欧米の怪奇小説をめぐって  ドイツ・オーストリアの怪奇小説
怪奇小説傑作集5<ドイツ・ロシア編>【新版】 (創元推理文庫) ドイツ幻想小説傑作集 (白水Uブックス (72)) 怪奇・幻想・綺想文学集: 種村季弘翻訳集成 独逸怪奇小説集成
 ドイツ・オーストリアといった、ドイツ語圏の怪奇小説の特徴は、何より「神秘性」の強いこと。怪奇小説の本場とされるイギリスの作品自体が、そもそもドイツ作品の影響から生まれたと言われています。端的に言えば「雰囲気がある」といってもいいでしょうか。
 本邦でも、数は少ないながら上質なドイツ作品アンソロジーが出ていますので、それらを紹介していきましょう。

 まず、東京創元社から1960年に刊行された≪世界恐怖小説全集≫の1冊、『蜘蛛 世界恐怖小説全集11』(植田敏郎訳 東京創元社)がドイツ編です。
 ハインリヒ・フォン・クライスト、テオドール・ケルナー、H・H・エーヴェルス、E・T・A・ホフマンの作品を収録しています。
 ドイツ・ロマン派をクライスト、ケルナー、ホフマン、現代作品をエーヴェルスで代表させている感があるのですが、正直この収録数でドイツを代表させるのは無理があります。
 エーヴェルスが3編、ホフマンが2編収録になっていて、読み応えはありますね。
 この『蜘蛛』を母体に再編集されたのが、『怪奇小説傑作集5』(植田敏郎・原 卓也訳 創元推理文庫)です。こちらは、ドイツ編だけでなく、ロシア編とのカップリングになった関係で、更に収録作品が少なくなっています。
 『蜘蛛』から、エーヴェルス2編とホフマン1編が割愛されています。結果残ったのがエーヴェルスは『蜘蛛』、ホフマンは『イグナーツ・デンナー』です。それにしても、この収録数では非常に物足りない感がしてしまいます。

 今泉文子編訳『ドイツ幻想小説傑作選  ロマン派の森から』(ちくま文庫)
 文庫オリジナルで出版された、ドイツ・ロマン派の幻想小説の傑作集です。ドイツ・ロマン派は18世紀末から19世紀前半にかけて活躍したドイツのロマン主義の作家たちの総称です。幻想的な要素を持つ「メルヘン」を文学に高めようとしました。
 収録作品は5編と少なめで、既訳作品も多いのですが、シャミッソーの『アーデルベルトの寓話』とアーヒム・フォン・アルニムの『アラビアの女予言者 メリュック・マリア・ブランヴィル』が貴重な初訳作品です。
 物語性の強い作品が多く楽しめます。

 基本的に、日本におけるドイツの怪奇小説アンソロジーは、ほぼ2人の編者によって編まれているといって過言ではありません。種村季弘と前川道介の2人です。

 ファンには「種村好み」でも通じるような、独特の趣味嗜好を持つ種村季弘の編んだアンソロジーは、前衛的な要素が強いのが特徴です。

 種村季弘編『現代ドイツ幻想小説』(白水社)は、「怪奇小説」というよりは「幻想小説」集なのですが、読んで面白い作品が多く収められており、エンタテインメントとして楽しめます。
 カフカやローベルト・ムージル、パウル・ツェランなど文学畑の作家に混じって、オスカル・パニッツァ、パウル・シェーアバルト、グスタフ・マイリンクなどの怪奇小説プロパーに近い作家の名前も見えます。
 後に単行本が紹介されることになる、短篇の名手クルト・クーゼンベルクも初紹介されています。全体的に前衛的な幻想小説集で、今読んでも刺激的なアンソロジーです。

 種村季弘編『ドイツ怪談集』(河出文庫)
 河出文庫の国別≪怪談集≫のドイツ編として編纂されたアンソロジーです。「種村好み」が比較的抑えられ、割とオーソドックスな怪奇小説集になっています。ただ、この本が刊行された時点で既訳だった作品の再録が多いのが玉に瑕ですね。
 クライスト、ホフマン、ルートヴィヒ・ティーク、ヴィルヘルム・ハウフなどのドイツ・ロマン派の作家、エーヴェルス、マイリンク、カール・ハンス・シュトローブルなどの20世紀の怪奇作家、ハンス・ヘニー・ヤーン、マリー・ルイーゼ・カシュニッツなどの現代作家など、ドイツ作品を一通り概観するには便利なアンソロジーです。

