手探りの冒険  マルセル・ベアリュ『夜の体験』
bea.jpg夜の体験
マルセル ベアリュ Marcel B´uealu
パロル舎 1998-02

by G-Tools

 フランスの作家、マルセル・ベアリュは、幻想的な掌編・短編で知られる作家です。本邦では二つの短編集『水蜘蛛』(白水uブックス)と『奇想遍歴』(パロル舎)が出ています。
 ベアリュの短編の魅力は、シュールなイメージと幻想的なストーリー展開。例えば『球と教授たち』という作品は、謎の球体に出会った教授たちが、球体について議論するという、ただそれだけの物語です。記憶に残りにくい傾向のある掌編でも、そのイメージの美しさで強い印象を残します。
 さて、そんなベアリュの長編『夜の体験』(高野優訳 パロル舎)は、どんな物語でしょうか。
 日常生活に違和感を感じていた、主人公の青年マルセル・アドリアンは、謎めいた眼科医フォア博士のもとを訪れます。博士の治療方針に従っているうちに、健康を回復したかに思えたマルセルでしたが、再び違和感を感じ、もう一度フォア博士に会おうと考えますが…。
 正直、あらすじを述べてもあまり意味のない作品だと言えます。大きく要約すると、青年の通過儀礼の物語、と言えるのでしょうが、全体として、非常に茫洋とした物語なのです。
 それでは、つまらないかと言うと、実は結構面白いのです。長編とはいうものの、部分部分はまとまった物語になっており、長編として楽しむというよりは、ところどころのイメージや細部を楽しむべき作品なのでしょう。
 様々な眼鏡、ひいては眼球まで作ってしまう天才的な眼科医フォア博士、恋人を探し続けるアパートの管理人の娘、話すことのできない二人組の青年など、エキセントリックなキャラクターたちが幻想的な物語を形作ります。
 主人公に至っては、作中、フォア博士によって、握り締めた物体を粉々にしてしまう能力を身につけてしまうなど、時折、唖然とするような展開があります。
 短編でもそうなのですが、このベアリュという作家、とても明晰で、文章自体に曖昧なところは全然ないのです。それがまとまったときに幻想的なイメージを帯びる、というのも不思議といえば不思議な話です。
 ベアリュの短編が肌に合う人なら、面白く読めるのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

面白そうなので、図書館で「水蜘蛛」を借りてきました。いつも刺激的なコラム、ありがたく拝読しています。僕の最近の読書はシュルレアリスムに興味が再燃して、画集やカタログ、研究書を読んでいます。天気がいいのに運動不足な毎日です。
【2013/05/25 22:21】 URL | オリヒロ #- [ 編集]

>オリヒロさん
ベアリュは僕のお気に入り作家の一人なのですが、短編はことに素晴らしいです。『水蜘蛛』も名作だと思うのでぜひ。もっと訳されてほしい作家ですね。
【2013/05/26 07:41】 URL | kazuou #- [ 編集]


>ベアリュの文章に曖昧なところはなく、まとまった時に幻想的なイメージを帯びる

なるほど。
ベアリュは何度か触れましたが、一つ一つの文章を拾う分には、
余り物語らしい雰囲気がなく、
どちらかというと厳選された単語にかえって退屈したものですが、
全体として見ると、扱うテーマや作風には不思議な魅力を感じたのです。
kazuouさんの言葉でとてもしっくり来ました。

この「夜の体験」、大分前に800円程で購入したのですが
先日ある古本屋で見かけ、値段を見ると50円・・・軽いショックを受けました(笑)

それにしても、ソムニウム叢書の「水蜘蛛」の装丁は美しいですね~
【2013/05/26 15:34】 URL | ryu #gX8OzRaA [ 編集]

>ryuさん
ベアリュ作品は、いわく言い難い魅力がありますよね。
『夜の体験』は、数年前にゾッキ本として古本屋にたくさん出ていました。ファンとしては悲しいですが…。

『水蜘蛛』は、白水社版の方が増補されていて多くの作品が収録されているのですが、親本の装丁が素晴らしいので、こちらも手放せません。幻想文学関連の書物は、装丁も凝ったものが多いので、愛書家心をくすぐりますね。
【2013/05/26 18:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/511-d37f8d46
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する