怪作の悦び  会津信吾/藤元直樹編『怪樹の腕』
4488013066怪樹の腕 (〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選)
会津 信吾
東京創元社 2013-02-27

by G-Tools

 20世紀前半にアメリカで一世を風靡したパルプマガジン、その中でも怪奇小説専門誌として、今でも語り継がれる雑誌『ウィアード・テールズ』。日本でも1970年代ごろから、アンソロジーの翻訳などで、たびたび紹介されてきました。
 しかし、数あるアンソロジーの中でも、この『怪樹の腕 〈ウィアード・テールズ〉戦前邦訳傑作選』(会津信吾/藤元直樹編 東京創元社)は、一味違います。
 新訳ではなく、戦前の翻訳を集めたアンソロジーなのです。つまり、ほぼリアルタイム、同時代に読まれた翻訳を集めようというコンセプトです。歴史資料的な意味合いもありますが、何より編者が戦前訳にこだわったのは「イカガワシさ」。このあたりの事情を序文から引かせてもらいましょう。

 戦前の〈ウィアード・テールズ〉邦訳は、現在までに三十七編が確認されているが、その約半数にあたる十八編が舞台を日本に置き換えたり、主要登場人物の性別を入れ替えるなど、原作に何らかのアレンジを加えた「翻案」作品なのである。その目的は創作に見せかけるためだったり、恐怖感を高めるための読者サービスだったりとさまざまだが、結果として只でさえB級テイスト濃厚な原作が、翻案というフィルターを経由することによって、さらに奇怪さ、イカガワシさがアップすることになった。こうした原作からの逸脱を「著作権意識がユルかった時代ならではの創意」として積極的に評価し、楽しもうというのが本書の狙いのひとつである。

 上記の文章にもありますが、翻訳だけでなく、舞台を日本に置き換えた改作、いわゆる「翻案」作品も収録しているのがユニークなところです。翻訳の正確さが問われる現代において、ゲテモノ視されかねない翻案を積極的に取り上げているのにも、好感が持てますね。
 さて、収録作品を紹介しておきましょう。

『深夜の自動車』アーチー・ビンズ/妹尾韶夫訳
『第三の拇(ぼ)指紋』モーティマー・リヴィタン/延原謙訳
『寄生手(きせいしゅ)─バーンストラム博士の日記─』R・アンソニー/栄訳
『蝙蝠鐘楼(こうもりしょうろう)』オーガスト・ダーレス/妹尾アキ夫訳
『漂流者の手記』フランク・ベルナップ・ロング/訳者不明
『白手(しろて)の黒奴(くろんぼ)』エリ・コルター/訳者不明
『離魂術(りこんじゅつ)』ポール・S・パワーズ/甲賀三郎翻案
『納骨堂に』ヴィクター・ローワン/大関花子訳
『悪魔の床(とこ)』ジェラルド・ディーン/大関花子訳
『片手片足の無い骸骨』H・トムソン・リッチ/大関花子訳
『死霊』ラウル・ルノアール/安田専一訳
『河岸(かし)の怪人』ヘンリー・W・ホワイトヒル/辺見素雄翻案
『足枷の花嫁』スチュワート・ヴァン・ダー・ヴィア/内海雄翻案
『蟹人(かにおとこ)』ロメオ・プール/大川清一郎翻案
『死人の唇』W・J・スタンパー/訳者不明
『博士(はくし)を拾ふ』シーウェル・ピースリー・ライト/大川清一郎翻案
『アフリカの恐怖』W・チズウェル・コリンズ/小幡昌甫翻案
『洞窟の妖魔』パウル・S・パワーズ/小幡昌甫翻案
『怪樹(かいじゅ)の腕』R・G・マクレディ/小幡昌甫翻案
『執念』H・トンプソン・リッチ/妹尾アキ夫訳
『黒いカーテン』C・フランクリン・ミラー/妹尾アキ夫訳
『成層圏の秘密』ラルフ・ミルン・ファーリー/妹尾アキ夫訳

 無名作家のオンパレード! 怪奇小説アンソロジーで見たことのある名前も見えますが、一般に名の通った作家といえば、オーガスト・ダーレスぐらいじゃないでしょうか。
 この本の編集方針から想像がつくとは思いますが、正直な話「傑作」は皆無です。いわゆるB級作品、他愛のない怪奇小説が大部分です。ただ、現代では書けないような、その単純さ、臆面のなさという点で、逆に今読んでも面白い作品が多く含まれています。
 また、特筆したいのは、それぞれの作品についての解説が非常に充実しているところです。作家だけでなく、訳者やその背景事情についても丁寧に解説してくれますし、翻案作品に関しては、原著からの変更点、別の訳者による翻訳がある場合は、それとの相違点まで語るという念の入れようです。
 収録作品に関しては、読んでもらうのに如くはないのですが、あえて面白かった作品をあげると、H・G・ウェルズ風の『離魂術』(ポール・S・パワーズ)、陰惨な復讐物語『片手片足の無い骸骨』(H・トムソン・リッチ)、アフリカを舞台にしたサイコ・スリラー『黒いカーテン』(C・フランクリン・ミラー)あたりでしょうか。
 B級作品について、懇切丁寧、まじめに取り組んだ「研究書」としての面と、とにかく面白い作品を集めた「アンソロジー」と、両面を持つ、非常にお得かつ楽しい作品集です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/506-05399cc1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する