米澤穂信の3冊
 米澤穂信は、最近、代表作の≪古典部シリーズ≫がアニメ化されたりと、人気の作家ですね。僕が読んだ作品は『インシテミル』(文春文庫)だけだったのですが、どうも波長が合わないな、という感じで追いかけてはいませんでした。
 アニメ化された『氷菓』は面白く観ていて、もう一度作品を読んでみようという気になりました。いくつかの作品を読んだのですが、これがなかなか面白い。ちょっと追いかけてみようという気になりました。



4087468186追想五断章 (集英社文庫)
米澤 穂信
集英社 2012-04-20

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 古書店でアルバイトする青年の前に、父親が過去に書いたという5つのリドル・ストーリーを探してほしいという女性が現れます。調査を続けるうちに、女性の父親が巻き込まれたという事件の謎が浮かび上がり…。
 なんといっても、「リドル・ストーリー」をテーマにしているという着想が魅力的です。ちゃんと作中作として、リドル・ストーリーが埋め込まれており、このジャンルの作品が好きな人にはたまらない魅力となっています。



4101287821儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
米澤 穂信
新潮社 2011-06-26

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 ブラック・ユーモアに満ちた連作短編集です。連作をつなぐのは、謎の読書サークル「バベルの会」。ロアルド・ダールやスタンリイ・エリンを思わせる、異色短編集になっています。
 令嬢と彼女を慕う召使が殺人事件に遭遇する『身内に不幸がありまして』、邸を愛する管理人が、遭難した青年を監禁する『山荘秘聞』、成金の父親が雇った女性が作る料理を巡る奇譚『儚い羊たちの晩餐』などが面白いです。
 表題作『儚い羊たちの晩餐』にいたっては、スタンリイ・エリンの小説『特別料理』に登場する「アミルスタン羊」が言及されるなど、エリン作品に対するオマージュにもなっていて、異色作家好きとしては、にんまりとさせられます。



4101287813ボトルネック (新潮文庫)
米澤 穂信
新潮社 2009-09-29

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 二年前に事故で死んだ恋人、ノゾミを弔うため、東尋坊にやってきた主人公のリョウ。思わぬことから、崖から落下したリョウがふと気づくと、そこは金沢の自宅近くの公園でした。
 家に帰ったリョウを出迎えたのは、見たこともない少女。その少女サキは、自分はこの家の娘であり、リョウという息子は存在しないと言い張ります。リョウは、自分が生まれる前に死んでしまった姉が生きており、その代わりに自分が存在しないパラレルワールドにまぎれこんでしまったことに気が付きます…。
 今回いちばん衝撃を受けた作品がこれです。自分が生まれる代わりに、姉サキが存在する世界。リョウと異なり、陽性でポジティブなサキの影響で、世界は良い方向に変わっていました。自分は何のために生まれてきたのか? リョウは疑問を抱き始めます。そしてこの世界では、恋人ノゾミまでもが生きているのです。
 ノゾミの死の原因は? リョウをパラレルワールドに引きずり込んだのは誰の意思なのか? そもそもパラレルワールド自体が、実在の世界なのか? 多様な解釈が可能です。そしてすでに生きながら死んでいるような主人公リョウは、生き続けるのか? それとも死を選ぶのか?
 徹底的な絶望感と救いのなさ。後味の悪さは半端ではありません。けれど、これは稀にみる傑作だと思います。


 米澤穂信の本領は学園ものにあるようなので、やはり≪古典部シリーズ≫と≪小市民シリーズ≫も読むべきでしょうか。



この記事に対するコメント

『ボトルネック』のエンディングですが、
ぼくは藤野千夜の『ルート225』を思いだしてしまいました。
ものすごい寂しさを感じたとでもいうか・・・
【2012/09/22 18:50】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

