幻影の恋  アドルフォ・ビオイ=カサレス『モレルの発明』
4891766964モレルの発明 (フィクションの楽しみ)
アドルフォ ビオイ=カサーレス Adolfo Bioy Casares
水声社 2008-10

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4796871322闇の国々II (ShoPro Books)
ブノワ・ペータース フランソワ・スクイテン
小学館集英社プロダクション 2012-10-31

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 先日、ブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテンによる、バンドデシネ作品『闇の国々2』が発売され、早速眼を通しました。1巻に劣らず、素晴らしい画力です。
 なかでも気に入ったのが、シリーズの第1作である、『サマリスの壁』です。
 足を踏みいれた者が戻ってこないという噂の立つ、謎の都市サマリス。議会から調査を命じられた主人公フランツは、はるか彼方のサマリスへ旅立ちます。ようやく到着したサマリスは、まるで迷宮のような都市でした。都市に対する不審の念を拭えないフランツでしたが…。
 都市の幻影に踊らされる主人公を描く幻想的な作品なのですが、訳者の解説を読むと、アドルフォ・ビオイ=カサレスの『モレルの発明』の影響が見られる、とのこと。
 それならば、と積読していた『モレルの発明』を引っ張り出してきて、読んでみました。確かに通低するものがあります。
 『モレルの発明』は、こんな話です。
 罪を犯し、警察に追われる語り手の≪私≫は、放置された建築物があるという無人島の話を聞きます。その島では、奇妙な病が流行っているといいます。隠れ場所を求める語り手は、あえてその島に上陸し、ひっそりと生活を始めます。
 ある日、無人島であるはずの島で、複数の男女に出会った≪私≫は驚きます。中でもフォスティーヌという名前であるらしい、美しい女性に≪私≫は惹かれます。見つかる危険を顧みず、フォスティーヌの前に姿を現す≪私≫でしたが、彼女は≪私≫がまるでいないかのように振舞うのです…。
 なんとも魅力的な作品です。中心となる謎はSF的なものなのですが、全体にミステリのかたちで話は進みます。かなり早い時点で、謎の正体はわかってしまうのですが、そこからの主人公の行動がまた興味深い。
 恋とは何なのか? 他者とは何なのか? ≪私≫のとった行動の意味とは? 再読、三読に耐える、哲学的な深みを持った作品です。 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
浅き夢みて酔ひもする
なるほど、謎の通底音とか、あくまで幻影(というか「表象された何か」)に執着するところが似てますね。

遡ればプラトンの洞窟(映画の起源にも挙げられますが)や仏陀の色説でしょうが、これらが退けるところに愛を見るのがフィクションらしい。

本朝なら「夢と知りせば覚めざらましを」くらいの表現で済ますところでしょうか。
【2012/12/19 20:30】 URL | 冬泉 #- [ 編集]

>冬泉さん
寓意が非常に強い作品なので、読んでいるときよりも、読後の方が味わいが増すタイプの作品ですね。字義通りの「幻想」小説といっていいかもしれません。
【2012/12/24 19:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


書きっぱなしで立ち去ってしまい、失礼しました。

実はどちらもとても好きな作品で、自身似たようなことを行ったことがあります。
それは、ある歌人の複数の短歌連作に、照応するような連作をそれぞれ作って発表し、送りつけるというもの。単独で成立しているものを勝手に私との応唱にしてしまうのですから、《私》の行為に通じるのではないかと思います。

するうち、今度はあちらから私に宛てた連作が届き、それにまたこちらが唱和して・・・
それ以上のことは起きていませんが、非常に嬉しかったですね。
考えてみると作品を為すことには、このようにして先行作品に対する声を響かせるという面もあるのではないかと。ある種創作論としても読める作品のような気がしています。

まあ、二次創作による同人活動が盛行をきわめている中で、こんなこと殊更めかして書くことでもないかもしれませんが。
【2013/02/27 22:49】 URL | 冬泉 #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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