怪談への想い  南條竹則『怪奇三昧 英国恐怖小説の世界』
477803760X怪奇三昧 英国恐怖小説の世界
南條 竹則 荒木飛呂彦(カバーイラスト)
小学館 2013-05-24

by G-Tools

 2000年に刊行された、南條竹則氏の『恐怖の黄金時代 ―英国怪奇小説の巨匠たち』(集英社新書)は、怪奇小説ファンには外せない名著です。アーサー・マッケンやアルジャーノン・ブラックウッドなど、イギリスの怪奇小説の巨匠たちの略伝や作品を紹介するという、とても新書で出るとは思えないマニアックな本でした。
 怪奇小説への愛にあふれたこの本、残念なことに品切状態が続いていたのですが、今回増補した新版として刊行されました。それが、『怪奇三昧 英国恐怖小説の世界』(集英社)です。
 増補部分としては、まずリチャード・ミドルトンの章が追加されています。また、ラヴクラフトなどの翻訳がいくつか加えられました。
 とはいっても、増補部分以前に、まずは元版の目次を紹介すべきでしょうか。

第一章 四大の使徒-アルジャノン・ブラックウッド
第二章 セント・ジョンズ・ウッドの市隠-アーサー・マッケン
第三章 師匠と弟子-ダンセイニ卿とラヴクラフトについて
第四章 ケンブリッジの幽霊黄金時代-M・R・ジェイムズその他
第五章 霊魂の交わるとき-メイ・シンクレア
第六章 レドンダ島の王たち-M・P・シールとジョン・ゴーズワース
第七章 魔の家を見し人は-H・R・ウェイクフィールド

 なんというマニアライクな内容!
 四章の「その他」では、M・R・ジェイムズのほかに、ベンスン三兄弟やアーサー・キラ=クーチが紹介されています。ブラックウッド、マッケン、M・R・ジェイムズのいわゆる「三大巨匠」はもちろんのこと、ダンセイニ、ラヴクラフト、ウェイクフィールドなどに一章が割かれているのは異論のないところでしょう。
 著者の独自性が発揮されているのは、やはり五章と六章だと思います。メイ・シンクレアとM・P・シール、どちらも、ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズに並べられるほどの作家かというと、正直疑問です(個人的には好きな作家たちです)。そこに一章を割いているところに著者の見識を感じますね。
 さて、新版では第八章として、リチャード・ミドルトンの章が追加されています。著者お気に入りの作家だけに、紹介文にも気合が入っています。
 全体に、非常にわかりやすくまとめられており、初心者にとって読みやすいガイドになっています。代表作のあらすじやテーマ、また未訳作品も取り上げられており、その点マニアが読んでも楽しめます。
 怪奇小説ジャンルに不案内な人に、とくに注意しておきたいのですが、本書は怪奇小説ガイドとはいうものの、このジャンルの作品を網羅したものではありません。取り上げられているのは、ほぼイギリスの正調怪奇小説(こういう言い方をしていいのかどうかわかりませんが)です。時代的に一番新しい作家が、H・R・ウェイクフィールド(1888-1964)ですので、いわゆるモダンホラーや現代作品にも触れられていません。
 その意味で、ガイドブックとしては、扱っている範囲が非常に狭く、怪奇小説を歴史的に俯瞰したい方にとっては、少し趣が異なります。ただ、怪奇小説ファンにとっては、まさにこの時代、この地域の作家たちこそ、黄金時代の怪奇小説作家といえます。本書をとっかかりに、個々の怪奇作家の作品に触れていくのが有用な読み方といえるのではないでしょうか。ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズは個人作品集が出ていますし、ウェイクフィールドも先ごろ怪談集『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)が出ています。メイ・シンクレアに関しても、怪談集の出版が予定されているようです。
 怪奇小説ファンとしては、もし自分がガイドを書くとしたら、誰を取り上げるだろう、と考えながら読むのも楽しいですね。A・E・コッパード、オリヴァー・オニオンズ、シンシア・アスキス、イーディス・ウォートン、ジョン・メトカーフ、A・M・バレイジ エルクマン=シャトリアン。このジャンルには歴史があり、素晴らしい作家がたくさんいます。自分のお気に入りの怪奇作家を探すのも楽しい作業になるのでは。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

実はこの中では巨匠たちではなく、メイ・シンクレアが一番好きです
「天国」を読んだときは、衝撃を受けました
この時代の小説を読んでいて、こんな発想の話に出会うとは思っていなかったので
ぜひ作品集を出して欲しいです
【2013/06/05 00:55】 URL | ガンビー #NIrP5qws [ 編集]

>ガンビーさん
メイ・シンクレアは、当時としても独創的な作品が多いですよね。
『天国』も面白い作品だと思います。
個人的には『仲介者』(『鼻のある男』収録)のインパクトが強いですね。
【2013/06/05 23:01】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/513-ead20dca
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する