2013年を振り返って
闇の国々IV 猫の目 神様降臨 ジャック・リッチーのあの手この手 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) バン、バン! はい死んだ: ミュリエル・スパーク傑作短篇集 予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー (扶桑社ミステリー) 予期せぬ結末2 トロイメライ (扶桑社ミステリー) 時を生きる種族 (ファンタスティック時間SF傑作選) (創元SF文庫) たんぽぽ娘 (奇想コレクション) 夢幻諸島から (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) 永遠のアダム リライト (ハヤカワ文庫JA) リビジョン (ハヤカワ文庫JA) 角のないケシゴムは嘘を消せない (講談社ノベルス)
 もうすぐ2013年が終わります。

 振り返って、印象に残っているトピックとしては、≪奇想コレクション≫シリーズの完結でしょうか。唯一未刊行だった、ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』がようやく刊行されたのも嬉しい驚きでしたが、この短編集が社会的に話題になったというのも驚きでした。
 10年前ぐらいから続いていた、異色作家系の短編集の刊行も、これでしばらく落ち着いてしまうのかと思いました。一時期は、≪奇想コレクション≫≪異色作家短編集≫≪ダーク・ファンタジー・コレクション≫≪青心社SF≫など、毎月のように短編集が刊行されていて、短編好きにとっては至福の時期でしたから。
 ただ、河出書房からは、叢書名こそ冠されていませんが、コンスタントに海外作家の短編集が刊行されていて、これからも期待ができそうです。また、扶桑社ミステリーから刊行中の≪予期せぬ結末≫シリーズも応援していきたいですね。
 あと、毎回刊行を楽しみにしていたホラー専門誌『ナイトランド』の休刊も残念なトピックでした。来年の復帰と新展開を期待しています。

 さて、印象に残った本としては、4巻で完結したフランスのコミック、ブノワ・ペータース, フランソワ・スクイテン『闇の国々』(小学館集英社プロダクション)をまず挙げたいです。エピソード自体の出来不出来はあるものの、どれもが圧倒的な画力と丁寧に構築された世界観を持っていて、まるで小説を読んでいるような読後感を得られます。幻想小説やSF小説から触発されたと思しい要素を見つけるのも、楽しい作業でした。
 海外コミックでは、アレハンドロ・ホドロフスキー/メビウス『猫の目』(竹書房)やマルク=アントワーヌ・マチュー『神様降臨』(河出書房新社)も面白く読みました。『神様降臨』は、ほとんど風刺SFというかスラップスティック・コメディで、才気を感じさせる作品でした。マチューは未訳作品にも面白そうなものがあるようなので、ぜひ続けて出してほしいです。
 海外小説は、以下順不同で印象に残ったものを。

 ジャック・リッチー『ジャック・リッチーのあの手この手』(ハヤカワ・ミステリ)
 ミュリエル・スパーク『バン、バン! はい、死んだ ミュリエル・スパーク傑作短篇集』(河出書房)
 アンドリュー・カウフマン『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』(東京創元社)
 リュドミラ・ペトルシェフスカヤ『私のいた場所』(河出書房新社)
 ジョン・コリア『予期せぬ結末1 ミッドナイトブルー』 (扶桑社ミステリー)
 チャールズ・ボーモント『予期せぬ結末2 トロイメライ』(扶桑社ミステリー)
 中村融編『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』(創元SF文庫)
 アルジャノン・ブラックウッド『人間和声』(光文社古典新訳文庫)
 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(河出書房新社)
 会津信吾・藤元直樹編『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉 戦前邦訳傑作選』 (東京創元社)
 西崎憲編『怪奇小説日和』(ちくま文庫)
 クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』(文遊社)

