仮面の下の愛憎  フォルチュネ・デュ・ボアゴベ『鉄仮面』
4061982966鉄仮面〈上〉 (講談社文芸文庫)
ボアゴベ Fortun´e Du Boisgobey
講談社 2002-05

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 「鉄仮面」といえば、17世紀後半にフランスに実在した伝説的な囚人です。常に仮面で顔を覆い、その正体は当時の人々にとっても、謎だったと言います。ヴォルテールを始め、数々の人間によって、その正体が取り沙汰され、現代でもその正体は、はっきりしません。
 文学作品でも、何度も取り上げられており、日本ではアレクサンドル・デュマによる作品が有名でしょう。
 フォルチュネ・デュ・ボアゴベの『鉄仮面』(長島良三訳 講談社文芸文庫)も、そんな鉄仮面伝説を扱った作品のひとつです。
 ルイ14世の御世、青年貴族モリスは秘かに国王に対する反乱活動を指揮していました。同じく反乱の同士であるソワソン伯爵夫人の従僕フィリップは、国務大臣ルーヴォアの部下、ナロ会計長の口車に乗せられ、反乱活動を失敗させるため、腹心の友のふりをしてモリスに近づきます。
 モリスの恋人ヴァンダや、部下のブリガンディエールは、フィリップを信用しないようモリスをいさめますが、モリスは、陰謀の詳細をフィリップに話してしまいます。
 やがて国王の誘拐を実行する段になり、フィリップの密告により先回りされたモリス一行は、奇襲を受け、モリスは命を落としてしまいます。しかし内情を知るフィリップは、捕らえられ幽閉されてしまうのです。
 恋人の復讐に燃えるヴァンダは、幽閉されたフィリップを探し出し殺そうと考え、ブリガンディエールとともに計画を立て始めます。同時に、フィリップを愛していたソワソン伯爵夫人もまた、フィリップを救出しようと動きはじめるのです…。
 幽閉された「鉄仮面」の正体は、陰謀の詳細を知ったために囚われた、密告者フィリップだという設定になっています。この男を殺そうと考えるヴァンダの一味と、助けようと考えるソワソン伯爵夫人の一味が、それぞれ権謀術数を繰り広げていきます。
 これだけでも十分面白いのですが、陰謀をつぶそうと暗躍する国務大臣ルーヴォア、魔術で貴族たちをたぶらかす女占い師ヴォワザン、宝石商にして盗賊のモンヴォワザン、モンヴォワザンの可憐な娘マリエット、マリエットに恋する青年判事ピエールなど、多彩な人物が入り乱れ、ストーリーを彩っていきます。
 面白いのは、物語を動かす二人の主人公、ヴァンダとソワソン伯爵夫人が、どちらも女性であること。それぞれ恋人の復讐、恋人の救出と、二人ともその行動の原動力は愛なのです。目的のために、ヴァンダは牢獄に潜り込もうと身分を偽って侵入し、またソワソン伯爵夫人は財力と権力を使い、囚人を釈放させようと活動します。剣戟や活劇こそありませんが、二人の行動は読んでいて読者を夢中にさせます。
 メインとなるストーリーに加え、逮捕された女占い師ヴォワザンの処刑を止めようとするマリエットとピエールの冒険を描くサイドストーリーなども絡み、決して一本調子にはならないところも、魅力的です。
 後半になると、「鉄仮面」の正体がフィリップではなく、生き残ったモリスなのではないかという疑惑も生まれてきます。本当に最後の最後まで「鉄仮面」の正体はわからず、サスペンスが途切れることがないのです。19世紀の作品ながら、今読んでも十分に面白い、波乱万丈の歴史ロマンといえるでしょう。 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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