幻影の帝国  アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』
4309630014エステルハージ博士の事件簿 (ストレンジフィクション)
アヴラム・デイヴィッドスン 池 央耿
河出書房新社 2010-11-16

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 アヴラム・デイヴィッドスン『エステルハージ博士の事件簿』(池央耿訳 河出書房新社)は、東欧を思わせる架空の国、スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国を舞台に、エステルハージ博士が様々な事件に遭遇するという、連作短編集です。
 「事件簿」というタイトルから、ミステリ的な趣向を期待する読者もいると思いますが、そこはあまり期待しない方がいいかもしれません。
 毎回、探偵役のエステルハージ博士が、怪事件に遭遇するのですが、その事件は超自然的なこともあれば、そうでないこともある、といった具合。W・H・ホジスンの『幽霊探偵カーナッキ』あたりと近い感触でしょうか。
 ただ『カーナッキ』と違うのは、主人公のエステルハージ博士は、事件に対してそれほど積極的に動くわけではないところです。事件が勝手に推移して解決してしまう、それを眺めているだけ…というパターンもあります。
 数十年間も年をとらずに眠り続ける少女をめぐる『眠れる童女、ポリー・チャームズ』、「人熊」と暮らす老女の生涯の謎を解く、不思議な人情物語『熊と暮らす老女』、天才とも山師ともつかぬイギリス人の魔術師を描いた『イギリス人魔術師 ジョージー・ペンバートン・スミス卿』などが面白いです。
 どの短編も、読み終わるまで、どういう方向に転ぶのか予想できない面白さがありますね。SF的、もしくはオカルト的な解釈、場合によっては、何も超自然的な事件はなかった、などという場合もあります。
 個人的にはお気に入りの作品となりましたが、万人にオススメできる作品とはいえません。単純に、ストーリーが面白い、または「謎解き」が面白い、といった作品ではないからです。ストーリーは面白いのですが、変な方向にねじれていたり、起承転結がはっきりしていない短編もあったりするのです。
 そういう意味で、作りこまれた世界観、バラエティ豊かな事件、風変わりな登場人物たちを愉しむ作品といった方がいいでしょうか。ミステリ好きよりは、幻想小説好きに親和性の高い作品だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

これは変な作品でしたねー。正直よく出版されたなあ、と。たしかにカーナッキと似ていて雰囲気を楽しむ要素がありましたね。しかもよりジャンルレスな独特な持ち味でした。スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国が影の主人公という作品ともいえると思います。「眠れる童女、ポリー・チャームズ」が個人的に一番好きでした。
【2012/08/18 23:17】 URL | さあのうず #- [ 編集]

>さあのうずさん
これ、雰囲気は素晴らしいですよね。好きな人は好きになると思いますが、合わない人は全然合わないような…。
「ポリー・チャームズ」は、単体で過去に訳されてますが、そのときはそんなに印象に残らなかったです。連作をまとめて読んだときに、味わいがわかるタイプの作品に感じます。
僕のベストは『イギリス人魔術師 ジョージー・ペンバートン・スミス卿』でしょうか。
【2012/08/18 23:27】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
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