高山和雅『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』

4883794016天国の魚
高山 和雅
青林工藝舎 2014-09-20

by G-Tools

 高山和雅のコミック作品『天国の魚(パラダイス・フィッシュ)』(青林工藝舎)は、どこか懐かしい味を持ったSF作品です。

 巨大彗星の接近により、破滅の迫る地球が舞台です。島に暮らす家族5人は、本土への避難をあきらめ、島の施設に過去に作られたというシェルターに逃げ込みます。
 巨大な地震と津波に襲われ、意識を失った直後、5人は自分たちがなぜか町のなかにいることに気づきます。しかも驚くべきことに、その町は現代の町ではなく、1970年代の町だったのです。
 町の人たちは自分たちのことを知っており、家族は、以前からその町で仕事をし、居住していたことになっているのです。違和感を感じながらも、日常生活を送ることになる家族でしたが…。

 過去の時代に来ていることから、タイムトラベルものと思いきや、さにあらず。その後も二転三転し、次々と事態が変転していき、退屈する暇がありません。
 「破滅テーマ」「タイムトラベルテーマ」、他にもSFでお馴染みのテーマがこれでもかとばかりに放り込まれています。正直、個々のテーマ自体に目新しさはあまりありません。ただ、そのテーマの演出と構成がひじょうに巧みなので、一気に読ませられてしまいます。
 いろいろなSFのテーマが扱われているので、SF作品を多く読んでいる人ほど、楽しめるのではないでしょうか。もちろんSF慣れしていない人でも、楽しく読める作品だと思います。
 SFのガジェットやテーマだけが先行するのではなく、メインとなる家族5人の人物も、細やかに描かれています。家族同士の愛憎、運命の皮肉、そして最終的には驚愕の結末へと流れ込むのです。
 複雑な構成をもつ作品ですが、読後感はオーソドックスなSFのそれです。筋は確かに複雑なのですが、作品中で丁寧に絵解きされていくので、読んでいけば、混乱することはないでしょう。
 クライマックスに明かされる事件の真相、そして家族5人の選ぶ、それぞれの選択。盛り込まれたさまざまなテーマ、緻密な構成、物語と有機的に結びついた人物像と、おそるべきバランスの良さと完成度です。再読、三読したときにも、また違った味わい方ができる、懐の深い作品だと言えます。

 初めて聞く作者名だったので、新人だとすると、ものすごい筆力と構成力だと驚いたのですが、調べてみると、ベテランの作家だったのですね。かなり寡作なようで、他の作品は現在手に入らないようですが、これは他の作品もぜひ読んでみたい作家です。
 物語の筋を細かく紹介すると興をそいでしまうタイプの作品だと思うので、あまり内容は紹介しませんでしたが、共通する印象の作品を挙げることで、具体的な物語を紹介するのに代えさせてもらいたいと思います。
 広瀬正『マイナス・ゼロ』、ケン・グリムウッド『リプレイ』、フィリップ・K・ディックの諸作、フレッド・セイバーヘーゲン『バースディ』、ロバート・A・ハインライン 『輪廻の蛇』、星野之宣『2001夜物語』
 これらのタイトルでピンと来た方には、オススメしておきましょう。

テーマ:マンガ - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント

『マイナス・ゼロ』と 『輪廻の蛇』にピン!(笑)
面白そうですね。
【2014/11/01 11:24】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
オールドSFファンには面白く読める作品だと思います。
コミックで、これだけSF要素の入った作品を読んだのは久しぶりでした。
【2014/11/01 12:50】 URL | kazuou #- [ 編集]

奇相天覚
どっかで見たタッチだなと思ったら週刊モーニングで奇相天覚を連載していた方ですね。
美形キャラではない「日本人」の顔をキチンと描ける方で、奇想天外なストーリーとベタの
殆ど無い読みやすい絵柄が印象に残りました。今回の表紙の一枚絵も印象的で忘れられません。5人を導く存在が、温かく頼りがいのある女性の姿をしていて良かったです。
現実でもこんなに頼りになる上司やケアマネさんがいてくれたらと願います。この作品は
あの大災害を経験した現在だから描けた素晴らしいものでした。取り上げて下さりありがとうございました。
【2014/11/09 08:45】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
 この作者、寡作ながらコアなSFファン、マンガファンからは評価が高いみたいですね。絵柄は正直垢抜けないところもありますが、作品としての完成度は素晴らしいです。
 震災以後、災害を作品中で扱うのは非常に難しくなったと思うのですが、そのあたりの扱いも含めて、並々ならぬ手腕だと思います。
 
【2014/11/09 12:08】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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