かごの中の鳥  ロード・ダンセイニ『最後の夢の物語』
4309462634最後の夢の物語
ロード・ダンセイニ 中野 善夫 安野 玲
河出書房新社 2006-03-04

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 河出文庫から出版された《ロード・ダンセイニ幻想短編集成》は、近年稀にみる素晴らしい企画でした。その最終巻である『最後の夢の物語』(中野善夫/安野玲/吉村満美子訳)は、初期の作品集『世界の涯の物語』や『夢見る人の物語』に収録された作品にくらべて、現実世界を舞台にしたものが多くなっています。いくつかの作品は、それこそ異色作家短編集に入れてもおかしくないようなもの。ダンセイニのハイ・ファンタジーが肌に合わない人にこそ読んでいただきたい作品集となっています。それでは面白かったものをいくつか紹介しましょう。
 『五十一話集』は荒俣宏の訳もありますが、かなり寓意が濃いのでちょっと難解な作品もちらほらします。意味を無理に探るよりもイメージを楽しむべきなのでしょう。最後の『詩人、地球とことばを交わす』は稲垣足穂も気に入っていたという極めつけの名作です。
 『不死鳥を食べた男』はかなりホラ話の色彩が濃い作品。ちょっと頭の足りない男が、不死鳥を食べたことから、様々な精霊や不思議な出来事に出会うようになる、という連作短編。男の話を聞く語り手が、本当に話を信じているのか判然としないところも人を喰っています。
 『林檎の木』は、魔女の魔力で鳥になった少年の話。真実を語る少年に対し、それを信じない大人たちが対比されています。少年の話が本当なのかどうか明らかにしないところもスマートです。
 『老人の話』は、アイルランド版浦島太郎の物語。老人の語りが、エドモント・ハミルトン『追放者』を思わせる結末につながります。
 ノームのゴルゴンディ・ワインを盗んでしまった男の顛末を描く『オパールの鏃』
 まだ手に入れてもいない虎皮を広げるために、玉突き台を欲しがる奇妙な男。まるでスタージョンの作品かと見紛うような異様な論理が支配する『虎の毛皮』
 夢の中で犯罪がなくなってしまったために、仕事にあぶれてしまうやり手弁護士の話『悪夢』
 現代に舞台を移し替えた『当世風の白雪姫』は、非常に諷刺の強いモダンなおとぎ話。
 金の価値を理解し、とうとう自分を売りつけることに成功した犬。彼は身なりを整える道具を買い揃え、次第に傲慢になってゆきます。人々は犬である彼に無視されることに非常な恐怖を覚えるのですが…。ユーモアあふれる滑稽譚『無視』
 火星からの電波をなんとか解読した男。そこにはなんと地球における生命の可能性についての議論が…。ダンセイニには珍しいSF作品『第三惑星における生命の可能性』
 黎明期の人類と番犬の出会いを情感豊かに描く寓意ファンタジー『最初の番犬』
 クラブの名誉会員に選ばれた謎の男。誰もがうやうやしく迎えるその男の正体とは…。神話と現実が交錯する『名誉会員』。 
 大佐から聞いた奇妙な話。彼が出会った老修道士の壮大な野望とは…。一読唖然とする珍品『金鳳花の中を下って』
 悪魔から、この世で最高の詩を書ける能力を手に入れた青年。しかしその詩を読み聞かせた人々は、思いもかけない反応を示す。その詩の秘密とは…。リドル・ストーリーのヴァリエーションともいえる『悪魔の感謝』
 犬の抽出物を注入された男は「犬の情熱」のとりこになり、あらゆる事象に情熱を示し始める。男を疎み始めた人々は彼をクラブから除名しようとしますが…。ブルガーコフの「犬の心臓」を彷彿とさせるユーモア篇『犬の情熱』
 誰もが知る美貌の大女優としがない銀行員、二人のつかの間の恋愛を諷刺を交えて描く『忘れ得ぬ恋』
 収録作品はどれも甲乙つけがたいものですが、一番インパクトを受けたのはこの作品『リリー・ボスタムの調査』です。
 十六歳のリリー・ボスタムは天才的な私立探偵。リリーは、最近起こった愛鳥家シモンズ氏の失踪事件について調査を始めます。死体も血痕もなし。犯罪の形跡も、自殺する理由も全くなく、事業の景気もよかったシモンズ氏の失踪は、警察を悩ませます。
 シモンズ氏は鳥を商っていました。リリーは、シモンズ氏の顧客であるヴァネルト夫人を怪しみ、彼女の身辺を調べます。夫人が言っていたという言葉にリリーは注意を惹かれます。

 シモンズも自分の歌い鳥がいなくなって寂しいに違いなく、自分で歌うことを覚えなければならないと彼女はいいました。そして、自分が費用を負担して歌の勉強をさせてやろうといったのです。

 レッスンによって歌が上達したシモンズ氏に、夫人は満足します。

 「さあ、これでもう自分で歌えるようになったわね。きっと大切な鳥たちがいなくなっても寂しい思いをすることもないに違いないわ」

 さらにリリーは、ヴァネルト夫人が、人間が入れるくらい巨大な鳥籠を注文していたことなどをつきとめます。そこから彼女は驚くべき結論を引き出すのですが…。
 少女探偵物語のパロディと思しき本作は、まるでマルセル・エーメやカミ、あるいはラファティといった作家たちのナンセンス・コントの域に達しています。その奇想天外な結末には唖然とされるはず。何より少女探偵のチャーミングさが際だつ傑作です。
 本書は、ダンセイニと言われて思い浮かべるような神話的なファンタジーよりも、軽やかなほら話といった色彩が強い作品集です。上にも記しましたが、ファンタジーが苦手な読者にも読める奇妙な味の短編集になっていますので、ぜひ一読することをお勧めします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
読んでみようかな
"ダンセイニのハイ・ファンタジーが肌に合わない"ので(『ペガーナ‥』で懲りました。)書店で見かけても手に取らなかったのですが、これなら読んでみようかなという気になりました。
【2006/03/28 20:54】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


本書は、ファンタジーが苦手な方でもいけると思います。ほとんど「奇妙な味」の作品ですし。生粋のダンセイニファンにとっては、あんまり気に入らないものなんでしょうが。
訳者あとがきには、売れ行き次第では〈ジョーキンズ〉シリーズも訳される可能性があるとありました。このシリーズは完全にホラ話なので、ぜひ訳してもらいたいものです。
【2006/03/28 22:22】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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