欧米の怪奇小説をめぐって  ロシア、東欧、南欧、ラテンアメリカのアンソロジー
世界幻想文学大系 第34巻 ロシア神秘小説集 現代イタリア幻想短篇集 遠い女―ラテンアメリカ短篇集 (文学の冒険シリーズ) 新編バベルの図書館 第6巻
 イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ以外の国の怪奇小説アンソロジーとなると、途端に数が減ってしまうのが実情なのですが、まとめて紹介しておきたいと思います。

 まずはロシアから。

 『怪奇小説傑作集5』(植田敏郎、原卓也訳 創元推理文庫)
 ドイツ編とのカップリング。ロシア編は、ミハイル・アルツィバーシェフ『深夜の幻影』、アレクセイ・レーミゾフ『犠牲』、ニコライ・ゴーゴリ『妖女 (ヴィイ)』、アントン・チェーホフ『黒衣の僧』、アレクセイ・N・トルストイ 『カリオストロ』を収録しています。
 なかでは、やはりゴーゴリの『妖女 (ヴィイ)』のインパクトが強烈。ユーモアとホラーが一体となった作風は、ロシア作品のなかでは異彩を放っています。

 沼野充義編『ロシア怪談集』(河出文庫)
 プーシキン、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、ドストエフスキー、チェーホフなどの文豪の怪奇作品に加え、オドエフスキー、アレクセイ・K・トルストイなどの古典怪奇小説を収録しています。
 もともと怪奇プロパー作家が少ないお国柄ですが、なかでは特異なファンタジー作家、アレクサンドル・グリーンの怪談作品『魔のレコード』が面白いです。

 川端香男里編訳『ロシア神秘小説集 世界幻想文学大系34』(国書刊行会)
 タイトルには「神秘」とありますが、収録作品はかなりオーソドックスな怪奇小説が多く、エンタテインメントとしても、ひじょうに上質のアンソロジーです。
 何といっても、巻頭のアレクセイ・トルストイの3作が素晴らしいです。なかでもスラヴの吸血鬼を扱った『吸血鬼』『吸血鬼の家族』の緊張感が半端ではありません。『吸血鬼の家族』は、マリオ・バーヴァ監督『ブラック・サバス』で映像化もされている名作怪奇小説。

 川端香男里編訳『現代ロシア幻想小説』(白水社)
 ロシアの「幻想的」な作品を集めたアンソロジーです。白水社の≪現代幻想小説≫シリーズは、「幻想的」を広く解釈しているので、エンタテインメント作品だけでなく、幻想的な要素を持つ純文学からもセレクションがなされています。
 フョードル・ソログープ、エヴゲーニイ・ザミャーチン、アレクサンドル・グリーン、ミハイル・ブルガーコフ、アンドレイ・ベールイ、オシップ・マンデリシュタームらの作品を収録。

次は東欧から。ポーランド、チェコ、ハンガリーなど、国はたくさんあるのですが「東欧」とまとめられてしまうことが多いですね。

 沼野充義編『東欧怪談集』(河出文庫)
 ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ユダヤ、セルビア、マケドニア、ルーマニアの東欧各国の怪奇幻想小説を集めたアンソロジーです。複数の国からセレクションされているので、当然といえば当然なのですが、刺激的でバラエティに富んだ、素晴らしいアンソロジーです。
 日本ではあまり知名度のない作家が、多く収録されているのも嬉しいところ。ポーランド編では、ポーランド唯一の怪奇小説の巨匠といわれるステファン・グラビンスキの作品も収録されています。
 ヤン・ポトツキ、レシェク・コワコフスキ、カレル・チャペック、カリンティ・フリジェシュ、イヴォ・アンドリッチ、ミロラド・パヴィチ、ダニロ・キシュ、ミルチャア・エリアーデなどの作品を収録。近年個人作品集が刊行されたリュドミラ・ペトルシェフスカヤの作品も収録されています。

 吉上昭三、直野敦、栗原成郎編『現代東欧幻想小説』(白水社)
 ポーランド、ルーマニア、ユーゴスラヴィア、チェコスロヴァキア、ハンガリーの幻想小説を収録しています。純文学的な作品よりも、SF、ファンタジーよりの作品が多いのが特徴です。
 ポーランド編は、後に日本でも短篇集が邦訳されたスワヴォーミル・ムロージェックの風刺的な作品、チェコ編では、カレル・チャペックとイヴァン・ヴィスコチルの愛すべきファンタジーが中心となっています。
 ルーマニア作家、ガラ・ガラクティオンの古典的怪奇小説『カリファールの水車小屋』『車が淵』が読みどころでしょうか。

