iPad miniで電子書籍を読む、または『モーリス・ルヴェル短篇集』のこと

モーリス・ルヴェル短篇集 1 鴉(からす) モーリス・ルヴェル短篇集 2 大時計 夜鳥 (創元推理文庫)
 前回の記事で、iPad miniを購入するに至った経緯を書きました。今回はiPad miniを使ってみた感想と、電子書籍を読んでみた結果を紹介してみたいと思います。
 まず、iPad miniの全体的な使い勝手から。これはなかなかのものです。指でタッチして動かすのですが、反応も速く、サクサク動きます。
 特筆したいのはディスプレイの美しさ。miniのサイズは小さいので、表示される文字もかなり小さいのですが、にじんだりするようなことはなく、クッキリと表示されています。
 もっぱらブラウザでネット閲覧をしていますが、今のところ問題なく使えています。小さい文字は拡大すれば(拡大できます)、読めますし、そもそも端末を目に近づけて使うことが多いので、小さい文字でもそんなに気になりません。
 動画などの再生も綺麗ですし、映画などもちゃんと見れそうです。

 さて、タブレットを買ったからには、やはり電子書籍を読んでみなくてはなりません。まずは、以前「パブー」から購入したグラビンスキの短篇を読んでみようと思ったのですが、データ転送の仕方がわかりません。
 パソコンから転送はできるみたいです。付属のケーブルでパソコンとiPadをつなぎ、iTunesで転送してみます。iPad上には汎用的なフォルダがあるわけではなく、音楽ファイルは音楽ソフトに、書類ファイルは書類ソフトにと、アプリケーション単位でファイルを転送するようですね。この場合パソコン側のiTunesから転送を行うので、パソコンの方にiTunesをインストールしなくてはいけません。
 パソコン上のiTunesを立ち上げた状態で、iPadをケーブルでつなぐと、iTunes上にiPadのアイコンが現れます。そこで転送したいファイルの種類を選び、そこにファイルを入れて「同期」させると、iPad上にファイルが転送される仕組みになっています。電子書籍ファイルは、iBooksというアプリケーションに転送します。
 iBooksを立ち上げ、グラビンスキのファイルを開いてみます。おお! けっこう綺麗ですね。これはパソコンで読むよりは読みやすいかも。パソコンと違って、指でページをめくったりするので、本をめくるのと同じような感覚で読み進めることができます。

 そういえば、Amazonが出している電子書籍「kindle(キンドル)」のファイルも、iPadで読めると聞いた覚えがあります。というわけで、Amazonから電子書籍購入にチャレンジです。
 以前から気になっていた、モーリス・ルヴェルの短篇集を買ってみたいと思います。今のところ以下の2冊が出ています。訳者は、プロのフランス語翻訳者の方ですね。kindleオリジナルのようです。

 中川潤訳『モーリス・ルヴェル短篇集1 鴉(からす)』
 中川潤訳『モーリス・ルヴェル短篇集2 大時計』

 購入するのは、普通の本を買うのと同じように買えるみたいですが、買ったファイルはどこに保存されるんでしょうか? kindle端末を持っていれば、端末自身にダウンロードされるみたいですが、iPadの場合は直接ダウンロードはできないような気がする…。
 調べてみると、Amazonのアカウントに自分の持っている端末を登録し、iPadにkindleアプリをインストールしておけば、買った瞬間iPad上にダウンロードされるみたいです。確かにAmazonの購入ボタンの下の「配信先」にiPadの文字が表示されています。
 それでは、と購入ボタンを押した後、iPadのkindleアプリを立ち上げてみます。すると『モーリス・ルヴェル短篇集』2冊のアイコンが表示されています。
 『ルヴェル短篇集』のファイルを開いてみます。パブーで購入したグラビンスキは横書きだったのですが(パブーでは仕様上、横書きのみらしいです)、これは縦書きで作成されており、読みやすいですね。
 kindleでは、本の体裁の設定などをいろいろ変えることができます。以下に、主な設定や機能を並べてみました。

・文字サイズの変更
・行間の変更
・表示フォントの変更
・画面の明るさの変更
・しおり機能
・マーカー機能
・辞書機能

 なかなか多機能です。文字の大きさや行間など、自分の読みやすいように設定を変えられるのは、嬉しい機能ですね。とくに行間を変えられるのは、地味そうでいて、意外に読みやすさに影響しますね。広めにすると、かなり読みやすくなります。