 日本作家では、今年はまったのは、法条遥と白河三兎ですね。
 法条遥は、デビュー作の『バイロケーション』 (角川ホラー文庫)から、肌合いの合う作家だなと思っていたのですが、出す作品がことごとくツボにはまる感じで、追いかけていきたい作家になりました。
 登場人物に対する扱いにすごく理不尽なところがあるので、合わない人には合わないかもしれません。題材自体に新鮮さがあるわけではないのですが、ジャンル小説の「型」の崩し方がすごく独特なので、非常にユニークに感じます。
 仮想現実ものの『404 Not Found』(講談社ノベルス)、ブラックな時間SF『リライト』(ハヤカワ文庫JA)とその続編『リビジョン』(ハヤカワ文庫JA)も面白く読みました。『バイロケーション』が映画化だそうで、これからブレイクしそうな感じですね。
 白河三兎は、破天荒なシチュエーションで始まる『もしもし、還る。 』(集英社文庫)ではまり、過去作品を全て読破しました。基本的には青春小説の人だと思うのですが、風変わりな味付けが気に入っています。透明人間との恋愛を描く『角のないケシゴムは嘘を消せない』(講談社ノベルス)、ある意味過酷なシチュエーションを軽妙に描いた『私を知らないで』(集英社文庫) がオススメです。

それでは、今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
来年もよろしくお願いいたします
kazuouさん
こちらの新刊案内を参考にさせていただきました。
今年は(?)短編集が注目されてきてうれしい次第です。
よいお年をおむかえください。
こんごともよろしくお願いいたします。
【2013/12/31 14:47】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
来年もよろしくお願いいたします。

短編集がコンスタントに出版されるようになって久しいですが、この流れが続いてほしいですね。
【2013/12/31 19:35】 URL | kazuou #- [ 編集]

今年はお世話になりました。
「今月の新刊」を毎月楽しみにしております。
来年もよろしくお願いいたします。
「バン、バン!はい死んだ」をゲットしましたが
松の内が済むまで主婦は本をじっくり読む暇が無く
我慢の子です。パソコンの前に座るだけで怒られる。
【2013/12/31 21:01】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
主婦の方は、お正月も忙しいですよね。
それでは、来年がよい年になりますように。
よろしくお願いいたします。
【2013/12/31 21:32】 URL | kazuou #- [ 編集]

こちらは少ない読書量でしたが
昨年もいろいろな記事を楽しませていただき、また本選びの参考にもさせて頂きました。
本年も楽しみに拝見させて頂きます。

海外小説のリストに挙がったうちの3冊は既に購入済みかつ未読なので、読むのが楽しみです。
他では「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」というのは面白そうですね。
「人間和声」は意外なセレクト。当然内容的にはトンデモ系?だと予想されるので、それを楽しめるかなぁといった辺りで、気を引かれたが迷った末購入を見送った経緯がありますが、もう少し悩んでみますか・・・

印象的だった読書はあれこれありますが、番外編的に今想起されるものでは、
一つは神林長平の「戦闘妖精雪風」(SFですね)を今頃読んで、こんな先鋭的なことを書いていたのかと驚いたこと。昔、当時の知人に勧められて短編集的なものを2冊ほど読んで、日本人らしい精神宇宙系の書き手だろうくらいの認識でいてそれっきりでしたが、機械と意識の問題をこの切り口から書いていたとは・・・と。
あとはミハル・アイヴァスなる作家の「もう一つの街」という作品(向こうではいろいろ評判だった旨の解説が書かれています)を読んでみて、自分の肌には合わなかったのですが、ドイツ・ロマン派のファン辺りの方なら結構楽しめるかなという感じでした。
(確かに、シュールな光景が満載だったのですが、"別世界"の登場人物たちが、まるで"こちら側の世界"からの別世界研究者みたいな感じで、機会あるごとに"別世界"の神秘性を滔々と弁舌・解説するのに辟易してしまったりして・・・こういう小説はそういうものなんでしょうが。。)

それにしても、kazuouさんは読書家ですね。"気になる新刊" 意外にもあれこれ読まれているみたいなので。
睡眠不足で電車の中では本を開いても5分と持たない日も多かったこちらとはまさに雲泥の差・・・
【2014/01/05 19:11】 URL | Green #- [ 編集]