 イタリア

 竹山博英編訳『現代イタリア幻想小説 世界幻想文学大系41』(国書刊行会)
 タイトル通り、現代(主に20世紀)のイタリア幻想小説を集めたアンソロジーです。お国柄というべきか、ひじょうに軽妙でファンタジーに富んだ作品が多く収められているのが特徴でしょうか。
 ジョヴァンニ・パピーニの古典的な怪奇小説、トンマーゾ・ランドルフィとディーノ・ブッツァーティの寓意に富んだファンタジー。風刺の効いた、プリーモ・レーヴィ、ジョルジョ・マンガネッリ、ルイージ・マレルバの作品など、質の高いアンソロジーです。

 スペイン

 東谷穎人編訳『スペイン幻想小説傑作集』(白水uブックス)
 呪われた義足をめぐるスラップスティック作品『義足』(ホセ・デ・エスプロンセダ)、オーソドックスに怖い怪談『背の高い女』(ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン)、「死の舞踏」をテーマにした『ガラスの眼-ある骸骨の回想記』(アルフォンソ・ロドリゲス・カステラオ)など、力作が目白押し。
 なかでも、ベンセスラオ・フェルナンデス・フローレスの『暗闇』は、世界全体が暗闇に包まれてしまったら…という不条理な恐怖小説。かなり怖い作品です

 南欧

 西本晃二編訳『南欧怪談三題』(未来社)
ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーザ『鮫女』、アナトール・フランス『亡霊のお彌撤』、 プロスペル・メリメ『ヰギヱの女神』の3編を収録しています。作者ではなく、内容的に「南欧」というくくりの編集ですが、なぜこの3編なのかもよくわからないという点で、アンソロジーとしては微妙なところです。

 南米、ラテンアメリカの作品では、普通小説に分類される作品でも、部分的に幻想的な要素が出てくることが稀ではありません。いわゆる「怪奇小説」とは異なるのですが、空想的な作品群には捨てがたい魅力があります。

 木村榮一編『美しい水死人 ラテン文学アンソロジー』(福武文庫)
 南米、ラテンアメリカの作品を集めたアンソロジー。ことさら幻想的な作品を選ぶというコンセプトではないようですが、結果的に、選ばれた作品が幻想的な作品ばかりなのは、南米の文学的な風土ゆえでしょうか。
 「生きている手」のバリエーション怪談『「アランダ司令官の手』(アルフォンソ・レイエス)、波と同棲する男を描いた幻想小説『波と暮らして』(オクタビオ・パス)、干し首を商売にしてしまった男を描く、ブラック・ユーモアあふれる作品『ミスター・テイラー』(アウグスト・モンテローソ)、短いながらも強烈な印象を残す怪奇小説『羽根枕』(オラシオ・キローガ)など。

 鼓直編『ラテンアメリカ怪談集』(河出文庫)
 神話的な情景を描いた『火の雨』(レオポルド・ルゴネス)、死のイメージに満ちた幻想小説『彼方で』(オラシオ・キローガ)、「夢みるものと夢みられるもの」を描いたボルヘスの代表作『円環の廃墟』、ユーモアと風刺に富んだ吸血鬼小説『吸血鬼』(マヌエル・ムヒカ=ライネス)、永遠に読み終わらない本を描く『魔法の書』(エンリケ・アンデルソン=インベル)など、傑作秀作揃い。
 怪談のみならず、ラテンアメリカ文学の代表的なショーケースとしても読める傑作アンソロジーです。

 木村榮一編『遠い女 ラテンアメリカ短篇集』 (国書刊行会)
 フリオ・コルタサルの作品が5編収録と、コルタサルその他の短篇集みたいな編集なのですが、コルタサル作品以外の作品のほうが面白いという、妙なアンソロジーです。
 魔術的な怪奇小説『チャック・モール』(カルロス・フェンテス)、ドッペルゲンガーを扱う『分身』(フリオ・ラモン・リベイロ)、SF的なテーマの『未来の王について』(アドルフォ・ビオイ=カサレス)など、秀作が多いのですが、巻末に収められた、マヌエル・ムヒカ=ライネスの『航海者たち』が、奇想あふれる波乱万丈の冒険小説で、読み応えがあります。

 ホルヘ・ルイス・ボルヘス編『アルゼンチン短篇集』(内田吉彦訳 国書刊行会)
 ボルヘスの編んだ個人編集の文学全集≪バベルの図書館≫の1冊です。アルゼンチンに絞った編集ですが、奇想に富んだ作品が多く、楽しめます。
 猿に言葉を話させようとする『イスール』(レオポルド・ルゴーネス)、ビオイ=カサレスのSF小説『烏賊はおのれの墨を選ぶ』、一読唖然とした結末が待つ『チェスの師匠』(フェデリコ・ペルツァー)などが面白いですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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