1粒飲めば24時間分の記憶が消える薬「アイリウム」が流通した世界を舞台に、様々な人間模様を描くオムニバス短篇集です。
 嫌なことを忘れるために使う人間、殺人の記憶を消すために使う軍隊など、エピソードごとにシチュエーションは異なります。どのエピソードも、それぞれ問題意識にあふれていて、読後いろいろと考えさせられる奥行きがあります。
 どのエピソードもよく練られているのですが、数年後に必ず自分のことを忘れてしまう妻との生活を送る男を描いた4話、見込みがない患者の手術を薬で忘れさせられる女医を描いた6話は、特に力作だと思います。
 これほど読み応えのあるコミックは久しぶりです。1話がWebで試し読みできるので、気になった方はぜひ。(http://morning.moae.jp/lineup/352
この記事に対するコメント
スタープレイヤー
「ダ・ヴィンチ」のインタビューでシリーズ化する予定だと恒川先生が答えておられたので
楽しみです。姑さんの介護から逃れて、異世界に行きたい!夕月の庭園よりマキオのタワー村に住みたい。自分の書店を持ち、現実の地球から新刊本が入庫するようにして好きな本だけ置きたい。もちろん税務署と万引きとは無縁で!
【2014/12/08 13:10】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
一味違ったファンタジーですよね。シリーズ化されるということで楽しみです。
それにしても、前半であんなにたくさん願いを消費してしまっても、大丈夫なんでしょうか?
【2014/12/08 18:54】 URL | kazuou #- [ 編集]

読みだしたら止まらない
スタープレイヤーから火がついて図書館で恒川作品を借りまくりです。
年末年始を挟むため普段の倍、借りられるので。
「竜が最後に帰る場所」の「夜行の冬」に出てくる赤いコート、赤い帽子の
ガイドさんが「いま見てはいけない」の赤いコートとダブります。
異界への入り口の描写がとても素晴らしい。
【2014/12/22 12:28】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

恒川光太郎
 恒川光太郎作品は、日常世界と異世界が地続きになっているところが魅力的だと思います。新刊が出たら真っ先に読む作家のひとりですね。僕が好きなのは、初期の作品、『夜市』『風の古道』『秋の牢獄』あたりでしょうか。
【2014/12/23 09:13】 URL | kazuou #- [ 編集]

牛家
牛家は食欲が失せるお話でした。大掃除に励んでゴミを捨てまくりたくなります。
実家片づけを経済誌までが特集する時代になるなんて想像もしていませんでしたが
15年前に両親亡き後、実家を片付けるのは本当に大変でした。生ゴミ無くても大変です。
瓶人のお父さんはゾンビになった方が性格が良いのでは。
不眠不休で家事や仕事ができるのは便利。瓶人を作る過程が今はやりのジャーサラダ
みたいです。恒川先生もホラー大賞でデビューされたんですね。
【2014/12/25 13:37】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


ホラー小説大賞の受賞作品は、個人的にけっこう当たりはずれがあるのですが、これは当たりの部類。
『牛家』は、片づけが得意でない人間からするとリアリティがありますね。主婦の方であれば、なおさらでしょうか。
『瓶人』は、変な人情味があって面白い話でした。この作者、もっと面白い作品が書けるような気がします。

恒川光太郎はデビュー作から追いかけているのですが、大賞作品の『夜市』よりも、カップリング作品の『風の古道』の方が印象深いですね。
【2014/12/26 18:58】 URL | kazuou #- [ 編集]

スタープレイヤーを読みました
面白かったです。
設定は「はてしない物語」と少し近いのかな、と思いましたが、
結末が一味も二味も違っていて良いですね。

僕が個人的に感心したのが「大叔母」の願いの使い方です。
私もモテないので、異性関連の願いを入れる気持ちはわかりますが、
その手があったか、そこまでやるのか、と。
というか、彼女はあの状況を作り出すのに願いを9個以下しか使っていない…
恐ろしく計画的かつ効率的に願いを使ったんでしょうね。
その頭脳を有効に使えば、地球でも十分成功できたんじゃないか、と思います。
【2015/03/22 18:48】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
「大叔母」のエピソードはインパクトがありました。
あのような特権を与えられたら、人間はたいてい自分の欲望のために使いますよね。実際、主人公もそのような願いの使い方をしてますし。それを他人のために使うようになる…というのが人間的成長を表しているんでしょうね。
【2015/03/22 20:37】 URL | kazuou #- [ 編集]

Re:>bear13さん
その流れもありますが、主人公の願いは

自分のため→周囲の人のため→国のため

という変遷を辿っていて、国の形成過程と重なっている様です。
ただ、他人のため、国のために願いを使うという事は
ある意味自分の欲求を犠牲にして他者に尽くしている訳で、
作中でも手放しで称賛されている訳ではない様に感じます。

そういう意味で考えると、一番賢いのは「幽」の様に
自分自身をグレードアップして、自力で自分のやりたい事を
やり、時には世の為人の為に役立てる、
という使い方なのではないか、と思います。
【2015/03/26 21:41】 URL | bear13 #- [ 編集]

なるほど
「周囲の人のため→国のため」というところまでは、気づきませんでした。「仲間愛」が「博愛」になったというところでしょうか。
もともと作風からして、作者は、手放しで善意を描くような人ではないと思うので、続刊があるならば、しっぺ返し的な展開もあるような気がしますね。
【2015/03/28 07:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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