 さて、モーリス・ルヴェルと言えば、20世紀前半に活躍したフランスの作家です。≪グラン・ギニョール≫と呼ばれる、残酷味あふれる作品を主に書きました。ほとんどの作品は短いショート・ショートで、日本でも昭和初期に盛んに紹介され、当時の探偵小説作家にも影響を与えました。
 主に翻訳家、田中早苗によって紹介され、その訳業は『夜鳥』(創元推理文庫)としてまとめられています。ちなみに、2003年に出たこの本、すでに絶版のようですね。
 『夜鳥』は、過去の翻訳を集めたものなので、いずれ新訳によるルヴェル作品集が出るかと期待していましたが、結局あれから10年以上経ってしまいました。まさか商業出版ではなく、こういう形で出版されるとは。

『モーリス・ルヴェル短篇集1 鴉(からす)』収録作品
『鴉』
『街道にて』
『悪い導き』
『消えた男』
『対決』

『モーリス・ルヴェル短篇集2 大時計』収録作品
『雄鶏は鳴いた』
『赤い光のもとで』
『執刀の権利』
『太陽』
『大時計』

 ほとんど本邦初訳の作品だと思います。どれもルヴェルならではの味があり、楽しめました。
 ルヴェル作品の特徴は「残酷さ」にあります。残酷さと言っても、現代の我々が思い浮かべるような、スプラッター的なそれではありません。何の変哲もない人間が追い詰められたとき、我が身かわいさに利己的な行為に走ってしまうとき、そんな誰にでもあり得る、人間の「残酷さ」を描いているのです。
 それでは、印象に残った作品を紹介していきましょう。

『対決』
 明らかな証拠がありながら、女を殺したことを否定する男ゴーテ。自白しそうもないゴーテに対し、判事は死体の絞殺の跡に、ゴーテの手をあてさせますが…。
 鉄面皮な男を驚愕に陥れたものとは? 短めの作品ながら、結末のイメージがショッキングで、インパクトがあります。

『消えた男』
 医学を志す青年は、実技試験としてある患者の診断を任されます。誤診として試験に落とされた彼は、自分の診断は正しいと信じて、患者の様子を見に、何度も繰り返し通います。すぐにも患者が死ぬだろうという考えに反し、患者は快方に向かいますが…。
 独善的な青年の行為が狂気を感じさせるサイコ・スリラーです。

『執刀の権利』
 経済的に困窮している医者は、手術費用ほしさに、経験が全くないにもかかわらず、患者に手術を施してしまいます。やがて死んだ患者に対し、良心の呵責を覚える男でしたが…。
 技術も経験もない男の手術は殺人と同じではないのか…? 倫理的なテーマを扱った作品です。

『太陽』
 自由に生きる孤児パラディユは、ある日軍隊に徴兵されてしまいます。規律に縛られた生活に嫌気がさしたパラディユは、脱走しますが、すぐに捕らえられてしまいます。牢屋のなかでの、彼の唯一の楽しみは太陽と空を見ることでした。営倉に入れられた彼は、拾ったガラス片を通して、空と太陽を眺めることに喜びを見出しますが…。
 哀感あふれる、味わい深い作品。

『大時計』
 妻の姦通現場を目撃した夫は、浮気相手の男と妻を部屋に監禁します。夫は、大時計が4時になったら殺してやると言い残し扉を閉めます。時間になり、扉を開けた夫が見たものとは…。
 これはなんとも残酷かつ痛烈な一編。想像力による刑罰が最も恐ろしい…というテーマを簡潔に描いた傑作だと思います。

 一編がひじょうに短く、さらりと読むことができます。まだ続刊予定があるようなので、楽しみに待ちたいと思います。

 さて、最近、電子書籍オリジナルの翻訳小説も出始めてきているようですね。
 物理的な本の形で出版されたものは、もちろん本の形で欲しいですが、グラビンスキやルヴェルのように、電子書籍版しかないものは、電子書籍で買わざるを得ません。個人的な希望なのですが、少しお金がかかってもいいので、希望者にはオンデマンドみたいな形で印刷本を作ってくれないものでしょうか。
 失敗した≪ナイトランド叢書≫もそうでしたが、マイナーなジャンル小説(とくに翻訳もの)の出版は、採算を取るのが難しいんでしょうね。
 欧米では、数百部単位で、そのジャンルのマニア向けに出版を行う出版社があるようですが、日本ではそれに類したことをやっている出版社はあまりないようです。国書刊行会はそれに近い出版社ですが、さすがに数百部単位では難しいでしょう。
 翻訳権の問題などもあるでしょうが、著作権の切れた作家の翻訳であれば、むしろ電子書籍に活路があるのかもしれません。最近まで電子書籍に対しては、あまり関心がなかったのですが、これからは成り行きを注視していきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

パブー購入本、パブーのサイトから再度iPadにダウンロードしたほうが楽かも。
iPadからパブーにログインして、「購入済」からiBooksに落とせます。
【2014/11/10 07:46】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
 なるほど。以前落としたファイルを移動することばかり考えていたので、思いつきませんでした。ご教示ありがとうございます。
【2014/11/10 19:30】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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