運命と人間  アドルフォ・ビオイ=カサーレス『パウリーナの思い出に』
433604841Xパウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)
アドルフォ・ビオイ=カサーレス 野村竜仁
国書刊行会 2013-05-30

by G-Tools

 ボルヘスと並び称され、短編の名手との評も聞かれる、アルゼンチンの幻想作家アドルフォ・ビオイ=カサーレス。日本でも数編の短編が訳されていましたが、ようやく本邦初の短編集『パウリーナの思い出に』(野村竜仁、高岡麻衣訳 国書刊行会)が刊行されました。
 バッカス神に翻弄される人間たちの物語『愛のからくり』、動物に生まれ変わった人間たちの顔が見えるようになった男を描く風刺的な『真実の顔』、時間の止まった屋敷に暮らす父娘とそれをめぐる詩人たちの物語『雪の偽証』など、力作が目白押しですが、集中でも飛びぬけた傑作として、表題作『パウリーナの思い出に』『大空の陰謀』が挙げられます。
 『大空の陰謀』は、テストパイロットの男が事故を起こして墜落し、自分の世界とは微妙に異なる世界に迷い込むという物語です。いわゆる「平行世界」を扱っているのですが、著者の筆致が非常に不気味な雰囲気をかもし出しており、悪夢のような幻想小説になっています。
 表題作『パウリーナの思い出に』では、幼い頃から自他ともに認める恋人として過ごしてきた女性が、結婚を目前にして、別の男のもとに走っていってしまいます。傷心の主人公は海外に旅立ちます。
 帰国した主人公のもとに、その女性パウリーナが現れ、かっての愛を取り戻したかに見えますが、やがてパウリーナは、恋敵の男の手で数年前に殺されていたことを知ります。あのパウリーナは亡霊なのか…?
 愛、幻影、分身…。長編『モレルの発明』の変奏曲ともいうべきテーマを持つ傑作小説です。
 収録作品のほとんどに、幻想的もしくはSF的な要素が認められ、広義の「幻想小説」といっていい作品になっています。文学性と物語性が高いレベルで結実した作品集となっており、幻想文学好きにはたまらない短編集でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「パウリーナの思い出に」読みました。
「大空の陰謀」と「影の下」が良かったです。
特に、私は世界史マニアなので、「大空の陰謀」の設定は面白かったです。
もし作中の「ウェールズ」が「日本」だったら、とか考えてみたり…
(まあ舞台がアルゼンチンじゃあ、大した影響は無いでしょうけど)
【2013/08/08 22:06】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
ふつう、この手の平行世界ものって、世界史の大事件が現実とは異なっていたら…という設定が多いと思うのですが、『大空の陰謀』の「ウェールズ」が分岐条件になっているというのは、面白い設定だと思いました。
【2013/08/11 20:18】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/515-e479a238
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する