>kennさん
『ルート225』、僕は原作は読んでいなくて、志村貴子のコミカライズ版を読んだだけなのですが、「寂寥感」という意味では似ているところがありますね。
ただ、『ボトルネック』の場合、「寂寥感」というよりは「絶望感」に近い感じがしますが…。
【2012/09/22 19:13】 URL | kazuou #- [ 編集]


儚い羊たちの晩餐、面白かったです。
食材を使い捨てるなんて主婦には絶対できない!
書物の王国14美食も読んでみたくなりました。
【2012/09/27 00:20】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
食材の使い方はすごかったです。一般人には真似できないですね。まさに「綺譚」という感じの作品でした。
≪書物の王国≫シリーズは、どの巻も面白いので、オススメですよ。
【2012/09/29 07:18】 URL | kazuou #- [ 編集]

アニメ化して欲しい!
「折れた竜骨」が図書館でずっと貸出中で文庫化を機に購入。
作者あとがきに修道士カドフェルシリーズへのリスペクトが捧げられて
いましたが、自分はキース・ロバーツの「パヴァーヌ」を思い出しました。
強く聡明な女性と、彼女に忠誠を捧げる騎士という構図、パラレル世界の
イングランドが舞台という所が。ボーイミーツガールでもあるし。
【2013/07/21 15:46】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

折れた竜骨
『折れた竜骨』は、また異色なミステリでしたね。「魔術」とか「超自然」が、作品世界内にちゃんと取り込まれているのが見事だと思いました。少々長いのが玉に瑕ですが…。
【2013/07/25 08:22】 URL | kazuou #- [ 編集]

米澤作品の世界観
ご紹介の文に惹かれて、何冊か米澤作品を買って、「儚い羊たちの祝宴」「さよなら妖精」を読みました。
「儚い羊たちの祝宴」を読み始めた当初感じたのは、あぁ、ものすごく日本人作家らしい作品だなということでした。何と表現していいのか分かりませんが、作者(語り手)と読者の間にも甘えの関係があるような… 私は翻訳もの好きなこともあって、その時点ではこれは褒め言葉ではなかったのですが、読み進むうちに印象が変わりました。語り手たちが皆利己的、自己中心的な感じの人物ですが、こういう場合はこの日本的な語りが、強烈な悪意の告白という内容にちょうどよい形に思えて来たので。

「さよなら妖精」も面白く読んだのですが、墓参の時に遭遇した悪意を推理するくだりがちょっと唐突な気がしました。まぁ、日常にある普段気付かない悪意に気付くというくだりなので、唐突で当たり前なんでしょうけど(あるいは唐突に感じるこちらがウブなのか?)、それでもやはり唐突感が抜けないというか・・・
そんな印象は、そういえばTVの氷菓の中でも時折感じていましたが、米澤さんにとって世界はそう見えているということなんでしょうか。。

因みに次にあともう1冊、世評の高いらしい「折れた竜骨」が控えています。
【2013/11/04 15:09】 URL | Green #- [ 編集]

冗長さ
米澤作品って、読んでいるうちは、大したことのない作品だと感じることが多いのですが、読み終わって作品のテーマとか構成とかを考えてみると、よくできた作品だったのかな、と感じることが多いです。
ほぼ全作品を読んでみて、気になってきたのは「冗長さ」。『折れた竜骨』なんか、その最たるもので、読み終わって「感心」はするのですが、「面白かった」かというと、微妙という…。
【2013/11/04 18:38】 URL | kazuou #- [ 編集]

リカーシブル文庫化を機に購入
ヒロインが自分の娘よりも幼いのに、健気で聡明で弟思いで泣きそうになりました。

「高速道路が来れば全てがうまくいく」
高速道路をオリンピックやリニアモーターカーや新幹線に置き換えると本当に怖い。
ヒロイン達の後日談を読みたい、ノベルゲーム化して欲しいと思いました。
【2015/07/20 15:35】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


米澤作品の登場人物って、身につまされる、といったところがありますよね。そう考えると、時代風俗が古びても、読めるタイプなのかも。
【2015/07/20 18:20】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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