生きているってなんだろう?  内田善美『草迷宮・草空間』(集英社)

4087821013草迷宮・草空間
内田 善美
集英社 1985-03

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 内田善美は、少数の作品を残して消えた伝説的な漫画家です。1980年代に沈黙して以来、その作品は一切再版されていません。それにもかかわらず、今でも、その作品の魅力について語る人は後を絶ちません。
 彼女の代表作といえば、まず第一に挙がるのが『星の時計のLiddell』(全3巻 集英社)でしょう。夢をテーマに、重厚かつ哲学的に描かれたファンタジーですが、ある種、難解でもあり、万人に受け入れられるといった物語ではありません。
 それに対し、もう一つの代表作というべき作品『草迷宮・草空間』(集英社)は、親しみやすいキャラクターの登場する、愛すべきファンタジーに仕上がっています。

 ある日、大学生の青年、草は捨て猫らしき鳴き声を聞き、様子を調べに出かけます。そこにいたのは猫ではなく、小さな女の子でした。ふとしたことから、草は彼女と共同生活を送ることになります。「ねこ」と名乗る不思議な少女は、かってボス猫と一緒に暮らしていたと話します。やがて「ねこ」は人間ではなく人形だったことがわかりますが…。

 魂を持つ人形「ねこ」と、青年「草」との日常を描いた作品ですが、この作品の特殊性は、人形「ねこ」の不思議な感性にあります。
 「ねこ」は、周りのあらゆるものに興味を持ち、植物・動物・人間の区別をせず、生命というものにひときわ関心を抱きます。また、ふてくされてみたり、満面に喜びを表してみたりと、彼女の行動は、みずみずしい感性に彩られているのです。
 「ねこ」の行動を見ていて想起するのは、子ども。そう、「ねこ」は、ある種の、子どもの寓意でもあるのでしょう。「子ども」のように、「ねこ」は草との生活のなかで、いろいろなことを理解していきます。
 そしてまた、「ねこ」だけでなく、共同生活者である草という青年もまた、独自の感性を持つ人間として描かれています。何かを飛びぬけて愛したり嫌うのではなく、まったく同じ比重で全てを受け入れる心の広さを持ち、彼の中ではガールフレンドのアケミと「ねこ」とは同じぐらい大切な存在になっているのです。
 物語後半、現在のアケミと、写真で見た子どもの頃のアケミとが、同一人物であることを理解した「ねこ」は、驚きます。生命は成長する、ならば自分もまた成長するのではないか?
 草との生活を通して、「ねこ」も、精神的に成長していきます。しかし人形であるがゆえに、肉体的に成長することは不可能だということまでは思いが至らない幼さ。そして、そこから先二人がどうなるのかは読者の想像に委ね、物語は幕を下ろします。
 生きていることの豊かさ、愛おしさをこれほどチャーミングに描いた作品を他に知りません。
 微妙な心理の綾を丁寧に、丁寧に描いた作品です。まさに工芸品の趣のある、愛すべきファンタジー作品といえます。
この記事に対するコメント
嬉しい!!
内田先生をご存じだなんて嬉しいです。
少女マンガの中に入るし、おっしゃる通り万人受けするようなものでありませんが、この世界観を知ってしまったらきっと虜になる事間違いなし。
私も内田先生の作品の虜になり、内田先生のように描けるようになりたいと憧れ、ペンで練習しまくったものです。(結果はさておいて、近づきたいという気持ちは大切かな^^;)
どんなにデジタル画が進んでも、この「魅力」には届かないと思っています。
先生の沈黙は継続しているのですね…再販等を願っていたファンの一人ですが、先生らしいといえばそうなのかもしれないけどもったいないというのが本音ですね…。
もっとたくさんの方に見て頂きたいです❤
【2014/09/28 17:37】 URL | みん #- [ 編集]

>みんさん
 内田善美作品は、『草迷宮・草空間』『星の時計のLiddell』の2作しか読んだことがないのですが、この2作だけでも、歴史に残る作家ですね。
 マンガのコマとは思えない描き込み、ほとんど一枚絵のような描写を見ていると、寡作にならざるを得なかった理由がわかります。
 ぜひ作品を再版してほしいですけど、今のところ難しいみたいですね。
【2014/09/29 18:58】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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