幻想のプラハ  レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』
4336055173夜毎に石の橋の下で
レオ・ペルッツ 垂野創一郎
国書刊行会 2012-07-25

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 いつまでもこの世界に浸っていたい…。そう思わせられるような作品に出会ったのは久しぶりです。20世紀前半に活躍したオーストリアの作家レオ・ペルッツの『夜毎に石の橋の下で』(垂野創一郎訳 国書刊行会)は、ルドルフ2世統治下のプラハを舞台にした幻想歴史小説です。
 連作短編集の形をとっていますが、大枠としては、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世、ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスルとその美しい妻エステル、高徳のラビ・レーウらを巡る物語が中心となっています。
 いま「中心」とは言いましたが、これらの登場人物たちが、常時、表舞台に立ち、ストーリーを展開していくわけではありません。皇帝にせよマイスルにせよ、各エピソードに少しづつ現れる程度なのです。その合間に、芸人、貴族、錬金術師、道化、そしてケプラー、ヴァレンシュタインなど、実在の有名人物たちを含む登場人物たちが、様々な物語を繰り広げます。
 その意味で、決まった主人公がいるわけではありません。群像劇とでもいったらいいでしょうか。また、それぞれのエピソードは時系列的につながっているわけではなく、過去と現在、未来を行ったり来たりします。
 何事にも運のない男が処刑を宣告されるものの、魔術の効果で、一緒に牢屋に放り込まれた犬から話を聞くという『犬の会話』、妄想にとらわれた皇帝と臣下たちとのやり取りを描く『地獄から来たインドジフ』、宮廷錬金術師と彼を慕う道化との奇妙な友情物語『忘れられた錬金術師』などが印象に残ります。もちろんどのエピソードも、それ一編で一つの短編小説として完成されたものばかりです。
 ルドルフ2世、モルデカイ・マイスル、ラビ・レーウなどのメインとなる登場人物たちは、各エピソードに主役もしくは脇役として登場したり、伝聞的な形で情報が示されます。読み進むにつれて、読者の中に彼らの人物像が形成されていく仕組みです。
 そして結末に至り、冒頭の挿話の謎が解けるという、ミステリ的な興味も見逃せません。
 各短編の完成度もさることながら、一つの長編として読んだときの魅力はまた格別です。全体を通して、古き良き時代のプラハの空気が感じられるようです。
 これほどの作品が未訳だったとは、まさに驚き。幻想文学としてだけではなく、一般の文学作品としても一級の作品でしょう。広く読まれてほしい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
プラハの魅力
ペルッツで最初にこの作品を読みました。本当に短篇ひとつひとつが完成されていて、
さらに大きな物語に収束していく素晴らしさ!皇帝も善人とか悪人とかに、あてはまらない
複雑な人物です。皇帝の食卓の十二皿の料理が美味しそうですが全部借金なんですね。
清貧の思想なんかは一番遠いんだろうなあ。次に読んだ「最後の審判の巨匠」も
素晴らしかったです。
【2015/06/30 12:39】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


さらっと読めて、それでいて読後感は非常に充実しています。
現代の小説みたいに、分厚いページ数を費やさなくても、印象的な人物像が描けるんだな、と感心しました。
【2015/07/02 16:06】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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