 種村季弘編『ドイツ幻想小説傑作集』(白水uブックス)
 邦訳の少ない作家名がずらりと並ぶ、貴重なアンソロジーなのですが、かなりぶっとんだ作品が多く収録されており、なかなか難物です。
 フリードリッヒ・デュレンマット『犬』、グスタフ・マイリンク『蝋人形館』、カール・ハンス・シュトローブル『メカニズムの勝利』など、ストーリー性の強い作品も混じっているので、難しい作品は飛ばして、面白い作品だけ拾い読みする、というのが無難な読み方かもしれません。

 『怪奇・幻想・綺想文学集 -種村季弘翻訳集成』(国書刊行会)
 没後、種村季弘の翻訳を集めた本なので、厳密に言えばドイツ以外の国の作家が収められたりもしていますが、入手困難になっている吸血鬼アンソロジー『ドラキュラ・ドラキュラ』『ブラック・ユーモア選集 外国篇・短篇集』の収録作品がまとめられており、貴重な一冊です。
 ホフマン、オスカル・パニッツァ、グスタフ・マイリンク、ハンス・ヘニー・ヤーン、フリートリヒ・デュレンマットなどを収録。30篇以上と収録作品数が多いのも嬉しいところ。
 
 さて、種村季弘が前衛的なアンソロジーを編んだのとは対照的に、前川道介は伝統的な怪奇小説アンソロジーを編んでいます。

 前川道介編『ドイツ・ロマン派全集8  月下の幻視者』(国書刊行会)
 ドイツ・ロマン派のマイナー作家の短篇、そして有名作家のメルヘン的な小品を集めたアンソロジーです。ゲーテ『メールヘン』、ゴットフリート・ケラー『仔ネコのシュピーゲル』、ヘッベル『ルビー』など、個人作家の作品集でなければ読めなかった作品をまとめて読めるのも嬉しいところです。
 加えて、C・W・S・コンテッサ、ハインリヒ・チョッケ、エルンスト・アルント、ギュンデローデなど、珍しい作家のメルヘンが読めるのはこのアンソロジーぐらいでしょう。

 前川道介編『現代ドイツ幻想短篇集 世界幻想文学大系13』(国書刊行会)
 間違いなく、日本で刊行されたドイツの怪奇小説アンソロジーでは最高の一冊でしょう。怪奇味が強く、ストーリー性の高い、いわゆる「怪談」的な要素の強い作品が多く収められており、エンタテインメント性のひじょうに高い一冊です。
 巻頭にまず、マイリンク、エーヴェルス、シュトローブルの怪奇作家御三家の作品が置かれています。マイリンク、エーヴェルスに関しては、それぞれ複数作品がとられているのも嬉しいところ。
 現代作品でもアルブレヒト・シェッファー『ハーシェルと幽霊』、クリスタ・ライニヒ『エリダノス号』など、娯楽性の高い怪奇小説を収めています。また、巻末のヴェルナー・ベルゲングリューンの3作がどれも質が高い作品で驚かされます。
 
 竹内節編『独逸怪奇小説集成』(国書刊行会)
 前川道介がぽつぽつ雑誌などに発表していたドイツ怪奇短篇を総集した、弩級のアンソロジー。没後、別の編者によって編まれたものですが、実質的にはアンソロジーと言ってしまってもいいと思います。
 上記の『現代ドイツ幻想短篇集』が文学性や歴史的な要素も加味して編まれたアンソロジーだとするなら、これはもう訳者が大好きで訳した短篇を集めたものといっていいかと思います。
 独自の画風を持つ幻想画家アルフレート・クービンの吸血鬼小説『吸血鬼狩り』、愛すべきファンタジー、『シャボン玉の世界で』(クルト・ラスヴィッツ)、モーツァルトの幽霊が登場するユーモア怪談『公園での出会い』(ヘルベルト・ローゼンドルファー)、近年再評価の著しいレオ・ペルッツの怪奇小説『月は笑う』など、どれもこれも素晴らしい怪奇・幻想・ファンタジー小説ばかりで、怪奇小説ファンにとって、まさに夢のような本だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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