見えない眼  暗闇をめぐる物語
おろち 1 (ビッグコミックススペシャル 楳図パーフェクション! 4) 暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫) この闇と光 (角川文庫) 夜が明けたら (ハルキ文庫) 閉じた本 (創元推理文庫) トリフィド時代―食人植物の恐怖 (創元SF文庫) 老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
 恐怖漫画の巨匠、楳図かずおに『おろち』(小学館ほか)という作品があります。謎の少女「おろち」を語り手に設定したオムニバス・ストーリーです。
 全体のトーンとしては、人間の不思議さ、業の深さを描く、といった感じの作品なのですが、このシリーズの一編に『眼』と題された作品があります。
 主人公の少女は生まれつき目が視えません。ある日、自宅に男が助けを求めて飛び込んできますが、男は後から来た男に殺害されてしまいます。
 殺人容疑で、少女の父親は逮捕されます。犯人が落とした身分証明書を見つけた少女は、仲の良い少年と協力し、犯人を見つけようと考えます。
 一方、犯人は身分証を落としてきたことに気づき、少女の家に現れます…。
 主人公の目が視えないのをいいことに、殺人犯が堂々と家に入ってきたりと、サスペンスたっぷりな作品なのですが、この作品を読んでいて思い出したのが、乙一の『暗いところで待ち合わせ』(幻冬舎文庫)でした。
 乙一作品では侵入してくるのが、悪人ではなく、善人の青年なのですが、どちらにせよ、目の見えない中で他人が侵入してくるというのは、惹きつけるものがあるテーマですね。
 視覚がない人間を主人公にした作品といえば、古くはアーネスト・ブラマの探偵マックス・カラドス、あとはベイナード・ケンドリック『指はよく見る』の探偵などがあります。これらの場合、ハンデがあるというよりは、視覚を失った代わりに、荒唐無稽なほど超人的な能力を身に着けてしまっているという点で、あまりリアリティがありません。
 逆にリアリティのなさを逆手にとって、メルヘン風の雰囲気を醸成するのに成功しているのが、服部まゆみ『この闇と光』(角川文庫)。母親を亡くし、視力を失った主人公の王女が囚われの生活を送るという密室劇です。
 ギルバート・アデア『閉じた本』(創元推理文庫)では、主人公の作家は、事故で視力を失ってしまいます。助手の青年によって与えられる情報で、作家は世界像を形成するのですが、その情報がもし歪んでいたとしたら…というサスペンス作品。
 ピーター・シェーファー『ブラック・コメディ』(構想社)は、アパートのヒューズが飛んでしまい、暗闇になってしまったという設定で演じられる舞台劇。暗闇の時には、舞台は明るくなり、逆に明るくなったときに舞台が暗くなるという演出になっているそうで、実に皮肉が利いています。
 流星を見た人類の大部分が盲目になり、その隙に食人植物トリフィドに襲われてしまうというのが、ジョン・ウィンダムの破滅SF『トリフィド時代』(創元SF文庫)。
 小松左京『夜が明けたら』『夜が明けたら』ハルキ文庫収録)では、地球の自転が停止したため夜が数ヶ月も明けなくなってしまった世界を舞台にしたパニックSF作品。さらに不条理なのが、ベンセスラオ・フェルナンデス・フローレス『暗闇』(東谷穎人編『スペイン幻想小説傑作集』収録)。世界全体が暗闇に包まれてしまったら…という不条理恐怖小説。かなり怖い作品です。
 小川一水のユニークな迷宮物語『ギャルナフカの迷宮』『老ヴォールの惑星』ハヤカワ文庫収録)では、主人公は反逆罪で、地下迷宮に落とされてしまいます。薄暗い迷宮の中で、生き延びるための最低限の食料のみが与えられます。混沌の支配する迷宮のなかで、主人公は社会をまとめようと考えます。
 視覚に限らず、五感が制限される…という状況はサスペンスを高めます。ただ五感の中でもとくに視覚が働かない、という状況は飛びぬけてリスキーなため、物語を語る際の強力な原動力になるのだと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
むむ…
『おろち』懐かしすぎ!
サラサラサラと腕の包帯を解く場面に、幼いエロスを感じてました(笑)
【2012/10/11 07:32】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


目の見えない主人公というところで、映画「暗くなるまでまって」オードリー・ヘップバーン。
「見えない恐怖」ミア・ファーローを思い出しました。
【2012/10/12 00:10】 URL | fontanka #- [ 編集]

>迷跡さん
『おろち』は、現在は小学館から新装版が出ているのですが、根強い人気のある作品ですね。
ホラーというよりは、サスペンス寄りの短編が多いのが意外でした。
【2012/10/13 08:04】 URL | kazuou #- [ 編集]

>fontankaさん
やっぱり映画でも「眼が見えない」というのは、サスペンスが盛り上がりますよね。最近では、ギリェム・モラレス監督『ロスト・アイズ』という映画が、主人公が失明していく過程を描いていて、なかなか面白かったです。
【2012/10/13 08:07】 URL | kazuou #- [ 編集]

情報量の限られた世界で…
個人的には盲目劇というと、ボアロー/ナルスジャックの「影の顔」が印象が強いです。疑心暗鬼に陥っていく主人公の内面と周囲から得られる情報の少なさとがあいまって、効果的にサスペンスが生み出されていた感じです。
「この闇と光」は、前半の印象から連想されるのが「レベッカ」や、もしかすると「小公女」あたりだったりしますが、後半は一転して前半を含めた全体が、何とも言えない不条理劇に転換してしまうのが凄い作品ですよね。前半部に感情移入して読んでいると足元をすくわれるという・・・

「おろち」は、中の他の作品群の印象が強すぎて、私の場合『眼』の印象はあんまりなかったですね・・・(次の作品が『血』ですし・・・)
楳図氏の作品は大半を読んでいたりしますが、「おろち」はビジュアルな恐怖から心理劇へと転換していく(その後は更にSFになって行ったりしますが)頃の作品と言われていますね。絵もこのころが一番緻密で、描きこんだ風景自体が精気を帯びて感じられ(部屋に意思があるみたいな…)、異様な雰囲気づくりに一役買っている気がします。
長編作品が有名ですが、個人的にはこのころの短編作品も好きです。一枚一コマで描いたショートショート集みたいなの(確か「闇のアルバム」)もあったりして、異色短編好きには結構いけるんじゃないかと思うのですが。

この記事を読んで逆に連想したのが、目は見えるが行動も取れないし意思疎通も出来ないパターン。ウールリッチが2、3の短編で書いていますが、他にもダールの短編で幕切れが印象的なのがあったような・・・(「ウィリアムとメアリイ」、でしたっけ・・・)
【2012/10/14 08:15】 URL | Green #- [ 編集]

>Greenさん
そういえば『影の顔』もありましたね。具体的な作品名は思い出せませんが、ウールリッチにもこの手の作品があったような気がします。

『おろち』の中では、『血』とか『姉妹』とか飛びぬけて印象的な作品があるので、『眼』は正直目だたないのですが、なかなか味のある短編だと思います。楳図かずおは、僕も短編のほうが好きです。『イアラ』とか、あと『闇のアルバム』もいいですよね。
【2012/10/14 12:33】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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