恋するグラスアイ  埋もれた短編発掘その14
 自他共に認める不幸なオールドミス、そんな彼女がやっと見つけた生きがいとは? 今回は、悲しいラブストーリー、ジョン・K・クロス『義眼』(村社伸訳 早川書房 ミステリマガジン1968年8月号所収)です。クロスはイギリスの怪奇小説家だそうですが、邦訳はこれ一編きりのようです。
 醜い容貌の孤独なオールドミス、ジュリアは、やることなすことことごとく失敗する運命を持っているかのようでした。年配の実業家に誘惑されては捨てられ、やっと手に入れた婚約者は行方をくらます。彼女の愛の対象は、雇い主の老モーフリイと、身体障害児である甥のバーナード少年だけでした。
 あるとき、甥を連れてミュージックホールにショーを見に出かけたジュリアは、あるプログラムに興味を惹かれます。それは、腹話術師マックス・コロディと人形ジョージによるショーでした。ショーを見た彼女は、甥の存在も忘れ、マックス・コロディの美しい容姿にひきつけられます。

 黒い髪が輝いて、あごがうっすらと青みを帯びた翳りを宿し、口髭にはこまやかな手入れが行き届いて、幅広い肩は力強さを物語っていた。こめかみは狭く、眼が深くすわって、あごにはまっすぐな凹みが走り、歯はしゃべるごとに宝石のように輝いた。

 それに対して人形のジョージのグロテスクな容姿に、ジュリアは嫌悪感を感じます。

 彼の膝の上に乗っているジョージというグロテスクな人形は高さ一メートル足らずで亜麻色の髪と、じろじろ見られているような感じを起こさせるいやな目つきをしていた。

 マックス・コロディに熱をあげた彼女は、彼の舞台に通いつめます。公演が終わりコロディが移動すると聞くと、休暇をとり、おっかけを始めます。それと同時に、コロディに直に合いたいと手紙を出し始めるのです。しつこく出し続けた手紙のかいあって、コロディも次第に親愛を示すようになり、あるとき彼女の写真を送ってくれないかと言い出します。ジュリアは恐ろしく古びた、若いころの写真を送ります。そして、とうとうコロディはジュリアと会うことを承知します。
 ただしコロディは、会うに際して条件を出してきます。場所は人気のない小さいホテル、時間は五分間のみ、部屋は薄暗くしておくこと、会うときには人形のジョージが一緒にいること、など。そしてジュリアは憧れのコロディと対面します。そこで思いもかけない悲劇が起こってしまうのですが…。
 コロディがつけた条件とはいったい何のためだったのでしょうか? タイトルの「義眼」の秘密とは?
 ここまでのあらすじで、勘のよい方は結末が予測できてしまうかもしれません。メインアイディアはおそらく前例があるように思いますが、この作品の読みどころはそのアイディアとは別のところにあるのです。醜い中年女であり、不幸を体現したようなジュリア、もともと精神のバランスをくずしかけていた彼女が、マックス・コロディとの出会いにおいて、さらに精神的に追いつめられてしまう過程が読みどころです。それをどこかユーモアを交えて描いたところに、この作品の真骨頂があります。ユーモアと悲哀の入り混じったラブストーリーの逸品と言えるでしょう。
 ちなみに、この作品はテレビドラマシリーズ『ヒッチコック劇場』で映像化されているそうです(詳しくは、geshicchiさんのサイト「海外ドラマ研究サイト HANDMADE」を参照ください)。この作品、昔の映像技術では、映像化は難しいと思われる要素があるのですが、どう処理しているのか気になります。ぜひ見てみたいものです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

当サイトにつきましても言及いただきまして恐縮です(とはいえ、本エピソードについては、kazuouさんのご指摘によってわかったことでしたので、まことに持ってお恥ずかしい限りなのですが)。
「ヒッチコック劇場」の方では、ジュリアはジェシカ・タンディが演じてますので、「醜い容貌」とかグロテスクな雰囲気いったくだりは、ばっさり切っているようです(TVだから仕方ないのかも)。また彼女の弟のジム(資料によってはいとこになっていたりもしますが)が彼女の不幸な過去をを回想するといった構成をとっています。ここらへんは原作はどうなのでしょうか?
【2006/03/27 17:28】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]

原作は…
テレビドラマの方はかなり設定が改変されてるみたいですね。
原作だと主人公に弟はいなくて、代わりに姉がいることになってます。姉自身は直接出てこなくて甥が出てくるだけです。この甥も話の都合上あんまり重要でもないんですけど。
あと語りも三人称で、物語は義眼をめぐって過去の回想に入っていくという展開になってます。
ドラマの方は主人公が不細工じゃないんですね。このストーリーは、主人公が不器量な中年女ということがポイントになっているんで、その設定を変えてしまうと、ちょっとどうかと思いますね。
【2006/03/27 19:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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