神林長平は短編集を何冊か読みましたが、ちょっと肌合いが合わなかったです。
『もう一つの街』は、イメージだけが並べられているような感じで、これも正直きつかったですね。

『人間和声』は、確かに馬鹿らしい話ではありますが、これはこれで面白いと思います。
『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』は、象徴主義的な作風なのですが、短い作品ですし、しっかりエンタテインメントとして書かれているので、面白かったですよ。
【2014/01/05 19:53】 URL | kazuou #- [ 編集]

寓話の魅力
「魔女…」とまとめて書こうと思ったのですが、いい加減長くなったので(すみません)こちらに分けて。
簡単ですが、お礼その2、『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』のことを。

寓話、ですね。
寓話ゆえにメッセージがあるのですが、その骨格が露わにならないくらい、イメージ豊かな様々なエピソードで肉付け、色づけされていて、読んでいて楽しかったです。
短いですが、文字通りの大人の童話としてこの長さも、ふんだんに(リアルなものでなく影絵のような)挿絵が入っていたのも良かった。
こういうもの、久々読んだなぁという感じでした。ご紹介ありがとうございました。
【2014/06/08 06:07】 URL | Green #- [ 編集]


寓話って、基本的にメッセージ性が強く透けて見えるものだと思うのですが、この作品ではそれが上手くぼかされていますね。
短い話ですが、とてもよい物語を読んだ、という読後感を与えてくれました。
【2014/06/08 09:02】 URL | kazuou #- [ 編集]

表を作りながら読みたい本
プリーストの本とはあまり相性が良くない感じなのですが、「無限諸島から」は、あちこちで評価が高い印象なので、ならもう一度試してみようと読んでみました。結構読むのに時間がかかり、特に最初のうち、これって面白いのかな… という感じでしたが、読んでいくうちにそれなりの魅力を感じ取れるようになってきました。

毒虫が暴れるパートは問答無用で面白かったものの、各島々の風土、風習的な部分はあまり面白いとは思えないまま読み進める感じでしたが、作者が各々の話をつなぐキーワードをばらまいていて、だんだんとそのキーワードの謎に興味が惹かれていく辺りの趣向が面白く、本当だったら表とかリストを作って、じっくり付き合わせながら読んだらもっと面白いんだろうなぁ、と思いながら読んでいました。
バーサースト、コミス、トンネル潜り… 他いろいろなキーワードがところどころ現れ、しかし所によって記述が矛盾していたりといった辺り、ただ読んでいるより矛盾点や合致点を把握しながら読んだ方が数倍楽しめそうでした(電車読みだったので、そんなことはせず、せいぜい元のページを実に戻ったりするくらいでしたが・・・)

ただ、初めのうちは各章が独立していると思って読んでいたので、例えば「フェレディ環礁」の章などは、読んだ後、一体これは何を意味するのか、ミザリーもの? 剽窃もの? もしかすると、何か別の作品を知っていると分かる内容?などとさんざん迷って何度も読み返し、結局あきらめて次に進んだというようなことも・・・
(結局後になって、モイリータ・ケインというキーワードについての1ピースというだけなのだなと分かってくるのですが・・・)
この辺、ちょっと読者には楽しみというよりストレスなのではという感じもしました。多分キーワードを全部突き合わせても、謎が解けるというよりは矛盾点が明らかになるだけのような気もしましたし・・

こういう、幾つかの断片から全体像と矛盾が同時に浮かび上がる様なものと、毒虫のパートのような独立した部分が混ざり合っていて、なんとも一筋縄ではいかない作品でした。面白かったのとストレスと、半々な感じだったかなぁと・・・・
【2014/10/06 03:33】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
 カルヴィーノ風というか、博物誌風というか。読み終えても、もやもやしたところが残りますよね。プリーストは他の作品でもそうですけど、読者が想像して補完しないと、作品が完成しない、といったところがあって、それが魅力でもあるんですが、正直疲れているときは、読むのがきつかったりします。
 個人的には面白く読んだのですが、たしかにちょっと冗長な部分が多すぎる気はしました。
【2014/10/09 16:19】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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